秋夕(チュソク=中秋節)の帰省の行列が始まった11日午後1時30分。住宅街でも市場でもないソウル麻浦区(マポグ)の日進グループ本社1階ロビーの前に、香ばしい油のにおいが立ちのぼった。携帯用ガスバーナーの上のフライパンで、肉や魚、カボチャのジョン(小麦粉と卵をつけて焼く料理)などの節句の料理がこんがり焼けていた。「節句の連休なのに家に帰らず、この場所を守りながら最後まで闘うという趣旨で、合同祭事を準備しています」。全国金属労働組合(金属労組)大田(テジョン)忠北支部のチャン・ドンジュン日進ダイアモンド支会の副会長が言った。
この日は日進ダイヤモンドの労働者らがストライキを始めてから78日目、日進グループ本社が直接問題の解決に乗り出すことを要求しソウルで座り込みテントを張ってから35日目、本社のロビーで座り込みを行って8日目になる日だ。労組は、最低賃金が上がるとボーナスを基本給・固定給に変えるなどの方法で5年間実質賃金を上げなかったとし、会社を批判した。昨年末に立ち上げられた労組は、会社と交渉を進めてきた。しかし、会社はストライキのときの代替労働の許容など、法でも禁止されている内容を団体協約に盛り込もうとしたり、組合員たちがロビーから出ていけば交渉に応じるという条件をつけるなど、問題を解決する意志を見せていない。
組合員のキム・ヒョンミンさん(35)は「会社は1階の電気や冷暖房を切って、トイレットペーパーまで全部なくしてしまった。墓参りにも行けず家族にも会えないが、秋夕だからといってここから出れば、会社はもう入れないようにドアを閉めてカギをかけてしまうだろうからここを離れられない」と話した。キムさんと仲間の50人余りは、秋夕にも家のある忠清北道陰城郡(ウムソングン)の代わりに、本社前とロビーに陣取り、座り込みを継続する。
最低賃金ライン上の労働者や正社員化を要求する労働者が、道の上や高空で気を揉む秋夕を送っている。この日で45日目となるハンガーストライキを続けているキム・スオク金属労組・起亜自動車非正規職支会長と、ハンスト8日目の非正規職労働者6人も、帰省をあきらめた。キム支会長は、昨年の秋夕もまさにここソウル中区長橋洞(チャンギョドン)のソウル雇用労働庁前の座り込み現場で、現代起亜自動車の非正規職労働者たちと一緒に過ごした。彼は「当時も18日間皆でハンストをして秋夕を過ごしながら、来年の節句は家族と一緒に過ごせると思ったのに、今年もまた仲間たちとここに出てくることになった事実が信じられない」とし、「(会社と政府が)どうしてここまでできるのか、悔しい」と話した。
キム支会長が2年目の秋夕も道の上で過ごすことになった理由は、現代起亜自動車の違法派遣だ。「現代起亜車の社内下請けは違法派遣にあたるため、直接雇用しなければならない」という裁判所の判決が10数回繰り返されたにもかかわらず、会社はこれに従わなかった。雇用労働部は、会社に直接雇用の是正命令を出しておらず、さらにベルトコンベア―上の「直接生産工程」に限って是正命令を出す方針を決めたという状況だ。体重が20キロほど減り、長い断食によって水と酵素さえちゃんと飲み込めない大変な状況まで来て、周囲ではハンスト中止を勧めているが、キム支会長はこれを受け入れていない。
全国民主労働組合総連盟(民主労総)が集計した資料によると、ストライキや座り込みが進行中の事業所は、先月末現在45カ所だ。低賃金、非正規職への差別、労組破壊の試みなどに抗議し、「私たちの労働の価値を尊重してほしい」と叫んでいる。11日には全国鉄道労働組合KORAIL観光開発支部が、賃金差別廃止と直接雇用などを要求してストライキを始めた。労組はKTXとSRTの乗務員など600人あまりがストライキに参加すると発表した。韓国道路公社(道公)の高速道路料金所職員らは、最高裁で違法派遣の確定判決を受けた人だけ直接雇用するという道公の方針に対抗して、慶尚北道金泉(キムチョン)の本社占拠座り込みを3日間継続し、警察と対峙している。中高年の女性労働者たちが警察が解散させようとする取組みに対抗して上衣脱衣デモをするほど、不安と緊張の連続で「豊かな秋夕」は他人事だ。民主労総はこの日午前、ソウル駅で記者会見を開き、「人生の崖っぷちで座り込みとハンストで秋夕を迎える彼らの問題は、今すぐ解決されなければならない」と求めた。
一方、非正規労働者の家「クルジャム」は秋夕の13日、日進グループ本社前とソウル雇用労働庁前、キム・ヨンヒさんが復職を求め93日間高空座り込みを行っているソウル瑞草洞(ソチョドン)のサムスン本社前で、続けて合同祭事を行う。クルジャムの活動家のパク・ヘンランさんは「秋夕の連休も故郷に帰れないもどかしい状況だが、私たちは疲れずに闘いを続けていることを会社側に示そうと、合同祭事を準備している」と語った。