ソウルの中心街にある地下通信区の通信管路で火災が発生し、「世界最高5G技術力」を標榜したIT強国、大韓民国の“急所”があらわになった。火災でKTの通信網が壊れ、モバイルや有線インターネット、IPTVを使う約21万世帯の通信網への接続が途絶え、ユーザーたちは文字通り通信の“暗黒状態”に陥った。火災現場付近の警察署の112通信システムや病院の電算網、無人警備システムも一時麻痺した。カード決済や電話注文システムが途切れ、レストランやコンビニエンスストアなどでも大きな混乱が起きた。情報通信技術(ICT)が張り巡らされた都心で発生した災難だが、肝心の政府当局の緊急速報メールサービスは、必要な市民に伝わらない無力な状況が発生した。
25日、ソウル西大門(ソデムン)消防署の説明を総合すると、前日午前11時13分ごろ、ソウル西大門区忠正路(チュンジョンロ)のKT阿ヒョン支社の地下通信区光ケーブルで火災が発生し、消防署員や警察など約200人と共に装備70台を投入し火災の鎮圧に乗り出した。火災は同日夜9時26分に鎮火した。KTは通信障害への対応として、旧型通信網の3G網に携帯電話網を切り替えたが、ユーザーたちの接続が殺到したため、円滑に稼働しなかった。
■“急所”露呈した緊急速報メール…治安サービスの欠陥もあらわに
今回の火災で最も深刻な問題点が露呈したシステムは「緊急速報メール」サービスだ。ソウル西大門区や麻浦区(マポグ)、中区(チュング)、龍山区(ヨンサング)一帯に住むKT通信網のユーザーたちは一次的に外部と連絡できる手段がすべて遮断された。24日午後12時5分ごろから送られ始めたソウル市消防災難本部や西大門区庁などの「緊急速報メール」は、通信障害がなかったSKテレコム(SKT)やLGUプラス(LGU+)のユーザーたちには伝わったが、KTユーザーたちには伝わらなかった。そのため、KTユーザーたちは24日午後遅くまで、「通信障害の事実を全く知らなかった」と口をそろえて証言した。ソウル麻浦区上岩洞(サンアムドン)に住む会社員のパク・ジョンインさん(23)は「24日の一日中、洞内にいたが、緊急速報メールが届かなかった」とし、「KT加入者はほかの通信会社に加入している人を通じて通信障害を知らされたため、“フェイクニュース”ではないかと疑ったりもした」と話した。
西大門近くにある警察署の112通信システムの一部も一時麻痺した。25日に行われた警察庁の発表によると、火災が発生した24日午前11時13分ごろから25日午後2時10分まで、ソウル龍山警察署の警備電話や一般電話、112通信システムはいずれも作動しなかった。このため、龍山警察署112状況室の職員がソウル警察庁112状況室に派遣され、直接無線機で状況を伝えなければならなかった。西大門警察署も一般電話の連結が途絶え、25日朝8時まで112通信システムが作動しなかった。麻浦警察署も、警備電話と一般電話との連絡が途絶えており、南大門(ナムデムン)警察署の中林(チュンリム)派出所でも警備電話や一般電話、112通信システムが停止した。今のところ、当該警察署に緊急の犯罪通報や救助要請があったかどうか、判断できない。
■病院の電算網、無人警備システムも麻痺
病院でもインターネットを基盤とする電算網が止まって混乱が生じた。応急状況でKT電話を使う医療陣を呼び出せず、院内放送だけで医療陣を探すという危険な状況も生まれた。
ソウル新村延世大学セブランス病院側は「24日は一日中インターネットが麻痺し、健康保険公団システムに接続することができず、来院患者の保険加入の確認に時間がかかった」とし、「25日現在、インターネットは復旧したものの、一部電話がつながっていない」と説明した。
無人警備システムが麻痺し、週末、不安に怯えたという小商工人たちも現れた。弘益大学近くの衣類売り場のマネージャーであるハン・ソンジョンさん(25)は「KTテレコップ無人警備システムに加入しているが、24日は一日中監視カメラの録画と指紋認識ロック装置が作動せず、午後9時になってようやく回復された」とし、「衣類を販売しているため、盗難問題を監視カメラで解決してきたが、不安で仕事に集中できなかった」と話した。
電話やインターネット、TVまで遮断され、KTユーザーたちは情報空白の状態で恐怖に怯えざるを得なかった。西大門区北加佐洞(プクカジャドン)に住むKT利用者のPさん(42)は「KTを通じて電話やTV、インターネットを使っているが、24日の一日中世の中と完全に遮断された。いかなる情報も手に入らず、以前には感じることのなかった恐怖を感じた」と語った。西大門区新村洞(シンチョンドン)に住むCさん(26)も「24日午前11時ごろから電話やショートメール、インターネットなど何もできず、通信障害でコンビニでも買い物ができなかった」と話した。Cさんは西大門区を出る前まで、「周波数検索中です。緊急呼び出しのみ可能です」というメッセージが表示された携帯電話の画面ばかり見るしかなかったという。
■都心の繁華街の公衆電話に長蛇の列
地下鉄2号線の弘大入口駅と新村駅近くの繁華街では、市民が公衆電話ブースの前に長蛇の列を作る珍風景も見られた。週末を楽しむため、大まかな場所と時間だけ決めて、到着したら電話すると約束をしていた市民は、混乱に陥った。カフェや飲食店、ショッピングモールでカード決済システムがストップし、現金を払うか、口座振込みを通じて取引する様子も目撃された。
全てがスマートフォンを使う環境に合わせられた生活パターンのため、市民らは思いもよらない不便まで経験した。恩平区葛ヒョン洞(カルヒョンドン)に住むKさん(35)は「午後1時までに弘大入口駅近くで予定されていたイベントに行かなければならなかったが、スマートフォンの地図アプリが作動せず、正確な位置が見つからなかった」とし、「道に迷って遅れたが、SKテレコムユーザーたちだけが間に合っていた」と話した。
配達代行業者も大きな不便を強いられた。配達代行業者「バロゴ」の龍山支社の関係者は、「KTを使う配達員たちは仕事をもらえない状況だ。24日には20~30%の配達員たちが仕事ができず、そのまま帰宅した」とし、「通常週末が稼ぎ時だが、よりによって土曜日に事故が起きて、売上げの打撃がかなり大きい」と話した。同関係者は「売場で電話注文を受けられないため、配達員に連絡してほしいと、ひっきりなしに個人電話に電話がかかってきて困っている」と打ち明けた。
■「典型的なリスク社会の一断面をあらわしている」
今回の事故を通じて、韓国社会のIT技術が便宜と消費に集中しているだけで、市民の生存と生業に打撃を与える状況では非常に無力であることが明らかになった。『ほとんどの災難から生き残れる方法』の著者ソン・サンウォン氏は「最悪の災難状態を想定し、政府機関と通信会社が必要な連結網を提供していれば、このような事態にはならなかっただろう」とし、「災難への対応を深刻に考慮せず、各々が個別の投資に集中して、このようなことが起きた」と指摘した。ソウル市立大学のナム・ギボム教授(都市社会学)は「デジタル社会で“中央集権化された”システムは一瞬にして崩壊しかねないという警告は、すでに何度も行われてきた」としたうえで、「通常は問題ないが、バックアップなどがしっかり行われていない場合、莫大な麻痺を引き起こしかねないという点で、今回の時間は典型的な『リスク社会』の一断面といえる」と分析した。