歪んだ鉄製の水筒に銃弾の跡がくっきりと刻まれている。バレルには弾丸がそのまま残されていた。錆びついた鉄帽(ヘルメット)は何発もの弾丸が突き抜けたようで、穴が空いていた。江原道鉄原(チョルウォン)郡にある「ファサルモリ高地」の遺骨発掘現場で発見された戦争の傷痕だ。
70年近く、地中に埋もれていた戦争の傷跡が日の目を見た。先月28日に訪れた鉄原ファサルモリ高地は、朝鮮戦争当時の1951年11月から1953年7月まで韓国・国連軍と北朝鮮・中国共産軍の戦闘が4回も繰り広げられた場所だ。高地を奪われ、また奪い返す過程で、韓国・国連軍約300人が、また北朝鮮・中国共産軍約3000人が、死亡または行方不明になった。韓国軍当局は4月1日から2カ月近く、この地域で地雷除去など南北共同遺骨発掘に向けた基礎作業を進めている。ファサルモリ高地は、6月から一般に公開される「非武装地帯平和の道・鉄原区間」の最後の訪問先である鉄原の非常駐監視警戒所(GP)の近くにある。この監視警戒所から北側を見渡すと、目の前にファサルモリ高地の遺体発掘現場が飛び込んでくる。
草木で覆われた茂みのなか、真っ赤な山肌を露わにしたファサルモリ高地の斜面が目に入る。遺骨発掘のために斜面の草を全部刈り取ったため、はげ山のように見える。前日、雨が降ったせいか、地面から土の匂いが漂い、ほろ苦い草の香りが立ち昇った。発掘兵が草を切る音や空気圧縮機の轟音が鳴り響いていた。兵士たちが基礎発掘のために空圧機を動かすと、土が飛び散り、土埃が立ち上がった。28日午前10時、ファサルモリ高地では、2時間前から始まった発掘作業の真最中だった。ファサルモリ高地の稜線から45度の斜面のいたるところで、地雷除去と基礎発掘が行われていた。
2メートルの深さの穴がいくつか見えた。軍関係者によると、「避難壕」だという。ファサルモリ高地の稜線では、朝鮮戦争当時、兵士たちが敵の奇襲攻撃に備えて安全に移動するために掘った交通壕が発見されたが、そのすぐ下の斜面で避難場所の避難壕が見つかった。「洞窟陣地」とも呼ばれる。8人ほど避難できる空間だ。発掘初期には交通壕は全長が300メートル程度であり、洞窟陣地は28日現在まで発見されたものだけで12個だ。一人がやっと隠れることができる小さな「個人壕」は約30個発見されたという。
28日現在、ファサルモリ高地で、朝鮮戦争戦死者と推定される遺骨が325点(約50柱と推定)も出た。2カ月足らずの間、銃や防弾服、ヘルメット、水筒、階級章など遺品がおよそ2万3055点、地雷138発、不発弾2180発が発見された。現在、軍当局は地雷除去など基礎的な発掘だけを行なっている状況だが、本格的に発掘を始めれば、さらに多くの遺骨や遺品などが出るものと期待されている。今回の遺骨発掘は「非武装地帯」では初めて行われるという面で意義深い。軍当局は2000年から、朝鮮戦争当時激戦が繰り広げられた地域で、戦死者の遺骨を発掘している。しかし、9・19軍事合意前まで非武装地帯で遺骨の発掘が行われたことはない。70年近く手つかずで、開発も行われなかったため、実際に発掘される遺骨や遺品も他の発掘地域より毀損されたり、損失されている部分が少ないという。今年4月1日以降、この地域では完全な形の遺骨や4人と推定される遺骨が同じ場所で見つかった。国防部のカン・ジェミン遺骨発掘鑑識団発掘チーム長は「非武装地帯ではなく、南側地域の発掘現場で見られなかった様々な遺品、朝鮮戦争当時の遺品や遺骨がそのまま保存されているのを見て驚いた」と語った。
遺品も多数発見されている。最近発見された横・縦3メートル、深さ2メートルの洞窟陣地(避難壕)では、弾薬と薬きょうが100発以上発見されており、戦闘靴や防弾チョッキ、懐中電灯、銃弾、化粧品のビン、水筒、カップ、弾倉、銃の手入れに使うオイル用のタンク、スナップボタン、歯ブラシなどが大量に発見された。砕けた頭蓋骨の欠片が入った鉄帽も見つかった。軍当局は、遺品からみて、韓国軍が使っていた洞窟陣地と見られ、鉄帽に入っていた頭蓋骨も韓国軍の遺骨の可能性が高いと説明した。カン・ジェミンチーム長は「洞窟陣地の中に鉄筋と通信・電話線として使われた野戦線を編んで椅子の形に作ったものが見える」とし、「遺品を見る限り、作戦を立てたり、休息を取る場所ではなかったかと思われる。敵軍が人海戦術で攻め込んできたため、洞窟のようなところに隠れて砲兵射撃を要請し、敵軍を殲滅しようとした可能性もある」と説明した。
ファサルモリ高地の稜線に上って北側を見渡すと、北朝鮮が昨年、遺骨の共同発掘に先立ち、地雷除去作業のために作った細道が見える。この道は軍事境界線を通過して南北を繋いでいるが、まだ往来はない。ファサルモリ高地から軍事境界線まではわずか500メートルだ。高地のすぐ隣には孔雀稜線と、もう一つの激戦が繰り広げられた白馬高地がある。この丘の間に水が流れている。この流れは軍事境界線にかかわらず、上ったり下ったりを繰り返す。この川は、曲線を描きながら北から南へ、また南から北へと遡るという意味で、「逆曲川」と名付けられた。
現在、韓国軍当局は9・19南北軍事合意書の履行に向け、約束通りに4月1日から遺骨発掘のための基礎作業を進めている。当初、南北が共同発掘作業を行う予定だったが、北側が約束された日に発掘を始める意思は示さず、ひとまず韓国軍当局が先に発掘を始めた。今後の共同発掘に向けた地雷除去など、基礎作業を行っている。地雷除去作業の途中、多くの遺骨が発掘された区域では、基礎的な発掘作業を並行している。 基礎発掘の面積は28日現在1万2650平方メートル、地雷除去の面積は14万9000平方メートル、遺骨発掘の全体面積は16万1650平方メートルとなる。
軍関係者の説明によると、北側の監視警戒所から北朝鮮軍が南側の遺骨発掘を注意深く観察する姿が見られることもあるという。昨年は、南側で動きがある度に北側が一々確認したが、今年は全くそのような動きを見せないと現場関係者たちは説明した。