「85万1543ウォン(約8万3千円)」
先月31日、9年ぶりに工場に戻った双龍(サンヨン)自動車労働者のキム・ジョンウクさんが復職後に受け取った初給料だ。警察が2009年の双龍自動車の玉砕ストライキ当時、装備などの被害を受けたとして労働者を相手取って損害賠償訴訟で、仮差し押さえした金額が差し引かれたためだ。25日に受け取った給料明細書で「法定債務金控除」という名目で国が差し引いた金額は91万ウォン(約8万9千円)。キムさんが手にした金額より多い。キムさんと同じ立場にある双龍自動車の復職労働者は3人だ。Jさんは19万771ウォン(約1万8千円)、Cさんは123万ウォン(約12万円)を、給与通帳に入金される前に差し引かれた。
警察は2009年、67人の双龍自動車の労働者に1人当たり1000万ウォン(約98万円)の賃金および退職金の仮差し押さえをした。不動産のある労働者22人には1000万ウォンを追加で仮差し押さえした。計8億9000万ウォンの規模だ。2016年の控訴審後、仮差し押さえは一部解除された。しかし、今も39人に対し3億9000万ウォンの賃金および退職金の仮差し押さえがかかっており、このうち1人は不動産まで仮差し押さえされた。退職金が足りず、仮差し押さえの金額1000万ウォンを満たせなかった3人の労働者が復職して所得が生じると、直ちに差し押さえが再び始まったということだ。
双龍自動車解雇労働者119人のうち、先月31日に復職した人は71人だ。会社は残りの労働者も今年上半期中に復職させることを約束した。2009年のスト以来、9年間で30人の解雇労働者とその家族が命を失った後になって、ようやく聞くことができた初の朗報だった。しかし、復職の喜びを仮差し押さえの重圧が押さえつけている。
「会社が事前に月給が仮差し押さえになるという話をしており、推測はしていました。しかし、旧正月を控えて半分になった給料を受け取ると心が重いです」。キム・ジョンウクさんは29日、ハンギョレとの電話取材で気落ちした声で話した。
金属労組の双龍自動車支部が把握した結果、最近復職した71人のうち、警察の仮差し押さえの対象者は全部で27人だ。ハンギョレの取材の結果、警察は今月中旬に27人の仮差し押さえを解除するという意見を検察に送った。警察庁関係者は「京畿南部警察庁が損害賠償事件を担当しているが、検察側に仮差し押さえ対象者の中で今回復職した20人余りの仮差し押さえを解除してほしいという意見を伝えた」と述べた。警察のこのような判断は、仮差し押さえより損賠訴訟で問題を解決するという考えによるものだ。復職した場合所得が生じるため、いま仮差し押さえを解除しても、最高裁(大法院)に係属中の損賠訴訟が警察の勝訴で確定すれば、差し押さえる財産が残っているだろうと判断した。
にもかかわらず、仮差し押さえが“現在進行形”である理由は、水原(スウォン)地検がまだ決定を下していないからだ。国家が当事者である訴訟は、訴訟指揮を検察が担当する。水原地検の関係者は、仮差し押さえ解除の可否を問う質問に「まだ検討中」と答えた。
損害賠償と仮差し押さえは「金額」と関係なく、当事者に大きな苦痛を与える。これに先立ち24日、高麗大学保健科学学部の教授チーム(キム・スンソプ、パク・ジュヨン、チェ・ボギョン、キム・ラニョン)は、損害賠償の仮差し押さえ労働者233人の実態調査の結果を発表した。その結果によると、過去1年間、損害賠償で仮差し押さえされた男性労働者の自殺を試みる割合は、一般男性の30倍に達した。過去1週間にうつ病の症状を経験したケースも、男性労働者は59.7%、女性労働者は68.8%と、一般の人口よりそれぞれ9.5倍、6.7倍高かった。
「郵便局が(差し押さえ)登記の配達のために度々訪ねてきて、家に人がいないと玄関に裁判所登記を受けるようにシールを貼っていったとき…子どもたちがこれは何かと尋ねたときがつらかった」「すべてを諦めたい気持ち。このようなことがつらかった」「パニック障害で薬を飲んで夜ごと不眠症に苦しみました」。いずれも、キム・スンソプ教授チームのアンケートに応じた損賠仮差し押さえ労働者たちの書きこんだ苦痛だ。
当面は仮差し押さえが心配だが、より大きな恐怖は損賠が確定し、執行が始まることだ。2013年に警察が提起した損害賠償訴訟の1審で認められた金額は14億1000万ウォン(約1億3800万円)だった。控訴審では11億6760万ウォン(1億1400万円)に賠償金額が減ったが、遅延利子がついて双龍自動車の労働者は15億ウォン(約1億4700万円)を賠償しなければならない立場になった。その後、毎年20%ずつ遅延利子がつき、現在損賠金額は20億ウォンを超える。最高裁の判決はいつ出るか分からない。キム・ジョンウクさんは「仮差し押さえはまだしも、損賠金額は本当に払えない規模なので、もっと心配」だと話した。
「手を取って」(損賠仮差し押さえを抑えよう!手に手を取って)の活動家ユン・ジソン氏は「今回の仮差し押さえは、双龍自動車の労働者に復職が希望ではないというシグナルを与えたのと同じだ。双龍自動車問題が完全に解決するには、警察による損害賠償自体が撤回されなければならない」と話した。昨年8月、警察の双龍自動車労働者の鎮圧過程を調査した「警察庁人権侵害事件真相調査委員会」も、警察に「損害賠償請求訴訟と関連仮差し押さえ事件を取り下げよ」という勧告を出したことがある。
金属労組双龍自動車支部などは30日午後1時、ソウル西大門区(ソデムング)の警察庁前で、労働者を相手にした国家損害賠償訴訟を取り下げるよう求める記者会見を開く予定だ。