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生活防疫、日常の距離置きが成功するには

登録:2020-04-04 09:57 修正:2020-04-04 12:17
今月1日午後、市民たちが車の通行が禁止されたソウル汝矣島の汝矣西路を歩きながら桜を眺めている。この日を最後に、新型コロナの拡散を防ぐため汝矣西路は2日から全面規制された//ハンギョレ新聞社

 疲れた。人の気も知らず咲きほこる桜が憎々しい。春の外出は言うまでもなく、このままでは夏休みも家に閉じこもっていなければならないようだ。人に会うのが仕事なので、携帯電話の日程表には昼食と夕食の約束がぎっしりと詰まっているが、3月に書かれた約束は3つだけ。それもすべて内勤する会社の同僚だ。それさえも一緒にご飯を食べられる人は、この上なくありがたく思わなければならない。外回りの記者が多い新聞社の特性上、もともと事務所の常駐人数は多い方ではないが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡散状況が深刻になってからは、事務所で対面業務をしなければ新聞作りができない人を除いては、みんな会社の外で働けと言われているので、顔を合わせられる同僚は片手で数えられるほどだ。

 「社会的距離を取る」(ソーシャル・ディスタンシング)はこのように、日常を切実な存在にした。憎かろうが可愛かろうが、人びとと食卓を囲んでつまらない話を交わし、お互いの目を見ながら酒をくみ交わすことが、どんなに大切なことだったかを改めて思い知る。当初、政府が高レベルのソーシャル・ディスタンシング期限を5日までとしたときは、「2週間だけ」我慢すれば良いと思っていたのに、そうではなかった。中央防疫対策本部のクォン・ジュヌク副本部長が2日、定例ブリーフィングでこのように釘をさした。「生活防疫は、(5日までと予告した)高レベルのソーシャル・ディスタンシング以外にも、一般的なソーシャル・ディスタンシング、すなわち2メートル離れること、生活上で密接度を下げること、発熱などの症状があれば外出を控えることなどが含まれる」 。防疫当局が大規模な感染の再拡散を防ぐために防疫体系の転換を予告して準備中の「生活防疫体系」が、ソーシャル・ディスタンシングの日常化だということだ。

 すでにCOVID-19以前のように有名な食事処に人が並ぶくらい、市民たちはこの状況に疲れているのに、これが可能だろうか。しばし時計を11年前に戻してみよう。「グローバル・スタンダード」と国家競争力を特に強調した李明博(イ・ミョンバク)政権は、同じ理由を掲げて歩行者の通行方向を右側通行に変えた。88年間「左側通行」をしてきた韓国市民は、右側通行と国家競争力に何の関係があるのか、と首をかしげながらもすぐに慣れてきた。それよりずっと前の1999年から、一部の団体と政府は「忙しい人が先に行けるように譲ろう」とエスカレーターに1列に並んで乗る運動を展開したが、人々はこれにもすぐに慣れた。しかし、故障と安全問題などが提起され続け、政府は2000年代後半に入ってまた2列に並ぼうと宣伝した。効果がなかった。10年以上経っても、1列並びは続いている。

 長きにわたる習慣を変えるこれらの例のカギは、「便利さ」だ。普通、道を歩く時は左側を歩こうが右側を歩こうが大きな違いはない。政府が規則を変えようと突きつけた根拠を鼻で笑いはしたが、あえてそれに抵抗する必要もないという話だ。エスカレーター1列並びは違う。片方を空ければ急いでいたり忙しかったりする人が利用できて、便利で効率的という経験をすでにしてしまっているために、これを戻すにはその「便利さ」を超える何かが必要だった。しかしそうではなかったため、いまも多くの市民は1列に並んでエスカレーターに乗る。

 これらの事例は、COVID-19に対応した生活防疫体系が効果的に作動するためには、「便利さ」というカギが必ず必要であることを示している。1台のバスに乗り損ねまいと、後方ドアのステップに見知らぬ人と重なり合うほど体を縮めて押し込んで乗り、熱が出てもむりやり仕事場に出かけ、咳が止まらなくても話題の「ホットプレイス」に行って自撮りするというようなこり固まった習慣を変えるためには、個人の市民倫理だけでなく、政府が提供する構造的な「便利さ」が必須要素となる。

 決して簡単なことではない。出退勤時間と勤務形態・時間を多様に変えて、誰もが顔色を伺うことなく休めるように後押しするためには、金が必要だ。零細自営業者や零細事業所の労働者、非正社員、臨時・日雇いなどの脆弱階層が、このような便利さから疎外されないようにするためには、より多くの金が必要だが、これは結局、政府が負担しなければならない。これを取りこぼせば、生活防疫の重要性を強調する政府が自ら足を引っ張るかたちになる可能性が非常に高い。社会的対話であれ、社会的合意であれ、政府が生活防疫体系をどれほど便利で効率的に設計または後押しするのか、注目しなければならないわけだ。

チョ・ヘジョン社会政策チーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/health/935605.html韓国語原文入力:2020-04-04 02:30
訳C.M

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