サムスン電子のイ・ジェヨン副会長の運命を分けたのは、破棄差し戻し審法廷が導入を勧告した順法監視制度だった。ソウル高裁刑事1部(チョン・ジュニョン裁判長)はサムスンに「順法監視委員会(順監委)」の導入を提案し、サムスンに希望を抱かせたが、18日の結論は実刑と法廷での拘束だった。
■「順法監視の本質は減刑ではない」
「順法監視制度の本質は違法行為の予防にあり、減刑にあるのではない。被告人(イ・ジェヨン)とサムスンの真剣さは肯定的に評価できるものの、新たなサムスンの順法監視制度はその実効性の基準を満たしていない」
裁判所は、サムスンの順監委活動を量刑事由として反映しなかった理由をこのように説明した。「順監委は、今後発生し得る新たな類型の危険を定義し、これに備えた先制的な危険予防と監視活動を行うまでには至っていない」と判断したのだ。裁判所は、国政壟断事件で浮き彫りになった、外部への後援金の形で支出するやり方の違法行為に対する対応策も不十分だと判断した。また、サムスングループ未来戦略室の後身と評される事業支援タスクフォースのようなコントロールタワー組織に対する監視策も具体的に提示されていないと判断した。
「現在の順監委は、サムスンの経営権継承に関する違法行為を統制することは難しい」と裁判所が判断したことも、サムスンとしては痛かった。ソウル高裁は、現在順監委と協約を結んでいる関連会社7社のほかにも、「最高経営陣の違法行為は、サムスン電子、サムスン物産、サムスンSDSなどでも発生し得る」と警告し、「サムスンSDS新株引受権付社債の低価格発生事件当時、同社は非上場企業であったし、最近サムスンバイオロジックス関連の(粉飾会計や証拠隠滅などの)多数の刑事事件が発生したことがこれを裏付ける」と指摘した また、検察が昨年9月にイ副会長を追起訴した経営権違法継承事件についても、「順監委発足前の事案だとか、一審判決がまだ言い渡されていないという理由で、サムスン物産と第一毛織の合併事件の調査には着手していないという順監委の説明は説得力が足りない」と指摘した。さらに、「かつて政治権力に賄賂を提供するために使用された虚偽の業務委託契約方式を『法的危険』要素と見て管理する必要があるなど、制度も補完しなければならない」とし、「かつて全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)大統領などに対する贈賄事件で裏金が作られた方法を、サムスンが自ら分析し、その対応策を講じなければならない」と勧告した。
■酌量減軽を経て実刑判決
イ副会長が朴前大統領に提供した「賄賂」の性格も、量刑判断の核となる要素だった。イ副会長側は、朴前大統領の職権乱用的な要求に従って受動的に賄賂を提供したとして、善処を訴えた。いっぽう特検は、イ副会長も継承作業のための請託を目的として積極的に贈賄したとし、減刑ではなく加重の要素だと主張した。
これについてソウル高裁は「被告は朴前大統領の賄賂要求に便乗し、積極的に賄賂を提供し、黙示的ではあるものの、継承作業を支援するために大統領の権限を使用してほしいという趣旨の『不正な請託』を行った」とし、イ副会長の「受動的贈賄」との主張を受け入れなかった。会社の資金で賄賂を作った横領容疑に「犯行の手口が非常に不良な場合」という量刑加重事由を加えるとともに、贈賄容疑でも積極的贈賄▽請託内容が違法または不正な業務執行と関連した場合を加重事由として認めたのだ。ただし、先に賄賂を要求したのが朴前大統領だったということ▽業務上横領の被害がすべて回復していること▽大統領の賄賂要求を断ることの現実的困難さなどを減刑事由として認めた。これらをすべて総合した最高裁の量刑基準にもとづく量刑勧告範囲は懲役4年~10年2カ月だが、同高裁は「(イ副会長に)実刑を宣告するとしても、量刑基準をそのまま適用するのには不当な側面がある」とし、それより低い刑を言い渡した。これは、裁判官の裁量によって刑を半分に減らす「酌量減軽」が適用された結果だ。イ被告のケースでは、横領額が50億ウォン(約4億6900万円)以上のため、5年以上の懲役が言い渡されるべきだが、酌量減軽を経ることで最終量刑は懲役2年6カ月となった。