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ホームレスの存在届け出たら公共が支援…「『市民チャットンイ』になってください」

登録:2020-01-28 02:42 修正:2020-01-28 07:41
古紙回収のホームレス、肺炎で住民が届け出、行政支援 
市民チャットンイ20万人、自発的に困難な隣人を届け出
ソウル駅でホームレス強制排除が開始された2011年8月22日午後、あるホームレスがショッピングモールへとつながる駅舎のロビーの片隅で寝ている=『ハンギョレ21』パク・スンファ記者//ハンギョレ新聞社

 Aさん(56)は2年前、ソウル永登浦(ヨンドゥンポ)のホームレス施設から街に出た。日雇いで生活費を稼いでいた彼は足と肩を怪我し、もう仕事ができなかった。古紙を拾って売るのが唯一の仕事だった。一日の稼ぎは3千ウォン(約280円)ほどだった。Aさんは2004年に脳病変と診断され、脳腫瘍の手術を受けている。一生薬を飲まなければならなかったが、金がなくて病院の診療も受けられなかった。結核も病んで手足は痩せ細ってしまった。両親は二人とも亡くなっており、残る2人の兄弟も連絡が途絶えた。

 このようなAさんの人生に変化が生じたのは、陽川区木1洞(ヤンチョング・モク1ドン)の住民Bさん(79)に出会ってからだ。Bさんは陽川公園を散歩するたびにAさんの安否を確認していた町内の住民だった。Bさんは食事の代わりに1500ウォン(約140円)のマッコリを飲んで済ませるAさんに一杯のクッパ(スープご飯)をおごったりしていた。昨年11月、冬が近づくと、BさんはAさんのために自分の家の地下の部屋を提供した。Bさんは2015年1月から住所不定になっていたAさんの事情を知って、地区住民センターに彼を連れて行った。過料4万5千ウォン(約4200円)を肩代わりし、抹消されていたAさんの住民登録証も再発行された。

 Bさんの「届け出」でAさんの存在を知った陽川区は、Aさんに生計費、医療費、生活必需品などを支給。訪問看護師も毎日Aさんを訪れ、健康状態をチェックした。地域のカトリック教会や職能団体も冷蔵庫、IHクッキングヒーター、電気マットなどを提供してくれた。Aさんは基礎生活保障の個別化給与とソウル型緊急福祉生計費も申請した。肺結核の診断を受けたAさんは20日あまりBさんの家に留まり、現在は恩平区(ウンピョング)の市立ソナム病院に入院中だ。

 ソウル市は、周辺に困っている人を見つけたら行政に通報する「市民チャットンイ(チャットンイは訪問地区住民センターの意)」を運営している。これは、市民が自発的に恵まれない隣人を地区住民センターやタサン・コールセンター(ソウル市が運営するコールセンター。市民の問い合わせや要望に答える)に知らせるようにする、公共と市民が共に作りあげるアウトリーチ・プログラムだ。「アウトリーチ」とは「手を差し伸べる」を意味する英語。

 Bさんはハンギョレの電話取材に対し「私は年寄りだから市民チャットンイとかいう言葉はよく知らないが、周りに困っている人がいたら助け、届け出なければと思った」とし「寒い冬の公園で眠ってしまえば気づかぬ間に凍死してしまうのではと心配になった」と話した。陽川区木1洞のユン・ヨンイル訪問福祉チーム長は「貧しい人達を直接発掘して届け出てくれる住民が時々いる。周囲に貧しい人達がいれば届け出てくれる人達を『市民チャットンイ』と呼ぶ。この人たちの助けが大きい」と述べた。

 「市民チャットンイ」はソウル市民カードアプリを通じてオンラインで加入するか、住民総会や地域の祭りに市民チャットンイのブースが出ていれば、そこでの簡単な署名でも加入できる。昨年12月31日現在で、ソウル市の市民チャットンイの数は20万5089人。署名加入は18万1764人、アプリでの加入は2万3325人。届け出件数は8563件だ。ソウル市の関係者は「市民チャットンイは、貧しい隣人を助けたいという気持ちがあっても言い出せなかった人たちに『あなたは困っている人を行政に知らせることができる』と公共が伝える政策」と紹介した。

「市民チャットンイになってください!」市民チャットンイのポスター=ソウル市提供//ハンギョレ新聞社

 市民チャットンイとなったソウル市民は、周囲で恵まれない人々を見つけたら各地区の住民センターやタサン・コールセンターに電話すればよい。ソウル市民カードアプリの「市民チャットンイ」公示にメッセージをつけて通報することもできる。市民チャットンイの通報を受けた区は地区住民センターの連絡先が書かれた案内文を、届け出のあった世帯に直接渡す。本人からの要請を受けたり公共の介入が必要な場合は、福祉プランナーや訪問看護師が直接訪問する。その後、受け付けられた事案に対し、地区住民センター、福祉館、交番、学校などが集まって統合事例管理会議を開催し、公的支援や管理に入ることになる。

イ・ジョンギュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/area/capital/925748.html韓国語原文入力:2020-01-27 11:01
訳D.K

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