韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了が延期され、両国は激しい衝突こそ避けたものの、対立の火種となった強制動員被害者問題の解決策を探るという課題は残った。歴史、経済、安保問題が絡み合っているだけに、接点を見出せない場合、韓日関係は再び崖っぷちに追い込まれることになる。ハンギョレは、京畿道一山(イルサン)のKINTEX(キンテックス)で韓国国際交流財団、ソウル大学日本研究所、早稲田大学韓国学研究所の共催で行われた『2019韓日市民100人未来対話』(22~24日)に参加した強制動員問題の専門家で東京大学韓国学研究センター長の外村大氏と、日本の政治・外交、国際政治の専門家であるソウル大学日本研究所教授のナム・ギジョン氏と23日に会い、対談を行った。最近の韓日関係、強制動員の解決策などについて意見を交わした。ナム教授は、現在争点となっている強制動員被害者問題について、「日本の責任が明確に認識されず、再び取り繕う方向に進めば、大きな抵抗が起きるだろう」とし、原則を守るべきと述べた。外村教授は「日本の世論などからみて、日本政府が責任を認め、政府が主導的に何かを為すのは相当の間、難しそうだ」とし、「韓日市民社会、すなわち民間領域が主導すべきだ」と述べた。
ナム・ギジョン:韓国の最高裁判所による日帝強制動員被害者への賠償判決に対する日本の輸出規制、「GSOMIA」終了決定などで韓日が対立している。最近の韓日関係をどう見ているか?
外村:日本社会を見ると、ますます難しくなっている。1990年代の日本社会では韓国などのアジアの隣国に謝罪し、補償すべきと考える人が過半数を超えていた。特に20代の若い人々がそう考えていた。彼らが40~50代になった今「嫌韓(韓国嫌悪)」や誹謗的な意見を多く持っている。なぜ変わったのか。韓国、中国が歴史問題をめぐって日本を批判する時、自分を批判していると考える傾向がある。また、(日本軍慰安婦問題に関し)90年代の「女性のためのアジア平和国民基金」、2015年の和解・癒やし財団などが失敗し、韓国は約束を守れるのか、このような考え方をする人が日本社会で増えた。
「ムン・ヒサン案」解決策となり得るか?
ナム:韓国と日本が「売り言葉に買い言葉」で衝突していたが、GSOMIA終了6時間前に韓国政府が終了を猶予する決定を下したことで、衝突はいったん回避される状況になった。しかし、2018年に始まった朝鮮半島平和プロセスが生み出した平和の空間が、再び安保の空間に変質しつつあるという考えを拭い去ることができない。米国が介入したことで平和の機会が縮小し、また韓米日の安保三角形に機運が戻りつつあるというもどかしさ、そのようなものが韓国にあるようだ。
また一方で、まだ終わったわけではない。輸出規制、さらに根源的には強制動員被害者問題がそのまま残っている。最近、ムン・ヒサン国会議長が打ち出した案が話題になっている。韓日の企業と国民の自発的な寄付、2015年韓日政府間合意で作られたが解散した「和解・癒やし財団」に日本が出した基金の残高60億ウォンで、慰安婦被害者を含めて解決するというものだ。どう考えているか?
外村:被害者をどこまでと見るかということからして難しい。日本政府の決定の下で動員された人もいれば、そうでない人の中にも強制奴隷労働をした人もいるからだ。範囲が広い。被害者と認められなかった人に対しても、日本の民間で慰霊祭、慰労金支給、真相調査などが行われるべきだと思う。民間部分の努力について述べたのは、日本政府が責任を認め、政府が主導的に何かをするのは相当の間、難しいと思うから。まず、韓日の市民社会で努力するのが良いのではないかと思う。
ナム:ムン・ヒサン議長の提案について一部の人々は現実的だとする一方、国民の義援金に加え、慰安婦合意の金が投入されることに対しては韓国国民の疑念がかなりある。韓国政府がこのような形で金を受け取れば、慰安婦問題がまだ解決されていないと考える人たちは、これ以上責任の所在を確認できないのではないかと考える可能性がある。またムン・ヒサン案は日本の植民地支配の違法性を認めた最高裁の判決の大前提も明確ではないようだ。慰安婦問題まで含めて日本の責任を明確にせず、また取り繕う方向に進めば、より大きな抵抗が起きるだろう。日本の社会はどのように見ているのか?
140年以上不平等だった韓日関係正す機会
外村:日本の植民地支配は違法であり当然日本に責任があると私は思うが、国民的合意でやっていくことは今は難しい。それよりも植民地支配の不平等性による様々な問題があったということを日本社会の中で確認していく作業が必要だ。このような常識もあまり認めない雰囲気があるからだ。
ナム:不平等という視点を提起されたが、同意する部分がある。1990年代には、日本国民の過半数に過去の日本の行動が不当だったという認識があったが、そこに韓国は違法性を認めよと求めるので何かずっとすれ違ってきたのが韓日関係だった。日本と韓国の出会いを振り返ってみれば、1876年の不平等な江華島条約で出会い、これを是正する機会を持てないまま今まで来た。1910年に朝鮮が植民地に転落したことで機会を失い、1965年の韓日条約でも明確にできず、今まですれ違いが続いている。不平等があったということを日韓が共有することが出発点だというのに共感する。
外村:不平等の問題を提起したのは韓国だけのためではない。民主主義社会、人権が大切と考える社会で、「ある民族は劣等で、私たちは上だ」というふうに考えるのは問題が多い。日本が公正な社会を維持するためにも、このような植民地的思想を克服しなければならない。また、日本と韓国が民主主義、平和、人権のために努力しようという共通の目標を確認することも重要だ。
ナム:歴史問題を中心に韓日関係が厳しいにもかかわらず、民間交流は活発な方だ。昨年は「1千万韓日国民交流時代」を迎えたほどだ。近ごろ韓日関係が良くないにもかかわらず「2019韓日市民100人未来対話」も維持されている。これをどう見るか?
外村:今年で3年目だが、だんだんと活発に、良い雰囲気の中で運営されてきているようだ。最初は大学の研究者たちによる司会や発題が多かったが、今回は一般市民たちが積極的に参加していて良かった。研究者は地域社会活動について知らないことが多い。ソウルと東京中心に考えている部分も多い。実際には地方と首都圏、世代間の差が大きいのではないか。様々な人が直接会って話し合うことが大切だと思う。
(※『韓日市民100人未来対話』は、両国の学界、市民社会、一般市民が参加して北東アジアの情勢変化による共通の懸案を議題に、創意あふれる解決策を共に模索する行事だ。1年に1回、韓国と日本で交代で開催され、今年が3回目だ。今回の行事では、韓国・北朝鮮と日本の平和協力時代、和解教育、ジェンダー、多文化家庭、都市再生、災害などのテーマについて話し合った)
韓日国民の「国益」を超えて「公益」に発展させるべき
ナム:私も主催機関の一つとしてこのように考える。韓日が国益を超えて公益を見出し、発展させていくことを希望する。それが韓日だけではなく東アジアの全体的な公益へと拡散する契機となればという思いで「100人未来対話」を引き続き発展させていければと思う。韓国国民に伝えたいことは?
外村:日本が不法に韓国を支配したという前提のもとに、それでも植民地時代にも困難な中、韓日交流があり、日本人にも戦争被害者がいたということなども理解してもらえればと思う。結局、軍国主義が問題なのだが、もう少し多面的に歴史を理解してほしいと思う。
ナム:私が日本国民に言いたいことは、韓国に対して「約束を守れ」とよく要求してくるが、日本国民も国際社会に対してした約束を守るよう努力してほしいと思う。韓日に限っても「金大中(キム・デジュン)-小渕共同宣言」(1998年)があるが、日本と韓国の約束だ。植民地支配に対する反省と謝罪も入っているが、最近注目しているのは、小渕首相が韓国国民が成し遂げた民主化を高く評価すると述べたこと。2016~2017年のろうそく革命など今でも民主化、平和のための努力をしているが、日本国民にも韓国のこのような面を尊重してほしい。また、金大中大統領も評価していたが戦後平和憲法の下で日本が平和を維持し、国際社会に貢献してきたということを高く評価している。韓国社会で日本に対してこのような評価があるということも日本国民に知ってほしい。私たちが理解していなかったことを再び取りあげて理解すれば、今の困難な状況を少しは明るくできるのではないかと思う。
外村大教授は、韓国風に「84学番(84年大学入学)」(1966年生)と自分を紹介するほど韓国をよく知っている。東京大学の教授で専攻は日本近代史だ。大学(早稲田)時代、在日朝鮮人の指紋押捺拒否運動などに参加し、韓国に対する関心が高まったという。『在日朝鮮人社会の歴史学的研究-形成・構造・変容』、「植民地期における在日朝鮮人の文化活動」、『朝鮮人強制連行』など、論文や著書も韓国に関するものが多い。
ナム・ギジョン教授は日本の政治と外交、国際政治の専門家だ。日本の代表的な進歩派知識人である和田春樹教授の教え子で、2000年に東京大学で博士学位(「朝鮮戦争と日本:『基地国家』における戦争と平和」)を取得 。東北大学、国民大学教授を経て2009年からソウル大学日本研究所教授 。