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[ルポ]「ロケット」のように飛びまわり徹夜で配送9時間…コーラが飯がわり

登録:2020-01-02 02:24 修正:2020-01-02 10:35
2020労働者の食卓
走る機関車の中で弁当を食べる鉄道労働者の食卓//ハンギョレ新聞社

飯は生を支える。50年あまり前、平和市場の縫製工場労働者チョン・テイルは、バス代をはたいて飢えた裁断補助にたい焼きを買って与えた。発電所労働者キム・ヨンギュン氏と駅のホームドアを修理していた九宜(クイ)駅のキム君は、カップラーメンを飯代わりに持ち歩いていた。このように「飯ではない飯」が時代を貫いて労働者の暮らしを雄弁に語っているにもかかわらず、労働する暮らしは依然としてみすぼらしい。

ハンギョレはチョン・テイル烈士没後50年を迎える2020年、企画ルポルタージュ「労働者の食卓」と題し、我々の生活周辺の見えないところで社会を支える労働者たちの飯と労働、暮らしを記録する。他人の朝食のためにおかずを明け方に配送する労働者、一日中子供たちの昼食の支度をし、片付ける給食労働者、走る機関車の中で弁当を食べる鉄道労働者、明け方に地下鉄を洗う清掃労働者の食卓は私やあなたの飯であり、私やあなたの人生だ。

このシリーズは飯そのものというより食卓の物語だ。私達が出会った労働者は、まともな「食卓」で飯を食べることができていない。運転席や休憩室、機関室などの見えないところで、まともに膳も構えず、あるいは低い食卓に粗末なおかずをならべて飯を食べた。「労働者の食卓」は、その食卓の高さのように低い場所の記録だ。

//ハンギョレ新聞社

写真:(左上から時計回りに)徹夜する配送労働者の夜食のコーラ、トイレで米を研ぐ地下鉄の清掃労働者、トレイに盛った学校給食調理員の食事、高麗人移住労働者の朝食、地下鉄清掃労働者の食事、江南駅の鉄塔の上で高所籠城中のサムソン解雇労働者の食事、カンボジアから来た農村移住労働者の食事、古紙回収高齢者の昼食の豆乳とカステラパン。

 45秒。マンションの棟入口にトラックを駐車したチョ・チャンホ(44)が4階に上がり、届け物の箱を玄関前に置いて出てくるのにかかった時間だ。トラックが止まると、チョ ・チャンホは車のドアも閉めずに、アパートの中に弾かれるように消えていく。玄関先に箱を置き、エレベーターに向かって後ずさりしながら、客に送る証拠写真の撮影も忘れない。1秒を争うようにトラックに帰ったチョ・チャンホは、すぐに息を切らせた。12月の夜の冷たい空気が顔をえぐるが、その合間にも汗はあふれだしていた。マンション団地の明かりが一つずつ消えていく午前1時、出勤してからようやく3時間たったチョ・チャンホは、もう「ロケット」のような推進力が尽きた様子だった。しばらくトラックの運転席に埋もれるようにぐったりとしていたチョ・チャンホは突然体を起こし、コンソールボックスに置かれた「黒い燃料」のふたを開けてがぶ飲みした。その黒い燃料は、コーラだ。

配送労働者「クーパンマン」チョ・チャンホさんが12月17日未明、金浦市のあるマンション団地で、深夜の配送途中にコーラを飲んでいる。夜10時から翌日の朝7時まで仕事をするチョさんは時間内に配達を終えるため、飯の代わりに炭酸飲料で糖分を補給しながら働いている//ハンギョレ新聞社

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深夜の配送が変えた人生

 「飯まで食べていると時間内に配送できません。徹夜で走っているんですが、食べたら腹の調子も悪くなりますし」。12月17日夜、京畿道金浦市(キンポシ)のあるマンション団地で会ったチョ・チャンホが手際よく配送する箱を積み上げながら話した。彼はオンライン流通会社「クーパン」の配送員「クーパンマン」だ。昨年2月からクーパンは深夜の配送を開始し、彼は昼と夜が逆転した人生を生きている。毎日夜10時に出勤し、朝7時に配送を終える。

 前日におかずを注文して眠りにつき、目を覚ますとドアの前に商品が来ている。そんな便利な朝食を提供するため、チョ・チャンホは徹夜で町を走る。午前0時の直前に注文が入っても朝7時前までには配送を終えなければならない。他人の朝食を用意するために町を回るチョ・チャンホは、自分の体のためには間食さえ取れない。記者と9時間同行している間ずっと、彼は汗で流れ出る水分とロケットのように動くために消費されるエネルギーを、糖分たっぷりのコーラで補った。トラックのコンソールボックスには、350ミリのコーラ瓶二つが常備薬のように置かれていた。

 一晩でチョ・チャンホは150件を配送する。「ベースライン(割当量)」である。通常の宅配会社とは異なり、クーパンは世帯で配送件数を数える。世帯別では150件だが、実際の配送量は300個あまりに達する。この日、チョ・チャンホの客の中には、重量20キロを超える家具を注文した人も、飲み物を12箱も箱買いした人もいた。一般の宅配便のように、一定の容積を超える商品に超過手数料を課すこともない。1万9800ウォン(約1860円)以上買ったら配送費は全て無料だ。

 即日配送を意味するクーパンの「ロケット配送」は技術ではなく、人がロケットのように動くからこそ可能なサービスだ。物流センターの日雇い労働者たちがロケットのように物品を分類し、現場の配送職がロケットのように車を運転しながら、ロケットのようにマンションの上から下まで走り回らなければならない。すべては「当日の朝7時」という制限時間の圧力が生んだ結果だ。だからチョ・チャンホは1秒も疎かにしない。食事のための休憩時間1時間を使うどころか息つく暇もないと愚痴をこぼしながらも、チョ・チャンホは「私のスピードは100人中10位以内のはず」と自慢して見せた。そう言いながらチョ・チャンホは体を動かし続けた。

配送労働者「クーパンマン」チョ・チャンホさんが12月17日未明、京畿道金浦市場基洞のあるマンション団地で、走って配送している。チョさんは前日の夜10時から朝7時までに決められた配送物量をこなすため、一時も休まずに走った//ハンギョレ新聞社

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革新は不安に取って代わられた

 昨年7月にチョ・チャンホが入社教育を受ける時ですら、まだ人がロケットのように動くほどではなかった。「トントントン。おはようございます、お客様。クーパンマンです」。会社の講師がチョ・チャンホに初めて教えてくれた顧客応対法だ。講師は「皆さんは配送職ではなくサービス職だ」と強調した。数年前、チョ・チャンホがまだ数学講師として働いていた時、クーパンは配送員を正社員として採用し、他にはない親切なサービスを展開すると宣伝して称賛を受けた。しかし、すぐにサービスは速度へと、革新は不安へと急速に取って代わられた。現在約5千人のクーパンの職員のうち、正社員の割合は20%に過ぎない。「労働がきついので1年以内に10人中7人は辞めていきます」。やはり非正規職のチョ・チャンホは言う。

 クーパンのような企業は絶えず革新を競い合う。技術やアイデアで人を便利にするのが革新だが、革新の恩恵を受けるのは顧客と企業の管理者だけだ。顧客のための革新競争に現場労働者は「消耗材」として使われる。企業管理者のための革新競争としては、クーパンの労務管理が代表的だ。クーパンマンの間には「階級」がある。正社員と非正規の区分だけではない。労働者は「ノーマル」と「ライト」等級に分けられる。ノーマル等級の75%程度を配送するライト等級は、力量評価を経なければノーマル等級には昇進できない。ライト等級の給与は最低賃金水準だ。この2つの等級が全てではない。物量単位で契約する「フレックス」は社員ではない。最近は一日単位で雇用する日雇いの「フリー・クーパンマン」も新設された。

 ライト等級ができた後、ノーマル等級は物量に合わせることができなければ、それとなく圧力がかかる。管理職たちは実績の低いノーマル等級の労働者たちに「大変でしょう?」「自分の物量も消化できなければ同僚に迷惑がかかるでしょう」と言ってライト等級に移ることを「勧める」。1日200万個以上の物量を配送するクーパンの拡張傾向に比例して、革新は急速にクーパンマンを分断している。わずか6カ月前には「これほどの職場はない」と言っていた仲間は身震いし、他の職場に移っていった。「お客様が物をひと月だけ使って返品するように、クーパンマンも一度使ってすぐ返品してしまうようなものですよ」。

 「協業」という美名のもと、地域の配送員30人を1つの組(キャンプ)にまとめたのも革新的労務管理の一つだ。組のメンバーに迷惑をかけたくないという気持ちも、組のメンバーよりもよい評価を受けたいという気持ちも、与えられた割当量を無理にこなすよう強制することに変わりはない。締め切り時刻の朝7時が近づくと、会社は15分に1回ずつ地域内の残りの配送量を組のメンバーたちに伝える。本人の割当量を超える配送を処理しても、受け取れるのは1件当たりわずか700ウォン。しかし、組内部で組のリーダーが相対評価で点数を付ける際、これが参照され「レベルアップ」につながり、給料に反映される。作業が遅くて割当量を処理できないメンバーがいても、クーパンが配送員1人当たりの割当量を常に増やしてこられたのはこのためだ。

 「ロケット配送」を最高の価値として掲げる組織では、労働者の安全は配慮される余地がない。会社は貨物重量が「25キロ」を超えなければ、外注には出さない。チョ・チャンホは4~5個ずつ荷物を運ぶ時もカートを使わない。腰が曲がるほどの重さに耐えていた。「プロセスをすべて守っていたら、時間内に配送できません。カートに積んで引っ張っている時間がどこにあるんですか。持って走らなきゃ」

「クーパンマン」チョ・チャンホさん(44)が12月17日朝、京畿道金浦市雲陽洞で深夜配送を終えた後、後輩のソ・ヨンボムさん(42)と食べたコムタン一杯//ハンギョレ新聞社

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朝7時、ソルロンタンで会食

 トラックの荷台を満たしていた段ボール箱が残らず消え、漆黒の空に青白い黎明が映し出されると、チョ・チャンホは安堵の混じった笑みを浮かべて言った。「今日は問題なしに終わりました」 。誤配送や割当量の達成失敗など、特別な事故はなかったという意味だ。いつのまにか350ミリのコーラ二瓶はきれいに空になっていた。

 朝7時に配送を終えて8時にようやく退勤したチョ・チャンホは同じキャンプ(地域)の昼の班で働く後輩ソ・ヨンボム(42)と会って、ソルロンタンと2杯の飯を空にした。チョ・チャンホは、だいたい朝の退勤後に家に帰ってすきっ腹を満たすが、たまには昼夜間のクーパンマンに会って、会食を兼ねて「夜明けのヘジャンクク」を一緒に食べる。朝10時から夜8時まで働くソ・ヨンボムはソルロンタンを前にしてこう語った。「今ほど会社の圧力が強くなかった時は、出勤がわくわくして仲間との絆もありましたよ」。スプーンが行き来するソルロンタンの器のように、その感情の器もますます中身が少なくなっている。

 大晦日の夜にもチョ・チャンホのトラックはコンソールボックスに350ミリのコーラ二瓶を積み、いつもと変わらず金浦の隅々を回った。この日、彼のトラックには新年の幸せを祈る家族の餅(雑煮の餅)がいっぱいに積まれていたはずだ。1月1日から運動を始めると決心した人たちが注文した運動器具も、英語の勉強をすると計画した人々の本も積まれていたはずだ。

 こうして誰かに朝から喜びを与える品物を積んで走るチョ・チャンホのトラックのドアには「健康ストレッチ」案内図が貼ってある。宅配労働者の持病である筋骨格系疾患に続き、深夜配送で逆流性食道炎と胃炎にもなったという。その話をするチョ・チャンホに、案内図にあるようにいつストレッチできるのか、記者は最後まで聞くことができなかった。

オム・ジウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/922775.html韓国語原文入力:2020-01-01 05:00
訳D.K

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