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防弾少年団のTシャツは果たして愛国心の象徴なのか

登録:2018-11-13 06:48 修正:2018-11-13 07:16
メンバーが着用したTシャツめぐる議論が 
「嫌韓」と「克日」を越えるべき理由 
韓国人被爆者「原爆の写真は光復の象徴ではない」 
原爆による光復というフレームに閉じ込められると 
核兵器の非倫理性に鈍感になる恐れも
防弾少年団のメンバーのジミンが着用し、議論になっているTシャツ。Tシャツには「愛国心」、「私たちの歴史」、「解放」、「コリア」などの言葉が英語で書かれており、原爆が爆発する写真や光復を迎えて万歳する韓国人らの写真が配置されている=SNSよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 アイドルグループの防弾少年団(BTS)のメンバーが、原爆が爆発する写真が入ったTシャツを着ていたとの理由で、日本放送への出演が取り消されたことをめぐり、波紋が広がっている。日本国内の極右における「嫌韓」の感情と韓国内の一部の「克日」の感情がぶつかり合う中、原爆という人類の悲劇が「嫌韓」と「克日」の対決の素材になってはならないという声が高まっている。

 問題のTシャツは、国内ブランドが光復節を記念するために制作したもので、裏面に「愛国心(PATRIOTISM)」、「韓国の歴史(OURHISTORY)」、「解放(LIBERATION)」、「コリア(KOREA)」などの言葉が英語で書かれており、原爆が爆発する写真や光復を迎えて万歳をする韓国人らの写真が並べられている。昨年撮影されたユーチューブ用のドキュメンタリー「バーン・ザ・ステージ」で、防弾少年団のメンバーのジミンが同Tシャツを着た姿が2秒ほど流れた。

 昨年着たTシャツが改めて議論になったのは、先月、ある日本メディアがジミンのTシャツと別のメンバーのRMがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に掲載した光復節ツイッターを取り上げ、「反日活動」だと非難した記事が話題になったからだ。日本のネット右翼らがこの記事を拡散し、防弾少年団を批判し、日本のテレビ朝日は今月8日、「同放送は所属レコード社に着用意図を尋ねるなど協議を進めたが、総合的な判断の結果、今回の出演は進めない方針だ」として、9日に予定されていた防弾少年団の「ミュージック・ステーション」への出演取り消しを発表した。

 反響は瞬時に広がった。国内の政界とメディアからはテレビ朝日の出演取り消しが「政治的基準で文化交流を防ぐこと」だという批判が相次いだ。日本国内でも出演取り消しが「ダサい状況」だという声が上がった。映画・音楽ジャーナリストの宇野惟正氏は「(出演取り消しまでした)日本のメインストリーム文化を取り巻くダサすぎる状況を変えてください」とツイッターに書き込んでおり、独立ジャーナリストの津田大輔は「政治とマスコミの反応するトーンが1つ(防弾少年団に対する批判)しかないのは恐ろしい」という書き込みを残した。

 今回の放送出演の取り消しが、2015年の朴槿恵(パク・クネ)政権時代に締結した韓日慰安婦合意によって設立された日本軍慰安婦和解・癒やし財団を解散しようとする韓国政府の動きと、日本企業に強制徴用被害者への賠償を命じた韓国最高裁(大法院)の最終判決をめぐる政治的ジェスチャーという分析もある。嫌韓の求心的な役割を果たしてきた日本の右翼団体「在特会」(在日特権を許さない市民の会)は13日、防弾少年団の公演が行われる東京ドーム前でデモを行う計画を立てている。

■韓国人被爆者「原爆写真は光復の象徴ではない」

 しかし、波紋が広がる中、テレビ朝日の出演取り消し措置や日本極右団体の在特会の動きに対する批判とは別に、光復を記念する象徴として、人類の悲劇である「原爆写真」を使うのは適切でないという声もあがっている。1943年、日本の広島で生まれて被爆被害を受けた第1世代韓国人被爆者のシム・ジンテ韓国原爆被害者協会陜川支部長は、ハンギョレとの電話インタビューで「原爆写真は光復の象徴として適切ではない。韓国は被爆者2400人以上が依然として生存している国だ。原爆が“痛快”なことではないはずだ」と指摘した。

 日本の放射線影響研究所は、原爆が爆発してから2カ月から4カ月の間に死亡した被爆者が、広島で9万~16万6000人、長崎で6万~8万人と推算している。さらに、韓国原爆被害者協会の説明と日本内務省情報局の資料などを総合すると、1945年8月に日本の広島と長崎に2度投下された原子爆弾によって被爆した70万人の被害者のうち、朝鮮人は7万人程度と推定される。朝鮮人被爆者は4万人以上が命を失っており、3万人だけが生存し、このうち約2万3000人が朝鮮半島に戻ってきた。2018年基準で大韓赤十字社に登録された国内の原爆被害者は2344人で、平均年齢は83歳だ。

 原爆の被害を被ってから70年が経ったが、韓国人被爆者らは昨年になってようやく公式に法的支援を受け始めた。昨年から施行中の「韓国人原子爆弾被害者支援のための特別法」は、原爆被害者の実態調査や医療支援などを法制化した韓国初の原爆被害者公的支援制度だ。ただし原爆被害が受け継がれたとされる子世代や孫世代の被害者に対する実態調査や医療支援策などは、同法に盛り込まれなかった。

■韓国は原爆被害当事国、「光復フレーム」に閉じ込められてはならない

 このため、慶尚南道陜川(ハプチョン)にある「平和の家」のイ・ナムジェ院長は、原子爆弾の投下で多くの朝鮮人が殺傷され、韓国も原爆被害で苦しんだ被害当事国にもかかわらず、韓国社会が広島・長崎原爆に対する「光復フレーム」に閉じ込められ、むしろ核兵器そのものの非倫理性には鈍感になっていると指摘した。陜川は韓国の被爆者の70%の出身地であることから、「韓国の広島」と呼ばれている。

 イ院長は「韓国社会は原爆が解放をもたらしたという『光復フレーム』に閉じ込められている。これは核兵器そのものの非倫理性に鈍感であるだけでなく、原爆の被害者性を国際社会に訴える日本のフレームにも閉じ込められる結果をもたらす」と指摘した。イ院長は続いて「原爆は『光復の象徴』ではなく、『核被害のない世界』の象徴として使われなければならない」と指摘した。

 韓国人の原爆被害者が人類の悲劇である原爆被害と共に、植民支配の被害を同時に受け、二重の悲劇に苦しんだことに注目すべきという指摘もある。2004年、翰林大学医科大学のジュ・ヨンス教授が被爆者約2800人を対象に健康診断と郵便設問調査を行った結果、原爆被害1世代のがん発生率と鬱病の発生率は、一般人よりそれぞれ70倍と93倍高く、第2世代の半数が10歳未満の年齢で死亡した事実が明らかになった。ジュ教授は「防弾少年団が、原爆によって(朝鮮半島は)光復がなされたという意味でTシャツを着たならば、それは不適切な表現だ」とし、「原爆による大量殺傷はそれ自体で人類の悲劇であり、特に韓国の原爆被害者らが、植民地被害と被ばく被害という“二重の悲劇”を、半世紀以上にわたって一人で背負ってきた当事者であることを考えると、さらに不適切と言わざるを得ない」と話した。

■核問題だけは「ナショナリズム」を超えるべき

 今回の議論を通じ、広島と長崎の原爆による解放と独立という「ナショナリズム的構図」を越え、「核兵器の非倫理性」というより幅広い問題提起へと認識を広げるきっかけを作るべきという声もあがっている。

 翰林大学日本学研究所のオ・ウンジョンHK研究教授は「(テレビ朝日の)出演取り消しは間違っている。極右が(防弾少年団のTシャツを)嫌韓の口実としている」と指摘しながらも、「しかし、同時に韓国が原爆問題について過渡に被害者と加害者の構図に閉じ込められているのではないかと思う」と指摘した。オ教授は「核兵器は基本的に人類の最も悲劇的な破壊だった。日本人らの死を解放の喜びが込められた万歳写真と並べるのが果たして適切なのかについて考えなければならない」とし、「原爆が日本の降伏を多少早めたかも知れないが、結果的には不要な殺傷だったという歴史学界の議論もある。もう少し省察的で繊細な世界史的歴史認識をもとに、核問題だけは“ナショナリズム”を超える必要がある」と説明した。

イム・ジェウ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/869876.html韓国語原文入力:2018-11-1222:20
訳H.J

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