裁判所が19日未明、14時間40分の長考の末に出した、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長(49)対する拘束令状棄却は、「逃走」や「証拠隠滅の恐れ」など、令状発行の形式的事由ではなく、賄賂の疑いに対する特検の証明が足りないという“実質的”判断である点で注目される。今後、イ副会長の贈賄容疑立証の核心要素である対価性を、特検チームがどのような戦略で補完していくのかに関心が集まっている。
イ副会長の拘束前被疑者尋問を担当したソウル中央地裁のチョ・ウィヨン令状専担部長判事は、対価関係と不正な請託についての疎明不足と、支援の経緯に対する事実関係と法理適用に争いの余地があるという理由を挙げて、拘束令状を棄却した。賄賂の核心的構成要件だけでなく、全般的な捜査過程にも様々な穴があることを示したものと見られる。
裁判所が「対価関係」と「不正な請託」が十分解明されていないと指摘した部分は、賄賂立証の“核心”を否定したという点で、特検チームにとって痛手になった。イ副会長がサムスン物産・第一(チェイル)毛織の合併など、経営権継承の過程を支援してほしいという「不正な請託」を行い、朴槿恵(パク・クネ)大統領とチェ・スンシル氏側に430億ウォン(約41億9千万円)台の「経済的対価」を与えたという特検チームの主張に、疑問を提起したのだ。朴大統領とイ副会長が行政的支援と経済的対価を交換したという特検の主張より、「賄賂の提供ではなく、一種の脅迫による支援」というサムスン側の主張を受け入れたわけだ。
イ副会長がチェ・スンシル氏(61・拘束起訴)側を支援した経緯に関する事実関係と法理の適用を裁判所が問題視したのは、捜査の“基礎工事”が不十分だと判断したためと分析される。特検チームが、これまで集中してきた朴大統領側に対するサムスンの3回にわたる支援の過程と、大統領府から大統領府経済首席室、保健福祉部、国民年金公団につながるサムスン物産合併への賛成を促した疑惑に対する捜査がずさんだと見たのだ。
法曹界の一部からは、特検チームが贈賄嫌疑が確実な部分に範囲を限定して拘束令状を再請求する必要があると指摘する声もあがっている。特検チームはイ副会長のミル・Kスポーツ財団への拠出金について、第3者供賄の容疑を適用したものの、政府が文化隆盛の名目で推進する財団に他の企業も拠出金を出しただけに、その性格を“賄賂”と見るには争いの余地がある。一方、チェ氏の娘チョン・ユラ氏の乗馬訓練支援費名目で、イ副会長がチェ氏所有のコレスポーツに送った金銭は、事実上、朴大統領を念頭に置いて渡したという点でわいろ性が明確である。特捜部のある検事は「拘束令状の請求は、犯罪事実が完璧に解明されていることが認められる範囲に絞らなければならない。ところが、特検チームが財団への拠出金まで拘束令状に盛り込んだため、令状に焦点が明確でない弱点がある」と話した。
サムスン物産の合併がイ副会長の経営権継承を完成するための全体ロードマップの一部に過ぎないという点も、特検チームが追加で究明しなければならない部分だ。これは、サムスンの合併が行われた後に金銭が渡されたため、イ副会長が朴大統領に請託する理由が全くなく、したがってわいろ性がないというサムスン側の主張を崩す作業でもある。特検チームは、サムスン物産合併の件以外にもイ副会長の経営権継承の全般を検討し、追加でわいろ性の立証を補完する計画だ。イ副会長の経営権承継のためには、サムスン物産の合併だけでなく、公正取引法の改正を通じた中間金融持株の導入や合併に伴う新規循環出資構造の解消など、解決しなければならない課題が少なくない。