新任のカン・チャンイル駐日韓国大使は「韓日関係は正常化しなければならないという確固たる意志」を強調しつつも、「肩の荷が重い」と何度も述べた。最近では、8日に韓国の裁判所が日本政府に対し日本軍「慰安婦」被害者への賠償を命じる判決を下したことについて、日本政府が強く反発している。カン大使は「今回の判決で、被害者の司法正義が実現したと思う」と言いつつも「今後の過程は両国政府が賢明に解決しなければならない」と述べた。判決の履行のために日本の国家財産を差し押さえる可能性については「一国の財産を差し押さえることは簡単な問題ではない。世界的に前例がない」と述べた。
カン大使は「進歩政権が韓日関係を解決しなければならない」と強調しつつ、歴史問題以外に在日韓国人の権益、輸出規制の解決など、韓日関係全般を回復するために努力すると述べた。22日に日本に赴任したカン大使は、2週間の隔離の終了後に外交活動を開始する。赴任前の19日午後、良才洞(ヤンジェドン)のある歴史研究所でカン大使に会い、韓日関係改善に向けた構想を聞いた。
-現在、韓日関係は「国交樹立以来、最悪の状況」とおっしゃったが、状況がこれほど悪化する過程で足りなかったこととは何か。
「2018年10月に最高裁(大法院)の強制動員賠償判決が出た。続いて11月に和解・癒し財団が解散すると、安倍政権は韓国が慰安婦合意を破棄したとして攻撃した。我々は慰安婦合意は破棄していない。和解・癒し財団は理事たちが辞めたので解散した。12・28韓日『慰安婦』合意で最も重要なのは、“政府は”この問題についてこれ以上問題を提起しないということだ。韓国政府はその後、慰安婦問題について日本政府に問題を提起したことはない。しかし日本は、韓国が合意を破棄したと主張し続けている。2018年12月には哨戒機事件が起きたが、これについての当時の日本政府の対応はよく理解できない。強制動員最高裁判決をどう解決するか、韓日両国の努力が必要な時に、安倍政権が哨戒機事件を拡大させてしまい、それから6~7カ月後には(輸出管理優遇国の)ホワイト国(グループA)から韓国を除外した。ホワイト国からの除外は安保的に非友好国という意味だから、韓国はGSOMIAを終了せざるを得なかった。これには安倍政権の大きな計算があったと思う。安倍前首相は、大日本帝国を夢見る理念家型の政治家だと思う。初めは「北朝鮮脅威論」を持ち出して軍事大国化を行い、ホワイト国からの排除の過程では「朝鮮民族脅威論」、「朝鮮半島脅威論」へと向かっていった。
-8日に韓国の裁判所が日本政府に日本軍「慰安婦」被害者への賠償を命じる判決を下した後、日本の態度はとても強硬だ。文大統領も「判決に困惑している」と述べた。大使としてこの問題はどのように扱おうとしているのか。
「強制動員と慰安婦の被害問題は違うと思う。強制動員判決は、被害者が労働し、受け取れなかった賃金、退職金、強制貯金させられた金などを要求し、日本企業に対して民事訴訟をした結果だ。慰安婦被害者たちの今回の訴訟は、金ではなく名誉を要求している。(原告の1人の)イ・ヨンスさんもメディアとのインタビューで、『我々は金ではなく名誉を求めている』と語っている。そして、この訴訟は日本政府を相手取ったものであり、強制動員裁判とは解決策が異なる。二つの判決を混同し、ごちゃまぜにして対応してはならない。慰安婦判決は、2つの訴訟の1つに対する一審判決が出たもので、まだ手続きが多く残っている。日本政府が国際司法裁判所に持ち込む可能性もある。日本が賠償に応じない場合、現金化問題はどうするかという問題もある。強制動員問題は現金化問題に直面しているため、より急がれる」
-日本が慰安婦賠償判決の履行を拒否すれば、日本の国有資産に対する差し押さえは可能か。
「最悪の場合はそうもなりうるが、簡単ではない。世界的に見ても前例がない。イタリアの法廷においては被害者たちがドイツに対して勝訴したものの、国際司法裁判所では敗れたというケースもある。一国の財産を差し押さえるのは簡単な問題ではない。至難な課題だ。しかし、今回の判決で、慰安婦被害者の司法正義が実現されたと思う。その後の過程は両国政府が賢明に解決しなければならない」
-韓日の意見の相違を解消するために、国際司法裁判所(ICJ)への提訴や第三国による仲裁も可能だとおっしゃったが。
「韓日両国が自ら意見の相違を解決できない場合は、国際司法裁判所(ICJ)に持ち込む方法と、韓日請求権協定に規定されている、第三国に仲裁を任せる方法がある。当時、国会議員として、私は強制動員被害については国際司法裁判所に持ち込もうとの立場だった。今はノーコメントだ。慰安婦判決は起こされた訴訟のうち、第1次訴訟の一審が終わった状態であり、3月に出る2つ目の判決がどんな結果となるかも分からない。日本から国際司法裁判所への提訴の話が出ているが、政府レベルで正式に要求したものではない。今後の過程は多く残っている」
-12・28慰安婦合意が「両国間の公式な合意」であることを、このところ韓国政府は強調している。一方これまでは同協約の手続き上の問題を指摘してきている。合意に対する政府の立場はどのようなものか。
「政府の継続性の問題だが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も12・28慰安婦合意は『韓日両国政府間の公式合意だった』とおっしゃっている。私は大使としては言葉を慎むが、慰安婦合意の締結当時は外交統一委員会にいて、ユン・ビョンセ長官に手続き的な正当性を喪失した協定だと問題提起し、国会の批准を受けろと言った。朴槿恵(パク・クネ)政権は本当に間違っている。その時も今も、被害女性が望むのは名誉であって金ではない。日本政府の10億円だけ持ってきて、それで解決しようと言うが、受け入れられるのか。先の大統領選挙では、与野党関係なしに全ての大統領候補が、この合意は廃棄しなければならないと言っていた。だが、いったん認めるべきことは認めることにして、文在寅政権は合意が有効だと言っているのだ。政府レベルでは慰安婦被害に関する問題提起は一度もしていない。この協定は政府に帰属する事案だ。和解・癒し財団はなくなったが、日本が拠出した約6億円が銀行に残っている。韓日がよく話し合い、この金と他の基金を合わせて記念事業や教育事業を行うなど、複数の解決策があり得る。問題を解決しようとする意志が重要だ」
-最近の記者懇談会で韓日問題の「政治的解決策」を強調したのはどのような意味か。
「韓国は三権分立が徹底しており、政府は司法府の判決に介入できない。日本は司法府の判断において、外交的事案では政府の話を聞くことになっている。条約や外交的事案については、司法の判断を自制するという原則もある。これは導入している国もあれば、していない国もある。日本の国際法体系と韓国とは少し違うということを日本も理解しなければならない。一方、韓国は完全な三権分立の国だが、政府ができることは政治的に解決しなければならないという課題を抱えている。司法府の判断は尊重するものの、政治的に解決する方法はないのか、これを真剣に考えるべきだ」
-最近の懇談会で「強制動員問題を解決する12の方策がある」とおっしゃったが、具体的には。
「私個人の意見ではなく、専門家が提示した方策がたくさんあるという意味だ。2+2(韓日の企業と政府)、2+1(韓日の企業+韓国政府)の基金設立案、ムン・ヒサン議長案、日本企業との請求権協定の恩恵を受けた韓国企業に金を出させる方法、両国の経済団体が基金を設立する方法、治癒基金設立案もある。韓国政府が被害者たちの差し押さえた日本企業の債券を購入して高齢の被害者たちに金を支給し、日本企業に求償権を行使しようという代位弁済案もある。韓国政府が協議案を出せば、私がメッセンジャー役を果たすつもりだ」
-強制動員判決の履行方法を探る過程では、「被害者中心主義」の原則を守らなければならないが、被害者に直接会って意見を聞く作業は行ったか。
「大使の任命状を受け取ってからはできていないが、この5年間、常に被害者団体に会ってきた。この方たちは私が市民運動を一緒にしてきた方々で、政治をしながらも随時話してきた。共に民主党の「歴史と正義特別委員会」の委員長として党・政府・大統領府会議も数回開き、被害者、市民、弁護士たちの意見を大統領府、首相室、国会に伝える架け橋の役割をしてきた。しかし、100%支持を得るというのは不可能だ。被害者中心主義は被害者の100%の同意を得られるわけではない。政府は被害者の説得に最善を尽くすべきだが、いつかは決断を下さねばならない。それが政治だ。批判が嫌だから何もしないというのではダメだ。私が強調したいのは、我々進歩政権が韓日関係を解決しなければならない、ということ。保守政権は歴史に対するコンプレックスのため難しい」
-今年は韓日ともに、選挙や五輪など、国内日程が多い。国内の政治的状況を考慮すれば、両国が今の状況を維持する以外に画期的な解決策を出すことは難しいという分析もある。
「少し批判を受けることはあっても、韓日関係は進歩政権が解決せねばならない。実は今の状況は、李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵政権時代に下されるべきだった司法判断が、司法壟断のために今までずっと先延ばしになっていたために、文在寅政権がその『つけ』を払っているのだ。もう負債は後回しにせずに解決しよう」
-安倍前首相は理念家型の政治家とおっしゃったが、菅首相は違うと思うか。
「菅首相は実事求是型、つまり実利主義の政治家だと考える。韓日の非正常化が日本の助けにならないと判断すれば、雰囲気を変えることもありうる。実利主義者の菅首相は韓日関係を解決しようとするのではないかと期待している」
-日本の輸出規制問題はいかに解決しうるか。
「輸出規制は日本にとっても韓国にとっても助けにならない。輸出規制問題のためにGSOMIA問題が生じたのだから、同時に解決してしまわねばならない。これは簡単にサインさえすればよい。意志さえあれば済む。これまで日本で会ってきた大半の自民党の国会議員も、ホワイト国除外問題は解決すべきだという立場だ。ところが歴史問題は国民感情とつながっているため複雑だ。歴史問題はテーブルに載せて真剣に議論し、一つひとつ解決していこうと提案したい」
-赴任にあたり、大使としてどんな覚悟をしているのか。
「私はずっと韓日関係の正常化を主張してきた。大統領が私を駐日大使に任命したことそのものが、日本に対する強力なメッセージとなったと考える。大統領も信任状を下さる時に、困難な時期に日本の専門家が赴任することになり、期待するところが大きい、懸命に努力してほしいと言った。今すぐ持っていく大統領からのメッセージはないが、韓日関係を解決したいという意志は伝えるということだ。大統領府とやり取りする通路は作っておいた。大使は歴史問題だけを扱いに行くのではない。在日韓国人の権益問題、コロナへの対応協力、東京五輪への協力などがあり、韓日関係をどのように修復させていくかが重要だ。歴史は最も重要な問題だが、相手の身になって考えるという原則で韓国の立場を伝え、事案ごとにアプローチすべきだ。私は両国関係が正常化し、友好協力が強化されれば、韓国と日本の国民と国の双方にプラスになると確信している」