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[インタビュー]「安倍は韓国を2015年に戻す目標…妥協的和解は危険」(上)

登録:2019-08-15 10:52 修正:2019-08-17 07:39
鄭栄桓・明治学院大学教授インタビュー 
在日朝鮮人3世、朝鮮籍の歴史学者 
日本政府に歴史的責任を直視するよう要求し続け

「韓国の最高裁判決は世界史的に大きな意味 
植民支配は違法という規範を勧める 
敗戦国の地位を解消しようとする安倍首相 
経済報復で韓国政府の外交方向を 
朴槿恵政権時代に戻そうとする意図 
日本社会と対話を続けなければならないが 
日本の要求どおり急いで解決しようとしてはならない」

鄭栄桓・明治学院大学教授が13日、ハンギョレ新聞社で韓日関係と歴史問題について語っている=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 「安倍首相には韓国政府の方向を2015年の朴槿恵(パク・クネ)政権時期の外交路線に戻そうという目標があると思う。日本社会との対話を続けなければならないが、韓国政府が日本の要求に屈して対立を急いで解決しようとするのは危険だ」

 朝鮮近現代史や在日朝鮮人史などを研究してきた歴史学者の鄭栄桓(チョン・ヨンファン)明治学院大学教授は、韓国が韓日間の対立を急いで解決しようと「妥協的な和解」に出る場合、安倍政権と日本社会に誤ったシグナルを与えかねないと警告した。

 鄭教授は、日本の植民地支配の克服されていない課題に対する日本の責任を直視するよう要求し続けてきた。日本軍「慰安婦」問題に対する日本政府の法的責任を否定した『帝国の慰安婦』(朴裕河著)を正面から批判した『忘却のための「和解」―「帝国の慰安婦」と日本の責任』を出版した。

 在日朝鮮人3世で「朝鮮籍」を維持している鄭教授は、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵政府では韓国入国が拒否されたりもした。「朝鮮籍」は1951年のサンフランシスコ講和条約によって「日本」国籍が剥奪された後、「朝鮮」籍として登録(無国籍の扱い)された同胞だ。13日、日本軍「慰安婦」問題の歴史的課題を討論する東北アジア歴史財団主催のセミナーに出席するため韓国にきた鄭教授に、ハンギョレ新聞社で会った。

-安倍首相が韓国に対する経済報復措置に乗り出した核心的意図は?

 「2015年の韓日慰安婦合意を含めて、安倍首相が推進してきた戦後清算プロジェクトがある。敗戦国の地位を解消し、国際的な地位を回復しようとするものだ。安倍首相は2015年の韓日慰安婦合意を通じてある程度は成功したが、韓国で政権交代が起こり、大きな壁にぶつかったと見たのだろう。今回の経済報復を通じて韓国政府の方向性をもう一度2015年の朴槿恵政権時期の外交路線に戻そうという目標があったと思う。

 この30年間、1965年体制そのものが常に揺れ動いた。韓国市民は進歩的政権では(韓日)協定の再交渉問題も提起したが、日本は65年体制を修正しつつ維持しようとした。しかし、65年体制の矛盾があまりにも大きく深いので、解決が難しい部分があり、2010年代に入っては矛盾がさらに深まった。これ以上この体制で解決しようとするのではなく、別の大きな枠組みが必要だという要求が韓国から提起され、日本はこれに対して外交的に対処すべきだと考えてきた。日本の立場としては、2015年に(韓日慰安婦合意で)やっと解決したが韓国が再び元に戻したと見て、安倍政権だけでなく野党やメディアでもこの問題については収れんされた意見を持っている」

-安倍首相の戦略には、韓国を屈服させて1965年の韓日請求権協定体制(65年体制)を再確認しようとする意図もあったのか。

 「サンフランシスコ体制は大きな枠組みで、65年体制は下位の体制だ。韓日請求権協定体制を破ったり修正しても、サンフランシスコ体制自体が大きく動揺することはないだろう。同時に65年体制には請求権協定だけでなく、韓日基本条約体制がある。韓日間の歴史の葛藤は、植民地支配の清算を封鎖した請求権協定体制の動揺によるものだ。同時に、昨年から南北和解と朝米対話が進展したことにより、米国と日本が同盟を結んで韓国を朝鮮半島で唯一の政権と認め、東アジア冷戦構造で韓米日がソ連・中国・北朝鮮と対峙していたもう一つの65年体制も動揺している。日本は請求権協定体制の動揺だけでなく、南北の和解に対してもブレーキをかけるため、強力な対応に乗り出している」

-「植民地支配の違法性」を明示した韓国最高裁(大法院)の判決に対し、安倍政権は「国際法違反」と主張している。

 「二つの側面がある。日本の政府と司法府も被害者の個人請求権は残っているという立場を維持している。日本はサンフランシスコ条約や日ソ平和条約で請求権を放棄したが、日本人被害者の個人請求権は残っているため、米国やロシアに行って訴訟するようにした。しかし、韓国の被害者たちが日本で訴訟を起こすと、個人請求権がないと言うことはできず、裁判で救済される権利ではないと主張した。韓国の被害者たちは再び韓国で裁判を始め、韓国最高裁が請求権協定で解決されていない部分を認め、損害賠償を命じる判決を下した。これに対する『国際法違反』だとの安倍首相の批判は根拠のない非難だ。

 二つめに、その下地となっている歴史認識がある。韓国最高裁の判決は、日本の植民支配は違法であり、強制動員も違法な植民地支配の下で起きた違法行為だったと判決した。これ自体は日本の実定法上では導き出せない部分であり、韓国の憲法体制が持つ法理念だ。この部分に対して日本の右翼たちがよく攻撃している。この部分は、サンフランシスコ条約が扱えなかった問題だ。植民地を支配した国家は、植民地支配の違法性を認めない立場を取ってきた。2001年に南アフリカ共和国のダーバンで奴隷貿易と植民地支配の問題をどう解決するかについての国際会議が開かれたが、日本と欧州の旧植民地支配国家らは、道徳的には間違っていたが法的賠償義務はないと主張した。一方、過去に植民地支配を受けた国々は、ナチスにも適用された「人道に反する罪」(crime against humanity)を適用し、植民地支配に対する刑事処罰も可能だと主張した。この点は国際社会で一つの対立点となっているが、韓国政府や司法府が日本の植民地支配に対してこの次元に踏みこんで議論することができるのか、岐路にあると思う。同時に在日朝鮮人をはじめとする少数者らは、東京裁判で連合国が日本の戦争指導者たちを「人道に反する罪」で起訴しなかったことに対して批判し、日本が朝鮮半島を侵略した罪も処罰すべきとの声を上げてきた。「人道に反する罪」という概念を適用して植民地支配を処罰すべきだという声はずっとあり、植民地支配から独立した国が国際社会でこの問題を提起してここまで来た。植民地支配そのものを違法化しようとする努力が、21世紀に規範として定着されるかどうかが、世界史的にも取り上げられている状況だ。今回の韓国最高裁の判決は、世界史的に植民地支配は違法であることを規範にしようと勧めている部分がある。難しいが、大きな意味がある」。

-韓国の民主化が進み、日本の真の謝罪を求める声が高まったが、日本では逆に韓国の謝罪要求に対する疲労症状が強まった。

 「1980年代までは日本でも進歩勢力が強く、戦争を経験した世代が生きていた。一方、冷戦体制下で日本は過去清算を回避できる受恵者として国際関係を享受した。1990年代以降、世界的に状況が変わっていった。韓国では、日本に代わり韓国民衆の口をふさいでいた軍事政権体制が崩れた。この時期、日本市民たちは韓国の民衆に呼応すべきだという声を上げた。しかし、これを貫徹するには日本社会で越えなければならない壁があまりにも多いということに、徐々に気づくようになった。90年代に日本の進歩勢力は部分的な政権交代を果たしたが、政権を獲得するために沖縄米軍基地と日米安保体制に対する抵抗などの理念を捨てた。進歩勢力が韓国市民の声に応えるための代案を失った。このような混乱の中で、進歩政治勢力と知識人らが65年体制を克服せず修正して作った提案が「アジア女性基金」だったが、被害者たちが望んだのはそんなレベルではなかったため崩れた。2000年代に入り、韓国と中国で反日デモが続くと、日本ではこれを過去の清算問題だと考えず、「韓国・中国は反日ナショナリズムを克服しなければならない」という見方で見始めた。「韓国の民主化以降、市民らは国家主義に陥り、日本を批判し、政治家も歴史問題をカードとして使っている」という偏った視線が現れ始めた。

 しかし、日本のこのような認識の枠組みが堅固で壊れないとは思わない。2000年代に入り、日本の景気低迷で一般庶民の生活も厳しくなっている。同時に、安倍政権が権威主義的な政権運営をしながら、人権や民主主義自体が侵害され、憲法体制自体が手続きを経ずに破壊されていると認識する市民が多い。私立学校の不正など政権の問題が暴露される度に、安倍政権は対外的矛盾、韓日の葛藤、朝鮮半島危機を利用して政権を維持してきた。日本の市民が、日本の自由民主主義や憲法問題と、朝鮮半島での戦争終結や歴史清算問題が相反する現象ではないということを知る契機があるだろうと見ている。時間はかかりそうだが、ここ30年間保守政治勢力の寡占体制が問題を解決できないことを見て来ており、日本の戦後史をまた考えてみようとする萌芽がきっと現れるだろう。日本人は特に原発問題などを見て『昔のように生きることはできない』という感覚は感じている」。(続)

パク・ミンヒ、ノ・ジウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/905667.html韓国語原文入力:2019-08-14 21:32
訳M.C

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