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元KBS社長「検察が流す被疑事実がファクトに…『引用メディア』信頼は地に落ちた

登録:2019-09-18 11:18 修正:2019-09-18 11:37
チョン・ヨンジュ元KBS社長インタビュー 

「検証なくあふれる記事 
ジャーナリズムの基本原則を振り返り 
反対の見解を包括して真実を探すべき」
50年来の言論人であるチョン・ヨンジュ元韓国放送(KBS)社長が11日午後、ソウル麻浦区のハンギョレ新聞社で韓国メディアの危機を吐露している=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 「現在の韓国のメディアの状況を考えると、『終末的』という言葉が思い浮かぶ。歪曲・誇張・扇情報道に最近はフェイクニュースまで加わり、信頼度は地に落ちたが、つぶれたマスコミ機関はない」

 今月初めに 「オーマイニュース」で「チョン・ヨンジュの韓国メディア黙示録」という連載を始めたチョン・ヨンジュ元韓国放送(KBS)社長が、韓国メディアの危機状況をこう診断した

 1970年「東亜日報」入社以降、東亜自由言論守護闘争委員会解雇事件を経て、ハンギョレのワシントン特派員と論説主幹、公営放送の社長などを務めた50年来の言論人が、終末論的な色の濃い「黙示録」という表現まで使っているのは、それだけ韓国メディアの問題が深刻だという切迫感からだ。11日、危機を突破する解決策を聞くためにチョン元社長とソウル麻浦区(マポグ)のハンギョレ新聞社社屋で会った。

 彼は最近の「チョ・グク事態」を経て、厳正な検証よりも報道競争に重点をおく韓国メディアの問題点が如実に表れたと見ている。「ジャーナリズムの基本原則に忠実であるために最も重要なのは、事実確認、ファクトだ。だが、単に文書を確保して報道するのがファクトなのか。ファクトを正確に伝えるためには、言葉や引用だけでなく、脈絡や反対側の人の話も含むなど、包括的かつその向こうの真実を探る積極的な努力が必要だ」

 特に、メディアに情報を流す政治的意図が込められた検察の被疑事実の公表は、「ファクト」という上着を着て最終結論であるかのように一方的に伝え、メディアの信頼を落とすとし、鋭く非難した。「論争的な事案は反対の立場を入れてこそ公正なのに、検察側の一方的な記事を決定的事実としてしまう。大々的な報道で人格が殺され、やられた人は満身創痍になるが、後で無罪判決が出てもその時は記事の処理もしない」 。実際、チョン元社長は被害当事者だ。李明博(イ・ミョンバク)政府が検察・監査院・放送通信委員会・国税庁など権力機関を動員して、彼を韓国放送社長から引きずり下ろした事例がそうだ。彼は解任無効訴訟の末、最高裁判所で勝訴したが、多くのメディアはこの事実を小さく扱ったり無視した。

「扇情的ジャーナリズムの温床になった総編チャンネル…再許可取り消しの前例が出てこそ抑制力に」

 「総合編成チャンネル(総編、ケーブルテレビや衛星放送などを通じて全てのジャンルを放送するチャンネル)必亡論」というコラムをよく書いた彼は、総編が勢いに乗っている状況について「ハンギョレの読者に大変申し訳ない」と謝った。しかし、李明博・朴槿恵(パク・クネ)政府の全面的な恩恵で成長した総編が「扇情的ジャーナリズムの温床」として浮上し、社会的混乱を煽っているだけに、政策当局はこれ以上放置してはならないと強調する。「放送通信委員会が3年ごとに行う再許可審査で、放送の公正性・公益性などを厳しく審査しなければならない。(再許可の)取り消しの前例が出れば抑制力が発揮される」とし、「総編に集中した広告、義務再送信、黄金チャンネルなどあらゆる特典をなくすべきだ」と付け加えた。彼は「李明博政権がなぜあんなに総編のためのメディア法可決を強行したのか今はわかる。広告の恩恵などで総編は大きく成長したが、地上波は完全に縮小した。10年前までは韓国放送の広告売上が年間6500億ウォンだったが、今年の予想値は2500億ウォン以下と3分の1水準に落ちた」とし、「変化したメディア環境などを考慮し、地上波に集中している規制体系を見直さなければならない」と話した。

最近インターネット媒体に「韓国メディア黙示録」という連載を始めたチョン・ヨンジュ元KBS社長。11日午後、ハンギョレ新聞社でのインタビューに先立ち写真撮影をしている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 最近、経営危機の中で非常経営に乗り出した韓国放送と文化放送(MBC)について、「神様が社長に就任しても(経営状況を)元に戻すことができるか疑問だ」と首を振ったチョン元社長は、地上波放送の生存戦略の核心を「高費用の構造」の打破と挙げた。特に、ラジオを含めて地上波ごとに全国へ電波を流すための送出人力と組織システムを革新し、共同で運営すれば、巨額のコスト削減が可能だと見ている。「放送局内部では、領域争いで推進できない。外から突破口を開かなければならない。アルキーバ(Arqiva)のような英国の送出代行公社を参考にするのも望ましい」と提案した。

 彼は「今は暖簾を降ろしてつぶれるメディアはないが、これからは平凡な新聞は例外なく消えるだろう」と断言した。チョン元社長は反トランプの最前線で火を噴いた米国のニューヨークタイムズの部数急増から示唆点を見出した。「ニューヨークタイムズはトランプ大統領当選後、3週間で13万部増えた。この新聞は100%不都合・不当な新聞ではないが、忠実な読者の確保が重要であることを示す象徴的な事案だ」。チョン元社長はニューヨークタイムズの報道準則である公正性、正直性、真実性を強調し、取材源を忠実に明らかにし、誤報の際には日付一つでも訂正記事を出すのに比べ、「韓国のメディアは誤報を正すことを渋る」と叱咤した。

 既成メディアに対しては悲観的だが、市民の動きには楽観的だ。彼は「『終末』というのは古い体制から脱してこそ生存が可能だという意味で、新しいスタートという希望が含まれている言葉だ」とし、「市民たちが積極的に声をあげている。フェイスブックなどSNSを見ると長けた人々が多い。メディアは市民との関係設定について考え、集団の知恵を探さなければならない」とアドバイスした。

ムン・ヒョンスク先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/media/909883.html韓国語原文入力:2019-09-18 09:27
訳C.M