最近、韓国外交における“話題の人物”といえば、断然キム・ヒョンジョン大統領府国家安保室2次長だ。
9月16日、国会外交統一委員会。「2人(キム・ヒョンジョン次長とカン・ギョンファ外交部長官)が口論の末、英語で言い争ったそうですが、そのようなことがありましたか」というチョン・ジンソク自由韓国党議員の質疑に対し、カン・ギョンファ外交部長官が「否定しません」と答えたことで、キム次長は一気に舞台の中心に立たされた。
4月の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の中央アジア歴訪当時、外交部職員が作成した報告書をキム次長が叱責し、カン・ギョンファ長官と英語で言い争いをしたという“事件”は、当時外交界ではかなり有名な“うわさ”だったが、主要ニュースにはならなかった。ところがその後、日本の報復性輸出規制に韓国が強く対応し、特に米国の引き止めにもかかわらず、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を延長しないことを決めたことで、キム・ヒョンジョン次長が対米・対日強硬外交の中心人物に挙げられてきた。
「朝鮮日報」は8月30日付記事で、「文在寅政府の中心的な外交・安保ラインを『自主派』が掌握し、70年間続いてきた韓米同盟を揺さぶっている」としたうえで、キム・ヒョンジョン次長が“自主派の野戦司令官”として「GSOMIAの破棄決定など対米・対日強硬政策を主導している」と批判した。さらに、9月16日にチョン・ジンソク議員が5カ月前の中央アジア歴訪当時の“口論”を国会で取り上げたことで、翌日の保守マスコミが一斉に「キム・ヒョンジョン叩き」に乗り出した。「キム・ヒョンジョンとカン・ギョンファの確執」や「大統領府と外交部の主導権争い」などで、外交・安保危機が悪化しているという非難が相次いだ。キム次長は9月18日、ツイッターに「不徳の致すところ」いう趣旨の書き込みを掲載し、鎮火に乗り出した。
さらに、「朝鮮日報」の10月4日付1面記事と同日の駐国連代表部に対する国政監査でのチョン・ジンソク議員の質疑で、キム次長が外交官をひざまずかせたとして議論になった。キム次長が9月の国連総会当時、儀典でミスをした外交官を叱責したが、当事者はキム次長にひざまずくように求められたわけではなく、謝罪の意味で自らひざまずいたと説明したという。同日、ナ・ギョンウォン自由韓国党院内代表は、「大統領府のトラブルメーカーのキム・ヒョンジョン次長を更迭せよ」とし、「(キム次長が)いわゆる自主派の立場を代弁し、無責任な反日政策を牽引する一方、GSOMIAの破棄などで安保放棄まで助長した」と主張した。
「朝鮮日報」とチョン・ジンソク議員がキム次長の“スキャンダル”を暴露し、他の保守マスコミと政治家がこれを「外交危機論」に増幅させるパターンが繰り返されている。しかし、国家安保室と外交当局の“意見の相違”や“軋轢”は、他の国でも起きている。先日“解雇”されたジョン・ボルトン大統領補佐官とマイク・ポンペオ国務長官の確執は公然の秘密だった。カーター大統領時代、ホワイトハウス国家安保補佐官だったズビグネフ・ブレジンスキーとサイラス・ヴァンス国務長官は、対ソ連政策から対中国、アフリカ、イランのイスラム革命と米国大使館の人質事件への対処などをめぐり、ことあるごとに対立した。
同様に大統領府と外交部の間にも緊張と意見の相違が確かに存在する。大統領府が外交部を信頼せず、すべての事案を直接取り仕切ろうとするという不満が外交部内で高まっている。大統領府が従来の外交官の性向に批判的でも、共に仕事を進められるより多くの外交官を発掘し、包容して、政策をより効率的に推進する必要がある。しかし、「キム・ヒョンジョン対カン・ギョンファによる英語の言い争い」のようなセンセーショナルなネタを取り上げて「文在寅政府の外交危機論」を誇張するのは、政治的意図を持った攻撃ではないかという疑念を抱かせる。
キム次長は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府で“彗星のごとく”登場し、韓米自由貿易協定(FTA)の交渉を主導して成果を上げた。しかし、通商・法律の専門家である彼が、存在感が一段と薄くなったチョン・ウィヨン国家安保室長に代わって事実上外交の司令塔の役割を果たしている現状に対する疑問は残る。GSOMIAの終了決定直後、キム次長は「韓米同盟を一段階アップグレードさせるきっかけ」だとし、先端兵器の導入など自主国防力の強化で米国が希望する同盟の貢献を増やすと述べた。米国が50億ドル(約6兆ウォン)へと大幅増額を要求する在韓米軍防衛費分担金交渉についても、米国産先端兵器の大量購買などの“貢献”を掲げて説得できるという“通商交渉流”の構想を持っているものと見られる。北朝鮮という韓国外交の核心課題を、彼がどのように解決しているのかも不明だ。
キム次長の強くてストレートな発言と態度も攻撃の的になってきた。一緒に働いた経験のある人たちの評価は、「有能で勉強家」「推進力と突破力がある」から「毒舌家」「職員たちを追い詰めすぎだ」「性格が気難しい」などに分かれる。しかし、彼に対する評価は、トランプ大統領の“決断”に依存していた戦略が限界にぶつかった朝米交渉と朝鮮半島平和プロセスを始め、米中の貿易覇権争いやトランプ大統領弾劾政局をめぐる不確実性などで、全世界の地政学の基盤が激しく揺さぶられている転換点で、いかに未来志向的な目標と精巧な戦略を作って実行しているのかという質問から出発しなければならない。