16万9398時間が消えた。7058日、19年に当たる時間が数回の「クリック」で蒸発した。郵便配達員にはきつい“労働”だったが、誰かにとっては簡単に削除できる“数字”に過ぎなかった。「超過勤務時間の操作は不可能だ」と主張してきた郵政事業本部の言葉は偽りだった。
22日、共に民主党のシン・チャンヒョン議員を通じてハンギョレが入手した郵政本部の「最近3年間における公務員配達員の超過勤務労時間の全数調査」結果によると、全国9つの郵政庁のうち、ソウル・江原道庁を除いた7カ所で2014年10月から2017年9月まで3年間にわたり、配達員らの超過勤労時間を縮小・操作した事実が明らかになった。全体の配達員の3分の1に当たる4452人の労働時間が17万時間近く削除された。
例えば、釜山郵政庁は1834人を対象に10万5657時間を減らした。京仁庁は696人から3万2366時間を、慶尚北道庁は727人から1万9604時間を削った。さらに、全羅南道・忠清・全羅北道・済州庁などでも超過勤務時間の縮小の事実が明らかになった。郵政事業本部は今年10月の国会国政監査当時、京仁庁による超過勤務時間の操作状況が明らかになったことを受け、最近3年間の超過勤務時間を全数調査した。郵政本部はこれまで削除した超過勤務手当て約12億ウォン(約1億2千万円)を24日、配達員たちに支給する方針だ。
■数回の「クリック」で数字が消える
全国郵政庁は「e-人」という公務員の電子人事管理システムを使用している。配達員は毎日朝「e-人」システムで業務開始前に超過勤務時間を申請する。管理者がそれを検討して事前に申請された超過勤務を承認すると、業務を終えた配達員が実際の勤務時間を再度登録する。その後、管理者が再び度承認する方式だ。
しかし、このシステムで超過勤務時間の縮小・操作は数回のクリックだけで行われた。調査の結果、各郵便局は毎月末に配達員個人別の超過勤務時間を合算するが、管理者が勝手に数字を減らし、「0」時間に削除してきたことが分かった。1人当たり、多くは数百万ウォンの超過勤務手当てが支払われなかったのだ。
実際、同日の全数調査資料によると、牙山郵便局の配達員Cさんの場合、2016年1月の実際の超過勤務時間は143時間だったが、95時間だけ認められた。「特別疎通期」だった2016年4・13総選挙の際は、1カ月で197時間超過勤務を行ったが、122時間だけ認められた。選挙シーズンは広報物の配達が多く、配達員の間では「死の2週間」と呼ばれる。このようなやり方でCさんがもらえなかった超過勤務手当ては2016年1年だけで686万ウォン(約70万円)に達する。「e-人」システムは2000年に導入された。今のように勤務時間を修正できるようにシステムが変更されたのは2010年下半期からだった。3年分の実態調査を超える広範囲な被害が予想される状況だ。
■過労死の立証は容易になるだろうか?
労働時間は過労死認定と直結する主な根拠だ。配達員の死亡事故は、最近5年間で79件に上る。今年だけで自殺・心血管疾患などで配達員16人が死亡した。遺族らは過労による労働災害と主張してきたが、郵政本部側は配達員の業務時間が適切な水準だと対抗してきた。
郵政本部は実際、今年6月に京畿道加平(カピョン)郵便局所属のある配達員が脳出血で死亡し、「過労死」疑惑が持ち上がった際、報道資料を発表して「配達員の平均勤務時間は2016年基準で平均2531時間、週当たり48.7時間であり、労働基準法で定めた週52時間の労働時間を遵守している」と主張した。しかし、これは縮小された超過勤務時間を基にした主張だった。実際の労働現場では郵政本部の労働時間集計が非現実的という指摘が相次いだ。労働者運動研究所は2013年「配達員労働者の労災・職業病の実態」調査を通じ、配達員の平均週当たりの労働時間が週64.6時間に達すると発表した。
これを受け、全国の郵便配達労働組合(集配労組)は賃金未払いや公文書操作などの容疑で、郵政本部などを告発する案を検討している。超過勤務時間の操作は刑法(公電子記録偽変作)、超過勤務手当ての未払いは労働基準法違反の余地がある。雇用労働部関係者は「まず郵政本部で労働時間短縮の実態をきちんと調査したかどうかの真偽から判断する予定」だとし、「調査が不十分なものと判断された場合は、勤労監督を進めることもできる」と話した。しかし、郵政本部側は「配達員たちが予想される超過勤務時間を事前に申請し、管理者がこれを承認する過程で生じた単純ミス」だとし、「配達員が実際に超過勤務をしたかどうかにかかわらず、手続き上の問題が見つかったため、差額に当たる超過勤務手当てを24日まで一括支給する方針」だと話した。
■成果給をもらうために労働時間を削ったか
集配労組は、朴槿恵(パク・クネ)政権当時、公共機関に強要されていた成果年俸制の導入が超過勤務時間の縮小・操作を煽ったと指摘した。「郵政本部が人件費などコストを減らし、予算をあまり使わない郵便局の管理者に高い等級を与え、成果給を支給したため、いい等級をもらうために管理者らが配達員を追い込んだ」ということだ。実際昨年、郵政本部は超過勤務手当ての関連予算の1100億ウォン(約113億円)のうち、280億ウォン(約29億円)を返却し、返却の割合が25%を超えた。
文在寅(ムン・ジェイン)政権発足後、成果年俸制は廃棄手順を踏むことになったが、超過勤務時間の指定を管理者が事後に調整できる構造を直さなければならないという指摘もある。シン・チャンヒョン議員は「現在は超過勤務時間をあらかじめ決めておいて勤務命令を下し、その後にこれを合算して手当を与えるため、『無料労働』が続く可能性がある」とし、「システムの改善が急がれる」と話した。
これについて、郵政本部は「今後、超過勤務時間と関連しては申請された時間をその都度確認した後で承認するよう、すでに指示した。新しい手続きに通りにすれば、今後このようなことが再発しないだろう」と話した。