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特使の拒絶・軍指示まで全権行使…キム・ヨジョン第1副部長、“後継者”の座固める

登録:2020-06-18 06:40 修正:2020-06-18 10:54
前例のない幅広い動き 
北朝鮮最高指導者の権限まで委任され 
談話も“金正恩委員長級”の扱い 
対南・対外総括…「党中央」説まで 
 
金正恩氏の「沈黙」は最後の切り札? 
「キム第1副部長、南北・朝米会談の失敗に対し 
強硬基調で責任突破を狙ったもよう」 
情勢転換の時は金正恩委員長登場という予測も
金正恩国務委員長とキム・ヨジョン朝鮮労働党第1副部長が2018年4月27日午前、板門店の平和の家2階の会談場で開かれた南北首脳会談に出席し、自分の席に向かっている=板門店/韓国共同写真記者団//ハンギョレ新聞社

 「キム・ヨジョン党中央委員会第1副部長は、見え透いた策略がうかがえるこの不純な提案を徹底的に許可しないという立場を示した」

 「労働新聞」17日付2面に掲載された「15日、南朝鮮当局が特使派遣を懇願する三文芝居を演出した」という「朝鮮中央通信」の記事の一節だ。「労働新聞」は「韓国は、文在寅(ムン・ジェイン)“大統領”が我が(金正恩)国務委員会委員長同志に特使を派遣したいと思っており、特使はチョン・ウィヨン国家安保室長とソ・フン国家情報院長にすると共に、訪問時期はできるだけ早くしたいが我々が希望する日にちを尊重するとして、(特使の派遣を)懇願した」と報じた。

 「労働新聞」が明らかにした特使を断った主体は、キム・ヨジョン第1副部長だ。北朝鮮の「神聖な最高尊厳」の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長ではない。キム第1副部長が事実上、全権を行使していることを示している。前例のないことで、特に注目に値する。

 これに先立ち、キム第1副部長は13日夜の談話で、「(金正恩)委員長同志と党と国から与えられた私の権限を行使する」と述べた。しかし、その「委任された権限」に最高指導者の固有の権限である特使交換の決定権が含まれるというのは次元の違う話だ。キム第1副部長が「ナンバー2」であり、「後継者」になったのではないかという分析が相次いでいるのもそのためだ。

 実際、最近韓国に対し強硬基調の砲門を開いたキム第1副部長の4日の談話以降、北朝鮮当局と「労働新聞」の動きは、内容と形式面で前例のないものだ。「キム・ヨジョン談話」を「金正恩談話」のようなレベルで扱っている“証拠”があまりにも多い。

 まず、統一戦線部は5日、報道官談話でキム第1副部長が「対南(対韓国)事業を総括する」と発表した。「祖国統一」を国是とする北朝鮮で、対南事業の最高責任者は金正恩国務委員長であり、実務責任者は労働党対南事業専門部署である統一戦線部のチャン・グムチョル部長だ。

  第二に、キム第1副部長の“指示”を「労働新聞」を通じて数回公開した。 「キム・ヨジョン第1副部長は5日、対南事業部門に指示を出した」(5日の統一戦線部談話)、「キム・ヨジョン同志は8日、南北間のすべての通信連絡線を完全に遮断するよう指示した」(9日の「朝鮮中央通信」報道)が代表的な例だ。首領の「唯一領導体系」を神聖視する北朝鮮で、「労働新聞」に「指示」の事実が掲載される主体は、原則的に唯一無二の最高指導者である金正恩委員長だけだ。

 第三に、「4日のキム・ヨジョン談話」から16日までの14日間、労働新聞で1日も欠かさず抗議群衆集会など「各界の反響」と関連部門の後続措置が大きく報じられている。青年同盟や職業総同盟、女性同盟など労働党外郭機関主導の抗議群衆集会では、例外なく「朝鮮労働党中央委第1副部長同志談話の朗読」が行われる。平壌市党委員長、国家計画委員長ら高官の「寄稿文」も「労働新聞」に掲載された。

 「談話の朗読」や「各界の反響」などは、最高指導者の「特別談話・指示」を支える北朝鮮特有の人民動員方式だ。公式の権力構造上「序列2位」とされるチェ・リョンヘ国務委員会第1副委員長にも当てはまらないことだ。

 さらに、キム第1副部長の「権限」には、朝鮮人民軍に対する“指示権”も含まれているようだ。 キム第1副部長は13日の談話で、「次回の対敵行動の行使権は、朝鮮人民軍総参謀部に与えるつもりだ」と述べた。それを受け、人民軍総参謀部が16日と17日の2日間連続で「後続措置」を発表した。キム第1副部長をめぐるこのような特異な動向は、北朝鮮の権力構造と2018年以降の朝鮮半島情勢の流れという異なる2つの側面に分けて考える必要がある。

 チョン・セヒョン民主平和統一首席副議長は10日、「事実関係はまだ確認できていない」という前提付きで、「最近、キム第1副部長を党中央と呼ぶように指示が下されているという」と述べた。さらに、「金正恩委員長は内部統治と経済問題の解決に力を注ぎ、対南・対外問題は事実上“ナンバー2”のキム第1副部長に任せたようだ」と説明した。チョン副議長は15日には、「北朝鮮へのビラ問題をどのように克服するかによって、キム第1副部長がナンバー2の座を固めることも、外されることもありうる状況なので、(韓国に対する)攻勢を非常に強めている」とし、「南北関係の冬は長引くかもしれない」と見通した。

 ムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官は最近、「キム第1副部長が2018年以降、南北・朝米首脳会談に深く関与したが、その結果の失敗に対する責任を負って前面に出たものと見られる」と指摘した。今回の攻勢にはキム第1副部長の「自我批判」の側面が強く、絶体絶命の状況を打開するために進めているという分析だ。ムン特別補佐官が北朝鮮の最近の対南強硬基調は、「実存的危険を感じた正面突破」の性格を帯びているとして、「軍事行動」の危険性まで警告したのもそのためだ。

 それならば、金正恩委員長の“長い沈黙”はどう見るべきか。一部では金委員長の「健康悪化説」や「権力内部の異常動向」などが再び持ち上がっているが、北朝鮮事情に詳しい消息筋は「金委員長の健康には特に問題はない」と伝えた。南北関係の波乱万丈を長く経験してきた元老らは、「いつか情勢転換を念頭に置いた最後の安全弁としての意図的な沈黙・不在」だと見ている。大統領府の主要関係者も「金正恩委員長が前面に出ない事実に注目する必要がある」と述べた。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/949881.html韓国語原文入力:2020-06-18 05:00
訳H.J

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