ロシア国籍の高麗人2世のキム・ラリサさん(63)は、昨年8月から京畿道安山(アンサン)で8歳の孫娘の面倒を見ながら娘のキムさん(41)と一緒に暮らしている。キムさん母娘は「在外同胞の出入国と法的地位に関する法律」(在外同胞法)により、最長3年間滞在できる在外同胞(F-4)ビザを持っており、制限付きながら就業も可能だ。独身になってから家族の生計に責任を負っている娘のキムさんは、韓国語が上手でないため派遣業者を通じて工場の仕事を見つけた。月に最低賃金(174万ウォン)前後を稼ぎ、家賃40万ウォンを払う。生活に余裕がない3人家族が今年7月から毎月支払う健康保険料は22万6100ウォン(約2万円)だ。どういうことだろうか?
保健福祉部は今年初めに国民健康保険法を改正し、6カ月以上韓国内に滞在するすべての外国国籍者について、健康保険「地域加入」(職場加入者を除いた都市および農漁村地域の住民などが対象)を義務化した。それまでは3カ月以上韓国内に滞在する外国人については健康保険地域加入資格が付与され、加入の有無は個人の選択だった。健康保険が職場加入になっていない移民が地域加入をする場合は、所得・財産による保険料と、前年度の全加入者から算出した平均保険料(今年11万3050ウォン)のうち、高い方の金額を払うように決まった。永住(F-5)・結婚移住(F-6)滞在資格を持つ場合を除いた大多数の対象者が、所得水準と関係なく無条件に月額11万3050ウォン以上の健康保険料を払わなければならないという意味だ。娘のキムさんは同じ工場で働き2年目になるが、会社が保険料の半分を負担する職場加入の健康保険に入ることはできなかった。書類上、会社が直接雇用した労働者ではないからだ。
保険料の賦課方式だけでなく、地域加入者の世帯員認定の範囲も、韓国国籍者とは異なる。世帯(住民登録票上の同居する家族)単位ではなく、「個人」単位で保険料を賦課し、加入者の配偶者と満19歳未満の子どものみが健康保険の適用を受けることができるよう制度を変更した。韓国国籍者は同じ世帯員なら、地域加入者の両親と成人の子ども、兄弟・姉妹なども健康保険の適用を受けることができる。結局、キムさん母娘2人にそれぞれ月11万3050ウォンずつ、合計22万6100ウォンの健康保険料が賦課された。福祉部は50万ウォン以上の健康保険料を滞納した満19歳以上の移民情報を法務部に定期的に渡して、滞納が3回以上繰り返された場合、滞留延長をしないと脅している状況だ。
26日、CIS諸国(旧ソ連)や中国国籍の同胞・移住労働者・難民支援団体で構成された「移民健康保険差別廃止のための共同行動」は、大統領府で記者会見を開き、「外国人の健康保険地域加入義務化以後、貧しい移民が少なくとも3〜4倍、多い場合は数十倍に値上がりした健康保険料の告知書を受け取っている」として対策を要求した。特に、地域加入者世帯員の認定範囲が大幅に縮小されたため、同居している高齢の親や体調が悪く経済活動ができない子どもも健康保険料を払わなければならない状況だ。
現行法上、滞在資格を得て月60時間以上働いている移民は、健康保険は職場加入になっていなければならない。1人以上を雇う事業場であるなら、1カ月の労働が60時間未満(週15時間未満)の労働者を除き、国籍に関係なくすべて健康保険適用対象であるからである。しかし、多数の在外同胞や難民認定者、人道的滞在者などの移民は、健康保険の職場加入が保障されない劣悪な職場で働いている。雇用許可制を通じて政府が数字を決めて入国を許容する農業・畜産業の移住労働者さえ、健康保険の職場加入ができずに地域加入者として自動加入され、毎月11万3050ウォンを負担しなければならないのが実情である。その上、長時間労働や意思疎通の障壁などの問題で、具合が悪くても治療を受けることができない移民が多いのが現実だ。
福祉部は、韓国内に滞在する外国人が増加することによる健康保険の適用拡大および合理的管理のための制度の改善であると明らかにしたが、実際には移民の現実を十分に把握しようとさえせずに、拙速に政策を準備した。昨年末、国連人種差別撤廃委員会は韓国政府に「すべての移民が韓国国民と同等の水準の保険料で健康保険に加入できるよう改善を検討すること」と勧告したことがある。『移民センター チング』のチョ・ヨングァン事務局長(弁護士)は「予算を執行する事業もないのに社会保険料の賦課を拡大し、滞在資格別の家計所得がいくらなのか、居住形態がどうなのか、就業時に月給は十分に受け取っているのかなどの実態調査を一度もせずに政策を施行するのは大きな問題だ」とし、「直ちに制度の施行を中止し、補完策を考えなければならない」と要求した。