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[寄稿]ドナルド・トランプというワイルドカード

登録:2016-05-30 08:30 修正:2018-06-04 06:36
ジョン・フェッファー米外交政策フォーカス所長

 ポーカーゲームのワイルドカードはゲームを楽しくさせてくれる。だが、ワイルドカードは勝敗を変え、形勢をより予測不可能なものにしてしまう。だから純粋なポーカー愛好家なら、ジョーカーのようなワイルドカードはゲームから抜いてしまおうとする。

 米国の政治で大統領選候補指名争いは、ワイルドカードを除去するための審査過程の役割を果たしている。ところが、ドナルド・トランプというワイルドカードが共和党大統領候補に指名された。彼が大統領選候補になると予測した人はほとんどいなかったが、その予測は見事に外れた。政界の主流派は、彼が現状維持の状態を覆しはしまいか非常に恐れているうえ、政治的な純粋主義者たちもポーカーの純粋主義者たちのように、政界からジョーカーを除去したいと思っている。

 私もトランプが11月の大統領選で敗北するものと見ている。彼は歴代の大統領選挙候補者のうち非好感度が最も高い。彼は女性とヒスパニックを激しく攻撃した。2012年の大統領選挙で、女性は全有権者の53%、ヒスパニックは8.4%を占める。共和党予備選挙で彼を勝利させた資質、例えば人種的な偏狭性や無節操な言動、スピーチの非一慣性などは、本大会で有権者たちに訴える力を発揮できないだろう。

 しかも彼は、共和党を徹底的に分裂させてしまった。2012年の共和党大統領選候補だったミット・ロムニーとネオコンたちは、彼に対する支持を拒否しており、共和党も(本大会で)スムーズで効果的に動けないだろう。トランプは(本大会での)敗北ばかりか、大差で負けるものと思われる。しかし、こうした予測も伝統的な政治分析に基づいたものだ。トランプはあくまでワイルドカードだ。彼は11月の選挙でこうした予測を覆せる。

 トランプは行動ばかりかその提案も予測不能だ。北朝鮮の指導者の金正恩(キムジョンウン)と直接会って交渉できると明らかにしたこともある。ワシントンの主流の政治家たちは、トランプの考えが無法な北朝鮮政権に正統性を与えるとうろたえる。北朝鮮にしてもそんな提案には懐疑的だ。ジュネーブ駐在北朝鮮大使のソ・セピョンは「役に立たない」「選挙用行為」と一蹴した。

 トランプは政治家であったことすらない。放送局の経営陣が新しいテレビショーを紹介する時のように、トランプはメキシコとの国境線での障壁の設置、ムスリム移民者の追放、水拷問の導入などの提案を繰り広げる。新聞の見出しで気を引くようにさせ、新しい忠誠なファンを作るためのものだ。

 したがって、トランプが北大西洋条約機構(NATO)を無用の長物だとし、韓国や日本に駐留する米軍の撤収を言及したとして、「大統領トランプ」が実際に海外駐留米軍を縮小させるということを意味しない。トランプは国防省と交流したことも、外国の指導者と交渉したこともない。発言が現実のものとして検証されたこともない。トランプはほとんど「リアリティーテレビショー」を通じて「リアリティー(現実)」を理解しようとする。

 最近になりトランプは、もっと「大統領らしく」なりたいと話しだした。トランプの参謀も、彼をもっと落ち着かせ、予測可能な存在に変えることはできる。しかし、そんなことは起きないだろう。トランプが今の姿を捨てれば、彼は自分の聴衆と主要な支持層を失うだろう。しかも、彼が正気を取り戻して示す政治見解で共和党指導部を説得するには、すでに遅すぎる。

 トランプのとんでもない提案を冗談であると思うのは、誤っていたり合っていたりする。彼は何かを語る時、真剣そのものだ。しかし、翌日になり単なる冗談だったといった具合で話す。

 成功する政治家になるにはメッセージの一貫性を維持しなければならない。しかし、トランプはそんなことには興味がない。このことからトランプはすべての大統領選挙候補の中で最も危険といえる。しかし、トランプはあまりにも予測不能なため、11月の選挙で意外な勝利を収める可能性もある。トランプに関するすべての予測は通じない。

ジョン・フェッファー米外交政策フォーカス所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-05-29 19:17

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/745894.html訳Y.B

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