北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が「国防科学院の試験場を訪れ、新たに開発した先端戦術兵器の実験を指導した」と、「労働新聞」が16日付の2面トップで報じた。金委員長による新型兵器実験の現地指導は、2017年11月29日の「火星-15型」大陸間弾道ミサイル(ICBM)級実験発射の現地指導兼「国家核武力完成宣言」以来、1年ぶりだ。
朝米両国が来年初めと予想される2回目の首脳会談の開催問題をめぐり熾烈な駆け引きを繰り広げている中、異例の行動であるため、金委員長の意図と朝鮮半島情勢に与える影響をめぐって、様々な解釈が飛び交う可能性がある。ただし、北側はこの兵器が「先端」だが、戦略兵器ではなく「戦術兵器」であり、攻撃用ではなく、「わが領土を鉄壁で保衛」するための防御用と主張することで、対米用ではないことを遠まわしに強調した。北側は「先端戦術兵器」が具体的に何なのかは公開しておらず、「労働新聞」2面に掲載された写真にも、金委員長など人物が登場するだけで、兵器は映っていない。さらに「労働新聞」1面全面にわたり、金委員長の「新義州市(シンウィジュシ)建設総計画」指導のニュースを報じることで、「先端戦術兵器」実験が金委員長の“最優先の関心事”ではないことをうかがわせた。
この「先端戦術兵器」について、金委員長は「偉大なる(金正日)将軍様が生前に直接種子を取り、特別な関心を注ぎながら開発完成に向けて一歩一歩導いてくださった兵器体系」だとし、「忘れ形見のような兵器」だと意味づけした。「労働新聞」は「優越で威力ある設計上の指標をすべて満足」させたとしながらも、「わが国の領土を鉄壁で保衛し、人民軍の戦闘力を各段に強化する点で、大きな意義を持つ」と評価した。要するに、金正日(キム・ジョンイル)総書記が2011年12月17日に死去する前から「特別な関心」を注ぎ、長い間開発してきた先端兵器だが、あくまでも攻撃用ではなく、“防御用”という主張だ。
この「先端戦術兵器」は、金委員長の現地指導に随行した主要幹部の面々からして、戦術ミサイルや新型砲である可能性がある。「労働新聞」は「チェ・リョンへ、リ・ビョンチョル、リ・ジョンシク、チョ・ヨンウォン、キム・ヨンス、キム・チャンソン、パク・ジョンチョン同志が同行した」と報じた。このうち、人民軍出身の幹部は、労働党中央軍事委員のリ・ビョンチョル軍需工業部第1副部長とパク・ジョンチョン砲兵局長だ。リ・ビョンチョル副部長は昨年7月4日、金委員長が国防科学院を指導して研究開発したという「火星-14型」ミサイル実験発射の現地指導の際にも遂行した人物だ。
専門家らは、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の1年ぶりの兵器実験の現地指導は異例ではあるものの、朝米関係など朝鮮半島情勢に戦略的含意を持つ行動ではないと見ている。元高官は「朝米交渉に関する戦略的メッセージが盛り込まれていると見るには、パンチが非常に弱い」とし、「金委員長の今回の現地指導は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の潜水艦進水式への出席と同じ脈絡の、日常的な安保活動の域を出ていない」と話した。文大統領は金委員長との平壌首脳会談4日前の9月14日、韓国内で初めて開発された3000トン級潜水艦「島山安昌浩艦」の進水式に出席し、「『力を通じた平和』は韓国政府が追求する揺るぎない安保戦略だ」と強調した。慶南大学極東問題研究所のキム・ドンヨプ教授は「兵器の正体を具体的に明かさず、戦術兵器とした点で、国内向けのメッセージという意図が大きいものと思われる」としたうえで、「人民に経済にまい進することを求め(経済と核の)並進を放棄したため、軍に対する関心と支援も減らざるを得ず、安保に確信を持たせることが難しい状況の中、民心と軍心の離反を防ぐためには、対外的に多少否定的なメッセージを与える可能性があってもこのような現地指導活動をするしかなかったものと見られる」と説明した。