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“チョ・グク対戦”外の人々の怒り…「自分は主人公になれない映画みたいだった」

登録:2019-10-30 11:17 修正:2019-10-30 21:26
[チョ・グクその後]再び問題は不平等だ 
論文第1著者、インターンなど他の世界の話 
上位20%が1%の特別恩恵を批判するとき 
80%は「私たちの怒りは車の騒音くらいの扱い」
ソウル交通公社で「九宜駅のキム君」のようにホームドア関連業務に携わるイム・ソンジェさん(右)と塩光メディテック高校3年生のパク・ジスさんが24日夕方、ソウル麻浦区で会って話を交わしている=キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

 腹が立つというよりも違和感があった。「高校生が論文の第1著者って?」。すなわちそれが「親の力」だという気がした。同時に、二人とも高卒の“自分の両親”を思い浮かべた。父は牛乳販売代理店で事務管理をし、母は療養保護士として働いている。彼らも40~50年間一生懸命に生きたが、暮らしは変わらずギリギリだ。18歳のパク・ジスが、高校進学時に特性化高校を選択したとき、両親は「ジスはうちにお金がないから大学進学をあきらめたのか」と心を痛めた。別にそういうわけではなかったが、「うちの両親は何も悪くないのに」という思いがよぎった。

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「なぜ『学歴があって良い暮らしをする人たちの怒り』ばかりが注目されるのか」

 不公正さに対する怒りは、「チョ・グクの娘の特別恩恵の議論をめぐって、なぜ学歴があって良い暮らしをする人たちの怒りばかりが注目されるのか」という思いとともに湧いた。ソウル大学と高麗大学の学生たちの集会を見た後だった。彼らは「私たちもそこそこ卑怯な入試制度に合わせて生きてきて恥ずかしかった。だから行動する」というふうに言うと思ったが、そうではなかった。「1%のエリートの道を歩む人がいて、その下に20%くらいの中・上流層がいて、残りの80%の人生があるというでしょう。ところが、20%に属する人たちが1%に向かって『ちょっとの差なのに私たちどうして学位も受けられず、論文の登載もできないのか』と怒っていました。そんなことは、最低賃金ももらえずあえぎ、家庭や社会が夢をサポートしてくれない80%の問題なのに、私たちの問題は扱われないから頭にくる。私たちはここではただの『車の騒音』くらいにしかならないみたい」

 これまで不平等の議論は主に最上位1%を対象に、残りの99%が連帯して怒りを表出する形で構成された。権力と結託した財閥の不法・便法による継承から、脱税や投機、暴行や麻薬のような問題まで、1%はめったに処罰されなかった。もしも処罰されたとしても、前官たちが参加した豪華な弁護団の裏に隠れてたちまち社会的地位を回復した。ところが、上位20%に属しながら政治的な正しさと進歩的な世界観に基づき上位1%の問題点を告発する人たちが韓国社会にもいた。「江南(カンナム)左派」と呼ばれた彼らを見て、その下の80%のどこかに属する大衆は「同じ船に乗った」と信じた。

 「チョ・グク事態」はその信頼を壊した。「上位20%」は今回の事態で「チョ・グク前法務部長官がどんな違法をしたというのか」と言ったり、「激励の意味で(チョ前長官の娘に)奨学金を支給した」と釈明したことで、実は80%と全く違う船に乗っていたという事実を自ら暴露した。これは「正義と公正性を問題視する勢力もやはり、韓国社会と政治において長い間正義と公正性を破壊してきた積弊の張本人なのではないかという指摘」(シン・ジヌク中央大学教授)を呼び起こした。

相対的剥奪感指数で比べたチョ・グク前長官の評価 (単位:%)//ハンギョレ新聞社

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「公正を叫ぶけれど、私の入る場所はない」

 36歳のイム・ソンジェもそのような指摘をする人の一人だ。彼は「チョ・グク事態」を見守りながら、人々の言う「公正性」の概念について疑問を抱くようになった。イム・ソンジェは「九宜駅のキム君」がホームドア修理中に列車にはねられて死亡して3カ月たった2016年9月、足りない人手を補う「無期職公開採用」に応募してソウル交通公社に入社した。元からいる正社員たちは社内掲示板で、彼らを「無期虫」と呼び、「おこぼれをもらって入社できてよかったな」「地下鉄の駅はホームレスが多いのに、彼らもごねればみんな正社員にしてやるのか」と蔑んだ。このような記憶を持つ「九宜駅のキム君」たちは、「チョ・グク事態」を見ながら「和やかな家庭で人文系の高校を出て、家庭教師がついて、公企業への就職準備をした人と私たちは、本当に同じスタートラインにいたのか」と思ったという。「試験を受けたかどうかで公正さをいえますか? 私たちがやっていた仕事は元々正社員の業務なのに、民営化政策で非正規労働者に任されるようになったんです。それならこれを原状復帰さるのが公正ではないでしょうか。チョ・グク事態と公正さの話を見ながら、私は主人公になれない面白くない映画を見ているような気がしました。『論文の第1著者』とか『インターン』とか、そんなのは別世界の話ですから」

 パク・ジスとイム・ソンジェの指摘は、米国の80%にとってすでに普遍化した現象だ。2016年のドナルド・トランプの衝撃的な大統領選勝利後、米国でも「1%対99%」の議論に対する懺悔録が出てきた。米国ブルッキングス研究所先任研究員のリチャード・リーブスの『20 vs 80の社会』と、政治哲学者マシュー・スチュアートの『不当な世襲』は、このような懺悔の産物だ。リーブスは『20 vs 80の社会』で、同大学出身者の子女を優遇するような不公正な大学入学の査定手続きやコネによるインターンシップの仕事分配などの『機会の買い占め』を告発する。20%の中・上流層である「記者や学者、技術者、経営者、官僚たち、名前に博士(PhD)、医師(Dr)のようなアルファベットがつく人たち」が「修士・博士学位」を「世代間の地位伝承の最も重要な手段」として「相続を通じてではなく、市場で認められる能力を通じて階級を再生産」した後、「自分が公明正大に勝利したと考え」ていると分析する。リーブスは「しかし、労働市場で成功するのに必要な才能と技術、つまり『能力』を発達させる機会は生まれ育った環境によって非常に不平等に与えられる」とし、能力主義に基づいた中・上流層の“公明正大な勝利”がどれほど不公正で偽善的であるかを指摘する。

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能力主義を支配する社会の二重性

 スチュアートも『不当な世襲』で、上位10%からスーパー金持ちの0.1%を除いた9.9%をリーブスの「中・上流層20%」と同じ概念で用いて、「弁護士や医師、歯科医師、中級投資銀行家、MBA出身、専門職従事者」などのような人々を「他の人の子どもたちを犠牲にして富を蓄積し、特権を相続する新しい貴族階層である能力者階層」と称した。彼はこの9.9%の階層を「安全な隣人たちと暮らし、より良い学校に通って、通勤距離が短く、良質の健康管理を受けて… (中略)…自分の子どもに良いインターンのポストを与えてくれる友人を持った」人々だと説明する。スチュアートも、自分の成就を「大学に入学する前からすでに私たちが持っていた優秀な頭脳に対する補償」だと考える「根深い能力主義神話」が「能力者階層」の特徴だという点を指摘する。

 これを土台にスチュアートは「教育水準が高く、優れた資質を備えた人々が自分たちの集団利益のために一緒に行動すれば、これが公共の利益に服務することと認識される反面、労働者階級の人々が労働組合を通じて同じことをすれば、自由市場の神聖な原則に違反する、暴力的で反近代的なことと受け止められる」という社会の二重性を指摘する。イ・サンホン国際労働機関雇用政策局長はこの本の解題で「9.9%は世の中がどうして変わらないのか嘆き、批判するが、実際は彼らこそが変わらない世の中の『主要な共犯者』だ」とし、「9.9%は多様な政治的見解に開かれており、社会的少数者にも大きく共感する。しかし、彼らは最上位0.1%とは違い、ひたすら自分の卓越した能力や勤勉性だけに依存したとし、『私はこのようなことを享受する資格がある。なぜなら、ひたすら自分の力で成し遂げたことだから』という能力主義を正当化論理」を使うと指摘した。

 リーブスとスチュワートの分析は、「チョ・グク事態」にそのまま適用しても間違いはない。2016年、朴槿恵(パク・クネ)弾劾ろうそくデモには参加したが、「検察改革」と「チョ・グク守護」を叫んだ瑞草洞(ソチョドン)のろうそくデモには参加しなかった人たちも、リーブスやスチュワートと同じような話をしている。就職活動中のKさん(29)は「チョ前長官の娘の『なれあいインターン』に最も大きな剥奪感を感じた。漢栄外国語高校の生徒にはソウル大学法学部や檀国大学医学部のインターンなどの経験は当たり前のことだろうが、一般の高校生にはこれらの学校のインターンに対する情報自体がない」とし、「今回の事態を通じて、特定の情報の有無によって既得権カルテルと一般階級が分かれる社会構造的な問題が水面上にあらわれた」と指摘した。また、他の就職活動生のKさん(24)も「周りの友達もチョ前長官の娘がしたディテールな行動よりも、既得権を持つ人々がよりたやすくスペックを積むというその現象に怒りを覚えた」と話した。大学生のパク・ジュアさん(25)は「ソウル大学や高麗大学の学生たちとそのデモを応援する同大学の教授たちを見ると、本人たちのカルテルが崩れるかと戦々恐々としている気がした」とし、「彼らは公正性に対する怒りよりも、自分たちが特権を得たという自負心があるが、チョ前長官の娘はそれをあまりに簡単に手にしたということに腹を立てているようだ」と指摘した。

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「彼らだけの民主主義」から抜け出せ

 では、「チョ・グク事態」後の韓国社会に残る宿題は「上位10~20%の民主主義」を「80~90%のための民主主義」に転換することではないだろうか。ウェブマガジン『ジクソル』のチョン・ジュシク編集長は「不公正と正義、平等の問題を土台により良い世の中を望む人々の声は、今回水面上にあらわれなかった」とし、「それは、彼らの声を代弁する現実政治勢力が消えたためだ」と指摘した。慶煕大学のイ・テククァン教授(グローバルコミュニケーション学)は「今回の事態で保守勢力だけでなく、進歩勢力を自任した人々も上位10%の寡頭制民主主義の恩恵を受ける者だったという事実が明らかになった。ところが、香港やチリの大規模民衆デモで見られるように、不平等に対する抵抗と大衆の怒りはいま世界各地で出現している普遍的な現象だ」とし、「既得権に対する怒りが生産的な方向に流れるように、新しい進歩の議題を発掘することが急がれる」と述べた。

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「チョ・グク反対」の最大の要因は公正さより「相対的剥奪感」

 チョ・グク前法務部長官の任命に対する否定的な評価には、「公正性」に対する市民の認識よりも、「相対的剥奪感」がより有意味な影響を与えたという分析が出た。

 チョン・ハンウル韓国リサーチ専門委員が25日、ソウルグローバルセンターで開かれたセミナー「韓国社会の世代間問題:不平等と葛藤」で発表した「チョ・グクイシューから見た韓国社会の公正性の認識の格差」報告書によると、法が不公正だと思う人も、公正だと思う人も、チョ前長官について「不適切な人事」だと考えた割合がそれぞれ52%と49%で大きな差がなかった。報告書はこれを「法執行の公正さに対する不信感が全社会的で全階層的な現象であるため、チョ前長官の任命に対する態度に統計的に有意味な差がなかった」と分析した。

 一方、相対的な剥奪感が大きいほどチョ前長官の任命に否定的な反応を見せたことが調査で分かった。相対的剥奪感指数が「高い」(14以上)人はチョ前長官任命について否定的な評価が57.2%に達した反面、「低い」(11以下)の人は否定的な評価が44.9%に止まった。剥奪感指数は「大学在学以上」(12.4)よりは「高卒以下」(13.1)の階層で、月平均世帯所得が700万ウォン以上の最上層(12.0)や600万~700万ウォンの中・上位層(12.2)よりは、200万ウォン未満の低所得層(13.4)や200万~300万ウォンの中・下位層(13.1)でさらに大きかった。チョン委員はハンギョレとの電話インタビューで「私が暮らしている生活の現場で、私が受けるべき価値や待遇を受けさせない特権層や既得権が存在するという事実が剥奪感の主な要因だが、チョ長官がそちら側にいる人だったということだ」と説明した。チョン委員はまた、「チョ前長官イシューは世代や理念を中心とした政治的分裂と学歴や階層、所得の剥奪感イシューが重なった現象」とし、「どの世代の問題だと簡単に診断してはならない」と指摘した。

イ・ジェフン、オ・ヨンソ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/914937.html韓国語原文入力:2019-10-29 11:24
訳C.M

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