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「城北4人母娘」借金苦に生活苦…債務調整と福祉連携のセーフティーネット急務

登録:2019-11-13 04:01 修正:2019-11-13 08:33
銀行とノンバンクに債務、督促 
制度内で資金繰り不可能な状況 
緊急支援も焼け石に水 
 
債務調整過程では福祉資源につなげられず 
返済能力ない人に借金負わせる社会 
「再起可能だという確信得られる構造作らねば」
ソウル市内のノンバンクの前に、融資関連の案内文が貼ってある//ハンギョレ新聞社

 12日、警察は、ソウル城北区(ソンブクク)の集合住宅で死亡しているのが発見された70代の母親と40代の3人の娘について、生活苦のための自殺と見ていると明らかにした。

 同日、ソウル地方警察庁の関係者は「4母娘は銀行とノンバンクに債務があり、督促状や遺書などが発見された情況からして、生活苦によって起きた自殺と推定する」と説明した。ノンバンク(銀行を除くすべての制度内金融機関)にも債務があれば、もはや金融機関から金を借りることはできない。警察は母娘が闇金融を利用したか否かは確認されていないと明かした。

 今年7月、老母と娘は、基礎年金口座を差し押さえ防止専用口座に変えるため住民センターを訪れた。その月は毎月きちんと納めてきた健康保険料さえ滞り始めるほどの危機的状況だった。にもかかわらず、なぜ母娘は何の助けも求めなかったのか。

■ 見えない心理的な苦痛

 債務調整の専門家らは、母娘が「督促」によって深刻な心理的苦痛を抱えていた可能性が大きいと説明する。督促状が発見されたということは、電話・ショートメール・訪問などあらゆる手段により金を返すようにとの連絡を受けていたことを意味する。ジュビリー銀行のホン・ソンマン事務局長は「ローン返済が滞ると一日に何度もひっきりなしに電話がかかって来る。正常な営業や業務が難しくなるし、このような状況が繰り返されれば失職に至る」とし、「過度の取り立てによる被害を防ぐために債権取り立て法があるが、規定が抽象的であるため具体的な行為に対して違法行為かどうかを判断するのは難しい。金融監督院はガイドラインで取り立てのための連絡回数を制限しているが、現実には守られていない」と説明した。

 ホン事務局長が直接会った債務者らは、自己肯定感が落ち、何かしようとする自立意志も大きくなかった。金策に駆けずり回ったり法律相談などを受けたりする過程で不親切な応対を経験するとともに「だめだという答え」もよく聞くため、公共機関に対する不信も大きい。母娘の心理も似ていたと推定される。城北区役所の関係者は「7月にお母さんと娘さんが地区住民センターに来た時、担当者が『どうされましたか』と聞いた。しかし、娘さんが恥ずかしそうな表情を浮かべて話すのを避け、失礼になるのではと思いそれ以上聞けなかった」と語った。過度な借金を抱えた人は経済的な困難だけでなく、心身の健康、社会的関係まで悪化するという研究結果もある。このため、日本政府は自殺対策として返済能力に比べ過度な借金を抱えている多重債務者問題に取り組んでいる。

 ソウル金融福祉相談センターのパク・ジョンマンセンター長は、今回の事件を機に、韓国社会が構造的にどんな失敗をしても立ち直れるんだというメッセージを伝えていないことを振り返ってみるべきだと述べる。裁判所の公的債務調整の過程でも、債務者たちは社会的な信頼を損ね倫理に背いたのだから厳罰に処すべきだという雰囲気が依然として残っている状況では、彼らが再起できるという確信を持つことは難しい。借金を返済できなかった債務者に殺到する非難に比べ、返済能力のない最貧困層にすら金を貸す債権者への非難が少ない文化についても考えるべきである。

ある金融機関の家計向け融資相談窓口//ハンギョレ新聞社

■「臨時処方」緊急福祉支援受けるとしても

 保健福祉部は極限的な危機に直面した低所得層に生計・医療費などを提供する緊急福祉支援制度を運用している。最後のセーフティーネットである基礎生活保障制度も死角が広く、需給可否の判断に時間がかかるため、一時的な措置が必要なためだ。母娘はオンラインショッピングモールを運営していたため、緊急福祉支援を受けることは容易ではなかった。緊急福祉支援法上、支援可能な危機的状況である「休廃業、事業所の火災などによる営業困難」に当たらないためだ。ただし、ソウル市が運営するソウル型緊急福祉支援を利用すれば、生活苦の確認を経て生計費などが得られる。住んでいる自治体の財政余力や担当公務員によって、似たような状況でも緊急福祉支援が受けられるかどうかが変わることになる。しかし、辛うじて支援を得られたとしても、借金問題が解決されなければ無用の長物だ。借金の返済方法が見えてこなければ、信用回復委員会による金融機関との私的債務調整(迅速債務調整、フリーワークアウト、個人ワークアウト)か、裁判所の公的債務調整(個人破産、再生)を申し立てなければならない。住民センターではこのような手続きについて支援を受けることができない。ただ、ソウルをはじめ複数の自治体は金融福祉相談センターを開設し、財務相談や債務調整、福祉連携などを手助けしている。母娘がこのような機関を訪れたかどうかは確認されていない。

■ 負債問題なき旧態依然の福祉

 昨年、城南市(ソンナムシ)の金融福祉相談センターで債務調整などの相談を受けた1321人の月所得は、比率が大きい順に無所得(33.6%)、100万ウォン(約9.4万円)未満(23.5%)、200万ウォン(約18.8万円)未満(22.6%)だった。10人に5人は月所得が100万ウォン未満だったが、福祉支援を受けるケースは4人に1人に止まった。債務調整の過程で福祉が有機的につながらなければならないが、現実はそうではないということだ。

 城南市金融福祉相談センターのカン・ミョンスセンター長は「地区住民センターを通じて居住地や緊急福祉支援などを調べるが、つなげるのは容易ではない」と説明した。ソウル金融福祉相談センターのパク・ジョンマンセンター長も「福祉との連携を10件試みれば2~3件実現する水準」とし、「政府が庶民金融政策を通じて金融脆弱階層に融資をしているのだが、借金ではなく福祉が必要な状況」と語った。

 結局、借金問題や経済危機によって生死の岐路に立たされる悲劇を防ぐためには、過剰債務の予防、債務調整などの金融政策だけでなく、福祉、雇用、心理的問題までを含む包括的な対策作りが急がれる。また、複雑な社会保障制度を単純化し、アクセスしやすくする必要がある。ソウル大学のパク・ジョンミン教授(社会福祉学)は「年間離婚件数(2018年10万8700件)より、裁判所への個人再生・破産申請件数(2018年13万4千件)の方が多いほど、過重債務は広範な問題」だとし、「これまでは世帯所得と資産の分析をもとに福祉政策を立ててきたが、家計負債まで考慮しなければ全体像は見えてこない」と助言した。

パク・ヒョンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/916725.html韓国語原文入力:2019-11-12 15:46
訳D.K

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