ユン・ソクヨル検察総長内定者は、“サイン”と“握手”を求められるおそらく国内唯一の検事だろう。野球場、デパート、漢江の川辺などで彼を目にした市民の一部は、彼に気軽に手を差しだす。ユン次期総長は照れたり不快そうにせず、これを受け入れるという。
8日、午前0時を過ぎ16時間にわたって行われた国会法制司法委員会の検察総長候補者の人事聴聞会で、彼は「うそ論争」に向き合わされた。“家族同然に親しい”という後輩検事(ユン・デジン法務部検察局長)を保護するために2012年に記者に嘘をついたというもので、今回の聴聞会で嘘をついたものではないと言い逃れたが、全く苦しい言い分だった。それでも世論は寛大だった。後輩の面倒を見る“義理堅い”検事だとかばう人もいた。
このような大衆の好感は、大統領府が16日、野党の反対にもかかわらず「候補者」の名を外して彼を検察総長に任命した土台となった。ムン・ムイル現検察総長の任期が一週間以上も残っているが、ユン内定者は実権を握って大統領府、法務部と次期検事長の人事などを議論している。そして来週木曜日の25日、彼は文在寅(ムン・ジェイン)政府の2人目の検察総長として業務を開始する。
ユン内定者の前にはいくつかの大きな課題がある。文在寅政府の国政の核心的課題の一つである「検察改革」に、検察の首長である彼はどう対応するのか。方向や細部内容をめぐり少なからぬ論議が起こっているが、政府の検察改革は結局、検察の力を減らすことを骨子としている。直接捜査権の一部を他の機関(高位公職者犯罪捜査処)に渡さなければならず、検察が独占してきた起訴権も警察と分けることになるかもしれない。
検察の“刀”で元大統領2人と元最高裁長官をはじめ国内最大の財閥のトップまで直接捜査し、法廷に立てた彼が、検察の刃を鈍らせる状況を快く受け入れることができるだろうか。人事聴聞会で彼は「国会に提出された法案を非難したり抵抗する考えはない」と述べたが、「良い法が出るよう専門家として十分に意見を述べたい」と付け加え、余韻を残した。「検察至上主義者」という評価まで受ける彼は、依然として検察がすべき捜査と警察がすべき捜査を分けている。
サムスン捜査は、彼に与えられたもう一つの宿題だ。検事と捜査官、会計士など数十人が関わり半年以上進めているサムスンバイオロジックス会計詐欺の疑惑捜査は、もはや2015年の第一毛織-サムスン物産の合併の正当性そのものを暴く段階にきた。サムスンは否定しているが、懐柔や嘘、でっち上げた文書など、さまざまな犯罪の証拠が利益の最終恩恵者であるイ・ジェヨン・サムスン電子副会長を指している。
周りの状況は検察に不利だ。なかなか改善されない経済状況と、“泣き面に蜂”である日本の経済報復は、少なくとも検察の捜査を控えているイ副会長には好材料として働く。経済正義を実践しなければならないという世論と同じくらい、よりによって今でなければならないのかという世論も少なくない。大統領府もイ副会長をしばしば公式の場に呼び出すなど、さりげなくシグナルを送っている。
政治的中立も困難な課題だ。彼は現政権の3~4年目を検察総長とそて送ることになる。過去の事例を見ると、この時期に大統領の側近や家族などの不正が多く明るみに出た。幾重にも覆い隠そうとしては隠しきれなかったことが捜査の対象になりもした。2013年に発足して1年足らずの朴槿恵(パク・クネ)政府の捜査介入を暴露した彼の業績を見るとき、彼が過去の政治検事らとはやや違う行動を見せるものと予想されるが、任命権者の顔色を完全に伺わずにもいられないだろう。
やや早い質問のようだが、2年後の2021年7月の退任後も市民たちが彼にサインと握手を求めるだろうか。上記に述べた3つの課題に彼がどう対処するかによって、その答えは変わるだろう。ユン内定者は自ら認めているように、進歩的な性向の人物ではない。ただし、彼は「漸進的改革」を望み「市場の信頼」を守り「政治的中立」であることを何度も約束した。