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[ニュース分析]韓国与党院内代表の無責任極まりない核武装論

登録:2016-02-16 01:48 修正:2016-02-19 08:53
核武装=国際的孤立
セヌリ党のウォン・ユチョル院内代表が15日、国会交渉団体代表演説をしている途中で水を飲んでいる=イ・ジョンウ先任記者//ハンギョレ新聞社

「核武装」の公式提起、何が問題なのか

 セヌリ党のウォン・ユチョル院内代表が15日、国会院内交渉団体代表演説で自衛権としての「核・ミサイル」保有を主張したのは、国内の極右勢力を中心に断続的に提起されてきた「核武装論」が、政界で公式提起されたという点で問題と言える。与党院内代表の公式国会演説は国内外に大きな波紋を呼ぶ可能性がある。核武装論は、国際政治の現実からして、非現実的でだけではなく、経済・外交安保的側面で大きな打撃を与える自殺的かつ無謀な主張だ。ソウル大学国際大学院のイ・グン教授(国際政治学)は「ウォン・ユチョル代表の演説は、私たちも北朝鮮と同じ道をたどることに他ならない」とし「核武装を追求すれば、北朝鮮と同じように韓国も国際社会の制裁を受けて孤立し、深刻な経済的打撃を受けるだろうと」と指摘した。

1、韓米同盟を破棄するのか? 
燃料濃縮・再処理、韓米原子力協定破棄しなければ

 核武装するためには、兵器級のウラン濃縮(90%)を行ったり、プルトニウムを再処理しなければならない。しかし、韓国は兵器級濃縮どころか平和的目的の独自のウラン濃縮とプルトニウム再処理も禁止されている。唯一の同盟国である米国政府と結んだ韓米原子力協定にそう明記されている。米国政府に推しつけられ、韓国政府も受け入れざるを得なかった。米国政府は、李明博(イミョンバク)・朴槿恵(パククネ)政権が韓米原子力協定改正交渉の際に求めていた「パイロプロセス」(核燃料の再処理技術)も許可しなかった。しぶしぶ初期ステップの研究(電解還元)のみを許可した。韓国は5年近い交渉の末、42年ぶりに改正された韓米原子力協定でも平和的目的の濃縮・再処理を米国に認めてもらえなかったのだ。さらに、アーネスト・モニーズ米国エネルギー省長官は昨年6月15日、ワシントンで開かれたユン・ビョンセ外交部長官との改正原子力協定の署名式でも、「私たち(米国)は非核化という目標を強く支持する」として、韓国の濃縮・再処理に対する反対の意思を重ねて強調した。改正された米原子力協定は、昨年11月25日に発効した。核武装をするためには、韓米原子力協定を破棄せざるを得ない。仁済大学のキム・ヨンチョル教授は、「韓米原子力協定の破棄は、すなわち韓米同盟の破棄」とした上で「核武装を主張する人たちは、自分が何を言っているのか本当に分かっているのか、疑わしい」と批判した。

2、国際社会で孤立しようとするのか? 
「NPT違反」...国連の制裁で経済・外交に大打撃

 韓国を含めて189カ国が加盟している核不拡散条約(NPT)は、核兵器保有・開発・移転などを厳しく禁じている。この条約に基づいて核兵器保有が国際法的に容認された国は、国連安全保障理事会(安保理)常任理事国5カ国(米国、ロシア、中国、イギリス、フランス)だけだ。インド、パキスタン、イスラエルも、実質的核保有国だが、これらの3カ国は、核不拡散条約に加盟していない。また、米中など核保有国がこれらの3カ国の核保有を事実上容認している。国連安保理が重ねて制裁決議を出す北朝鮮とは立場が違う。北朝鮮は1985年12月12日、核不拡散条約に加盟したが、朝米間の対立が頂点に差し掛かった1993年3月12日、条約脱退を宣言しては、これまで復帰していない。韓国は朴正煕(パクチョンヒ)政権当時の1975年4月23日、核不拡散条約の86番目の正式批准国になった。核不拡散条約加盟国は、国際原子力機関(IAEA)との核安全措置協定(セーフガード)を結び、核燃料の軍事専用かどうかと関連した査察を受けなければならない。核不拡散条約は核の保有を厳しく禁止しているが、平和的目的の濃縮・再処理は、主権的権利として認めている。しかし、韓国は、この権利も韓米原子力協定と朝鮮半島非核化共同宣言によって放棄した。

 韓国が核武装に乗り出すと、核不拡散条約の違反で国際社会の制裁を受けざるをえない。韓国が核物質を軍事的に転用した事実が確認されれば、国連安全保障理事会は、北朝鮮と同じく韓国を対象に制裁決議を採択し、経済・外交・軍事的制裁を加えることになる。韓国が国際社会から取り残されるのだ。貿易依存度が99.5%(2015年韓国銀行基準)に達する韓国が、国際社会の制裁の中で現在のような生活の質を維持するのは、基本的に不可能だ。

 国連は1968年、安保理決議255号を採択し、不拡散体制の維持と強化のために核非保有国が核保有国から攻撃を受けた際、国連の介入と保護を約束し、5大核保有国も1978年の国連軍縮特別総会で核非保有国を核攻撃しないという約束をした。前者を「積極的安全保障」、後者を「消極的安全保障」という。

3、長期停電に耐えられるか 
発電用の核も封鎖...「ブラックアウト」の日常化は避けられない

 韓国はエネルギーの国外依存度が96〜97%に達するエネルギー弱小国だ。 23の原子力発電所による原子力発電の割合が30%(「2015年原子力白書」)に達する。核エネルギーへの依存度が世界4位、電力消費量が世界10位のエネルギー多消費国でもある。「エネルギー弱小国+多消費国」、これが韓国の現実だ。このような状況では核武装は韓国社会に災いをもたらす可能性が高い。韓国は原子力発電所で使用されるウランを100%輸入している。フランスから原鉱を買って、米国で低濃縮に処理し、原子力発電所で使用する。韓国が核武装に出れば、核発電所用の低濃縮ウランの輸入が不可能になる。核不拡散条約と国際原子力機関の核安全措置協定違反で国際社会の制裁を受けざるを得ないからだ。ウランは、低濃縮であっても場合によっては核兵器の開発に使われる高濃縮ウランに転用できる戦略物資であるため、国際市場が厳しく統制されている。お金があったらいつでも買える一般的な商品ではない。北朝鮮やインド、パキスタン、南アフリカなどの核開発国が例外なくウラン埋蔵量が豊富な国であるのも、そのためだ。

 低濃縮ウランの輸入が不可能になると、国内のエネルギー消費の30%を支える原子力発電所が一斉に止まることになる。真夏の一時的な大量停電(ブラックアウト)だけでも大騒ぎになる韓国社会が、慢性的な「ブラックアウト」の状況を耐えなければならなくなる。核武装をしようとする人たちが「反核」の哲学に基づいて原子力発電を放棄し、生態エネルギーの開発に力を入れることも期待できない。

4、核開発の暗い影 
2004年の「核物質」問題...外交総力戦の末に収拾

 盧武鉉(ノムヒョン)政権当時の2004年、韓国が「核物質事件」に巻き込まれ、米国と国連安保理の制裁を受けそうになったことがある。国際原子力機関追加議定書に基づく査察の準備過程で、2000年初め、大田(テジョン)市大徳研究団地にある韓国原子力研究院の研究室で極少量(0.2グラム)の兵器級高濃縮(90%)の実験を行った事実と、ソウル市城北区の韓国科学技術研究院(KIST )跡地で1982年に微量のプルトニウム抽出実験をした事実が確認されたからだ。国際原子力機関が大騒ぎになり、米国の当時のブッシュ政権を中心に、英国やフランス、カナダ、オーストラリアなど、韓国の伝統的友好国がむしろ強硬対応を主導した。特に当時のジョン・ボルトン米国務省軍縮次官は、韓国の「核物質事件」が国際原子力機関の核安全措置協定の重大な違反であるとして、国連安保理に付託すべきだと主張した。国家安全保障会議(NSC)常任委員会を中心に、外交力を注ぎ込む総力戦の末、同年11月26日「韓国政府の是正措置と協力を歓迎する」という国際原子力機関「議長の結論」で一段落した。この過程でイ・ジョンソク国家安全保障会議事務次長が訪米してボルトン次官に会い、外交通商部、統一部、科学技術部長官が「原子力の平和的利用に関する4原則」を発表するなど、“潔白”を主張しなければならなかった。米国などのこのような強硬な対応には、1970年代後半、朴正煕政権による核開発の“前科”が影響を及ぼしたと指摘されてきた。

 国際政治学者の延世大学のチェ・ジョンゴン教授は「自主・自衛を掲げて核武装を主張する前に、米国に返却した戦時作戦統制権から取り戻すべき」とし「核武装論は、米国が反対しているだけでなく、中国への圧迫としても話にならない主張」と指摘した。元高官は「韓国がTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に続いて、米国の戦術核兵器の再配備まで主張するなら、現実性の有無に関係なく、中国は、韓国が米国の手先になるという宣言として受け止めるだろう」と懸念を示した。

イ・ジェフン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-02-15 21:07

https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/730530.html 訳H.J

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