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<セーフティーネットなき韓国の構造調整1>造船会社「物量チーム」の半数に失業給与なし

登録:2016-06-09 07:23 修正:2016-06-10 07:03
54.6%が雇用保険未加入
特別雇用支援業種指定でも恩恵なし
全国金属労組や造船業種労組連帯組合員が8日、ソウルの大統領府近くで開かれた「一方的な構造調整反対、ずさんな経営責任者処罰を要求する記者会見」でスローガンを叫んでいる=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 イ・ミンソン氏(仮名、53)は事務職として生涯勤めてきた会社が2010年に不渡りになった。会社更生法の適用手続きに入った会社は退職を勧告した。50歳近い年齢で事務職として雇ってくれる会社はなかった。2013年、偶然に造船業生産職の労働者を求むという地下鉄の広告を見た。イ氏は健康診断を受け、巨済(コジェ)にある大宇(デウ)造船海洋玉浦(オッポ)造船所へ入った。大宇造船海洋の生産職とばかり思って働き始めたが、後になって分かったのは「物量チーム」(下請け会社からさらに下請けされる孫請けの契約職労働者)ということだった。 勤労契約書を作成したかどうかもはっきりしないが、雇用保険に入っていないことは確かだ。 当時の物量チーム長は「税金全部出していたら何も残らない」ときっぱり断った。「どうしてもそうしてほしいなら、会社の出す保険料まで自分で出せと言われました」。これはイ氏が失業しても失業給与(求職給与)は全く受取れないという意味だ。

 造船業の構造調整が急な勢いで進められる中、現代重工業が生産職労働者に対し史上初の希望退職を実施するなど、人員削減の動きも本格化している。特に下請会社の非正規労働者は「構造調整の第一順位」に挙げられる。 しかし、彼らのうち相当部分は雇用保険さえ加入しておらず、失業給与も受給できない。中国の追い討ち、急速な技術変化、低成長などで構造調整に対する不安はいよいよ高まっているが、雇用安全網は相変らずお粗末で死角地帯が多く、労働者に対する基本的な保護の役割も果たせないでいると指摘される。

■孫請け労働者、一番先に切られるが安全網は皆無

 「元請けとは口頭で請負契約を結ぶ。業務内容、期間設定は別になく、ブロック単価だけ策定して仕事を始める。再契約はなし。単価が合わなかったり工程を合わせられなかったりすればそれで終わりだ。いつも不安だ」(物量チームの労働者、44)。 「構造調整が大々的に実施される。急な要で雇用した人員だから、気に入らなければ切り捨てる。勤労契約書を作成しなかったから、そのまま辞めるだけだ。雇用安定なんて一体どこにあるんだ?断崖の上に張った綱の上に立っているようなものだ」(物量チーム労働者、42)

 造船業の物量チーム労働者が伝える雇用不安だ。「張った綱の上に立っている」が、落ちた場合受け止めてくれる網はない。イ・ミンソン氏は「物量チームにいたくない」と言った。4大社会保険にも入り、失業給与も退職金も支給される1次下請会社の正社員として停年まで働きたいと言った。

 2015年の雇用形態別勤労実態調査によれば、正社員の雇用保険加入率は95.4%にのぼるが、非正規労働者は66.7%にとどまる。 特に短期契約労働者と日雇い労働者はそれぞれ65%と46%で、さらに低い。 造船業種の特殊な非正規雇用形態である「物量チーム」の下請労働者がこれに属する。

「常に不安 … 断崖に張った綱の上に立っているようなもの」

勤労契約書なしで口頭契約
「物量チームにいたくない」
雇用保険加入しても 6カ月後の適用

 造船業の労働人員は元請けの正社員から始まって 1次下請会社の常用職ー期間制ー短期契約雇用を経て 2次、3次の下請け会社である物量チームまである。 物量チームは10~20人ずつチームを組むが、契約期間は普通3カ月だ。 再契約がなければそのまま退出となる。 実際に現代重工業だけで過去16カ月間に下請け労働者8490人が仕事を失った。

 さらに大きな問題は、物量チームの下請け労働者の半数近くが雇用保険に加入していないという事実だ。全国民主労働組合総連盟(民主労総)の金属労組が物量チーム下請け労働者489人にアンケート調査を行ないまとめた「2015年造船業種物量チームの労働条件実態研究」によれば、4大社会保険(雇用保険、健康保険、国民年金、労災保険)に加入していると回答した労働者は61.9%にとどまる。2014年に民主労総慶南支部が発表した「巨済・統営・固城の中小造船所不正規労働者実態調査」でも、雇用保険に加入している物量チーム労働者は54.6%だ。

 政府は現在、造船業を「特別雇用支援業種」に指定して支援する方案を検討しているが、この対策も下請け労働者は避けて通る可能性が大きい。

 特別雇用支援業種に指定されれば、政府は雇用維持支援金、特別延長給与、転職・再就職などに対する支援を拡大する。 90~240日間支給される失業給与は120~270日に増えて、支給水準も失職前の平均賃金の50%から60%に引き上げられる。支援期間は1年以内と決められるが、その後も状況が改善されなければ期間延長を申し込むことができる。 しかし「雇用保険加入労働者」という但し書きが付いている。 造船業が特別雇用支援業種に指定されても、物量チーム労働者2人のうち1人は何らの恩恵も受けられないということだ。失職の危険性が一番高く生計支援が一番切実な階層が、むしろ政府の特別支援から抜け落ちるわけだ。

■ 広い雇用保険死角地帯

 1995年に雇用保険が初めて導入されるとともに、失業給与制度など雇用安全網の制度的枠組みは取り揃えられた状態だ。 ところが法的・実質的死角地帯があまりに広く、実際の失職後に雇用保険の恩恵を受けられない労働者があまりにも多いというのである。

 最大の法的死角地帯は自営業者だ。 2015年3月現在の就業者2550万人のうち自営業者は670万人。 彼らは雇用保険の恩恵を受けることができない。 雇用保険は基本的に賃金労働者(1880万人)を適用対象とするからだ。 賃金労働者の中でも雇用保険加入の割合は64%(1204万人)にとどまる。 公務員など非適用職種(140万人)と特殊形態勤労者(55万人)▽65歳以上(93万人)▽1カ月の労働時間が60時間(週15時間) 未満の労働者(117万人)は法的に適用対象から除外される。残りの280万人は事業主や労働者が保険料が負担で雇用保険加入をしないケースだ。 結局、雇用保険加入者は全就業者の47.2%ほどだ。 特に雇用保険加入率は臨時・日雇いであるほど低く、所得が低いほど低いのに、彼らは雇用状態さえ不安定だ。常用職の失職経験率は 4.3%で低いが、臨時職は16%、日雇いは31.7%と高い数値を示している。

■ 自発的離職者は受給できず

 雇用保険に加入していても、失業給与を受給するには過去18カ月の適用対象期間中に180日以上被保険者として雇用保険料を納めた実績がなければならない。大宇造船海洋労組が最近下請労働者の雇用保険加入を督励しているが、彼らが特別雇用支援業種指定の恩恵を受けることができるかどうかが未知数だ。

 被保険期間を満たしたとしても、会社を「自発的」に去った場合は、やはり失業給与は支給されない。この基準によれば、サムスン重工業社内下請け会社のソンウ企業で働き、今月11日に命を絶ったチョン・ヒョヌ氏(仮名、38)も失業給与対象になれない。 会社の人事命令に不満を提起して自ら辞表を出したからだ。 チョン氏は 9日、会社の組織改編で物量チームに移るよう通告を受けた。 兵役特例で造船所の下請会社に入社して25歳で班長になったほど実力を認められていたチョン氏は、屈辱を感じた。そして辞表を出して20年間働いてきた職場を去り、翌日遺体で発見された。

 難しい受給資格要件のために、雇用保険加入者だった人が失業者になっても失業給与を受給する割合は20%にとどまる。

■労働市場の外部者を保護せねば

 「巨済、統営、固城の造船所下請け労働者支援対策委員会」のイ・キム・チュンテク政策広報チーム長は「既存の雇用保険制度に固執しては造船業の大量解雇事態を解決できないだろう」と述べた。韓国労働研究院のパン・ハナム院長は延世大博士課程のナム・ジェウク氏と共同で発表した「雇用保険の死角地帯と政策課題に関する研究」で、「制度外にいる求職者を保護する失業扶助制度の導入を深刻に考慮する必要がある」と指摘した。 韓国労働研究院のイ・ビョンヒ先任研究委員は「低所得労働者に対して社会保険料を支援するトゥルヌリ事業があるが、膨大な死角地帯の規模に比べてその解消効果には制限がある」として「新規加入者を優待する方向で事業を再設計し、支援金を高めるべきだ」と提言した。

チョン・ウンジュ、パク・テウ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

韓国語原文入力:2016-05-22 21 

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/744985.html 訳A.K 

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