全氏の「死者に対する名誉棄損」めぐる争点
国科捜の「全日ビルの銃弾の跡は
ヘリコプター射撃によるもの」発表から3カ月後
全氏、回顧録でチョ・ビオ神父を誹謗
国家機関による調査を否定し「虚偽の事実を摘示」
断定的否定は「名誉棄損の故意性」に当たる
全氏側「ヘリコプター射撃の真実は確認されておらず」
「故意で名誉毀損したわけではない」と強弁
法的処罰は避けようとするが
国科捜の発表が「未必の故意」の証拠になる可能性も
全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領は、2017年4月に発表した自身の回顧録で、5・18光州(クァンジュ)民主化運動当時、戒厳軍によるヘリコプターからの機関銃射撃を証言した故チョ・ビオ神父(2016年死去)について、「聖職者の名にふさわしくない破廉恥な嘘つき」だと書いた。全氏は11日、死者に対する名誉毀損の疑いで光州地裁の法廷に立った。
偽りの主張ですでに亡くなった人の名誉を傷つけた場合、死者に対する名誉棄損罪(刑法第308条)で処罰される。2年以下の懲役や禁錮、500万ウォン以下の罰金に処される。生存している場合は、事実を語ったとしても名誉毀損で罰せられるが、死者に対しては、「虚偽の事実」を広めた場合のみ、刑事処罰が可能だ。このため裁判所は、発言や出版物などの虚偽の有無(虚偽性)を先に判断してから、発言・出版時点に被告人が虚偽であることを知っていたか(故意性)について判断を下すことになる。最高裁は故意性がやや低い「未必の故意」による虚偽事実の摘示についても、実刑を確定したことがある。
全元大統領側は同日、法廷で虚偽性と故意性をいずれも否定した。「チョ・ビオ神父が主張した1980年5月21日午後1時30分から3時ごろの間、ヘリコプターによる射撃があったかどうか、十分証明されていない」とし、「回顧録が発表される前に、国家機関がヘリコプターによる射撃を事実だと判断したことが一度もなかった」と主張した。
検察は、虚偽性はもちろん、故意性も高いと見ている。2017年1月12日、国立科学捜査研究院(国科捜)は光州全日ビルで発見された銃弾の跡が、5・18民主化運動時に生じたヘリコプターからの射撃によるものとみられるという鑑定結果を発表した。全氏の回顧録は、それから3カ月後の4月5日に出版された。検察は、全氏の回顧録が国家機関の認めたヘリコプターからの射撃の存在を否定したものであり、「虚偽の事実の摘示」だと判断した。また、国家機関による最新の調査結果を断定的に否定したことから、その故意性も認められると見た。最高裁(大法院)は「細部の内容において真実と若干異なるか、多少誇張された表現」は容認できるが、「重要な部分が客観的事実と合致しない場合は、虚偽とみる必要がある」と判示した。
同日、全氏側が「ヘリコプターからの射撃はなかった。あったとしても、チョ・ビオ神父が主張する時点に射撃がなかったなら、公訴事実は認められない」とし、逃げ道を探すような主張を展開したのも、こうした理由によるものとみられる。ある判事は「全氏が故意にこうした文を書いたことを立証する直接的な証拠を探すのは難しいかもしれない。しかし、国科捜の発表などは全氏の未必の故意を認める間接証拠にはなり得る」と指摘した。ある弁護士は「回顧録を書いた当時にも、ヘリコプターからの射撃をめぐり議論があっただけに、『ヘリコプターからの射撃はなかった』と断定できる根拠はないと見られる。全氏自らが命令しなかったため、またはメディアの報道を見逃して知らなかったとしても、ヘリコプターからの射撃がなかったと確信できる状況ではない」と話した。
これに先立ち、最高裁判所は2014年、故盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が、巨額の借名口座が発見されたことを苦に自ら命を絶ったと述べたチョ・ヒョンオ元警察庁長官に、死者に対する名誉毀損罪で懲役8カ月の実刑を確定した。