大統領府が25日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事態に関して交わした親書の内容を急きょ公開した。大統領府が異例にも外交的な「タブー」に近い首脳間親書の公開にまで乗り出したのは、漁業指導員銃殺事件で激昂した世論をなだめ、状況悪化を防ごうとする狙いがある。野党が「政府無対応」を攻勢ポイントとし「大統領の沈黙」を政治争点化する状況を遮断するという意図もうかがえる。親書は、北朝鮮統一戦線部が国家情報院(国情院)に渡したという。北朝鮮が開城連絡事務所爆破を前後して南北間ホットラインをすべて断ったと明らかにした状況でも、「統一戦線部-国情院」ラインは生かしてあったということだ。
ソ・フン大統領府国家安保室長はこの日のブリーフィングで「文在寅大統領が、最近交わした親書の内容もありのまま国民にお知らせするように指示した」とし、8日に文大統領が金委員長に送った親書の全文と12日に受けとった返信を公開した。ソ室長は午後2時、北朝鮮の通知文記者会見を行った後、2時間後に再び記者室を訪れ、全文を読み終えた。大統領府は当初、親書の内容を27日頃に公開しようとしていたが、時期を繰り上げてこの日全文を公開した。今回の事件が、南北首脳が関係を模索する大きな流れの中で意図せず起こったことという点を浮き彫りにするうえで効果的だと判断したのだ。南北首脳が親書を交わしたのは、3月以来6カ月ぶりのことだ。
両首脳は親書で、COVID-19と水害克服に向けたこれまでの努力を激励した。文大統領は「新型コロナウイルスで非常に長く苦しい悪戦苦闘の状況から集中豪雨、数回の台風に至るまで、私たち皆に大きな試練の時期」とし、金委員長の災害現場訪問に共感すると述べた。金委員長も「文大統領の親書を読みながら、文面にあふれる心からの慰労に深い同胞愛を感じた」とし「悪性ウイルス(新型コロナウイルス)拡散と相次ぐ台風に見舞われ、誰も代わりをすることのできない厳しい大戦を乗り越える大統領の苦労に思いを馳せた」と応えた。
南北関係改善の意志も交換した。文大統領は「わが8000万の同胞の命と安全を守ることは、必ず守らなければならない一番の根本だ」と強調した。金委員長も「ひどい今年のこの時間が早く過ぎ、良いことが次々と待ち受ける、そんな日々が一日も早く訪れることを心待ちにしている」と述べた。大統領府の主要関係者はハンギョレの電話取材に対し、親書について「不幸な事件が起きたとはいえ、お互いのコミュニケーション、信頼が水面下であった」とし「両首脳が硬直した南北対話と関係改善を図っていた」と述べた。
しかし、親書交換と金正恩委員長の謝罪があったという事実だけで、南北関係の回復を占うことは無理があるという診断も少なくない。遺体の共同捜索や越境から銃撃死亡に至る一連の過程に対して、信頼できる具体的な調査結果を発表するなどの更なる誠意を見せなければ、首脳間の意思疎通の努力が、韓国社会内部の共感はもとより国際社会の信頼を得るのは容易でないということだ。