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底をついた人工血管…3歳のミンギュ君は心臓手術を受けられなかった

登録:2019-03-07 08:58 修正:2019-03-07 10:02
小児用人工血管の独占企業「ゴア」 
医療報酬が低いとの理由で韓国から撤収 
病院の在庫が底をつけば手術ができず 
福祉部「望む価格は全部出す」 
供給再開の要請にもゴア社は無回答
「ゴア(Gore)」社の人工血管がないため先天性心臓病の手術を受けられなかったヤン・ミンギュ君(3)//ハンギョレ新聞社

 世宗市(セジョンシ)に住む3歳のヤン・ミンギュ君は、生まれた時から心臓が他の人と違った。心臓の2つの心室のうち1つしか使うことができない。右側の心室はほとんど機能できない大きさであり、弁膜も完全には形成されていない。体に血液を円滑に供給できない。10歩歩いても息切れがして、ヤン君は母親のキム・ジンヒさん(39)に抱っこされて散歩するのを除いては野外活動がほとんどできない。感染を心配して保育園にも通っていない。さらに、だんだん状況が悪くなっている。体が大きくなれば心臓機能がより必要になるが、ヤン君は大きくなるほどだんだん息が苦しくなり、脳に行く酸素量も少なくなるだろうとキムさんは語った。

 ヤン君は2016年3月に生まれてすぐに一度、それから6カ月後にもう一度手術を受けた。今月、完治に向けた最終手術を控えていた。しかしキムさんは先月、青天のへきれきのような話を聞いた。ソウル峨山病院の担当医師は「手術を無期限延期しなければならない」と言った。手術に必要な治療材料である「人工血管」が底をついたからだ。キムさんは「担当医師は今月が手術できる適期だと言った」と言い、「子どもはだんだん息が苦しくなり、チアノーゼまで出始めたが、どうしようもなく待っているしかない」と話した。

 ヤン君の手術が無期限に延期されたのは、人工血管を売っていた業者「ゴア(Gore)」社の医療事業部が2017年9月に韓国市場から撤退したためだ。アウトドア衣類素材「ゴアテックス」でもよく知られているゴア社のメディカル事業部は、人工血管をはじめ医療機器を全世界に供給する企業だ。

 理由は2つだ。韓国の健康保険報酬が低く収益性が落ちる点、GMP(医薬品製造品質管理基準)の認証過程で起きた食品医薬品安全処(食薬処)とのあつれきだ。ゴア社が撤収する際、先天性心臓病手術のできる全国各地の上級総合病院は供給再開まで凌ぐために人工血管などを“買い溜め”しておいた。当時、在庫を用意していた病院は、ソウル峨山病院や世宗病院、セブランス病院、サムスンソウル病院、ソウル大学病院、釜山大学病院、慶北大学病院などだ。ソウル峨山病院の人工血管の在庫はすべてなくなり、残りの病院も1~2個しか残っていない。ヤン君はゴア社の人工血管がないため先天性心臓病の手術を受けられなくなった患児の一人だ。

 人工血管を適時に装着できなければ、先天性心臓病患児の生存確率は低くなる。人工血管は、程度のひどい先天性心臓病の治療手術であるいわゆる「フォンタン手術」になくてはならない必須材料だ。複雑な心臓奇形のある患者の心臓に装着すると、大静脈と同じ機能をする。成人用人工血管はゴア社の製品に代わる他社製品があるが、小児用人工血管は規格化が難しいため代替材がない。オ・テユン大韓胸部心臓血管外科学会理事長は、「複雑心奇形のある患児はたいがい3回にわたって手術を受けるが、3回目の最終手術で必要なのが人工血管だ。血管がなくて適時に手術を受けられなければ、心臓機能が低下し、後遺症も深刻であり、最悪の場合は数カ月以内に死亡する可能性もある」と述べた。ヤン君のようにフォンタン手術を受けなければならない患児は1年で30~40人ほどになる。

 保健福祉部と食薬処も対策作りに乗り出した。保健福祉部は昨年9月28日、「希少・必須治療材料の上限額算定基準」の告示を通じて、希少・必須治療材料については健康保険医療報酬の上限額を引き上げるよう道を開いた。保健福祉部の関係者は「ゴア社が独占的位置を占めているため、いくらでもゴア社側が望む価格をすべて出せるよう、報酬策定範囲を広げた」と述べた。食薬処も先月、患児らが手術を受けられないことを確認した後、急いで供給再開のためのシステムを設けた。食薬処関係者は「2017年に撤収した当時、ゴア社が自社の医療機器に対する食薬処の許可を取り消して撤収したが、先月この許可を食薬処で復活させた」とし、「ゴア社が供給を再開さえすれば、直ちに製品を納品してもらい各病院に販売できるようにした」と説明した。

 韓国政府が乗り出す前から、韓国先天性心臓病患友会や大韓胸部心臓血管外科学会など患者と医師団体も、ゴア社に問い合わせ続けてきたが、ゴア社は一貫して沈黙している。食薬処関係者は「ゴア社にメールを送り、様々な方法で問い合わせたが返事がない」とし、「米国大使館を通じて供給再開を要請している状況」だと述べた。韓国先天性心臓病患友会のアン・サンホ代表も「ゴア社に公文書を送ったが、『韓国からは撤収した』という返事だけが来た。上海、シンガポール、インド、台湾まで問い合わせてみたが、返事がなかったり供給できないという代理店や総合販売店の回答を聞いた」と話した。韓国先天性心臓病患友会と大韓胸部心臓血管外科学会も今月初め、韓国内の衣類販売を担当しているゴア社の別の事業部であるゴア・コリア側に撤収方針の撤回を要求し、実現しない場合ゴア・コリア不買運動をするという内容の公文書を送った。

 ゴア社の北アジア事業部は1月25日、大韓胸部心臓血管外科学会に「ゴア社は韓国ではもう医療機器事業を継続できず、2017年9月付けで韓国市場から事業部を撤収した」という趣旨の返事を送り、それ以上回答がない。6日、ハンギョレがゴア・コリアのハン・ギョンヒ代表に数回通話を試みたが、電話に出なかった。

キム・ミンジェ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/884891.html韓国語原文入力:2019-03-07 07:09
訳M.C