中東呼吸器症候群（MERS）コロナウイルス感染者が100人を超え、政府の防疫システムが事実上失敗したと評価される中、“利他的”に献身する人たちがシステムの失敗を埋めている。政府の相次ぐ失策に失望を隠せない国民が増えていく状況で伝えられた、一部病院の医療スタッフと公務員たちの献身ぶりに、市民たちから激励の声が殺到している。
「我々は、国家的な医療危機状況で、地域を代表する中心病院としての役割を放棄することなく、大学病院としての役割を忠実に果たすつもりです。我々は、医療関係者としての責任を全うします」。最近、仁川(インチョン) 仁荷大学病院キム・ヨンモ院長が病院内の掲示板に投稿した文の一部だ。仁荷病院は2日、京畿道・平沢（ピョンテク）で陽性反応を出したMERS患者1人を他の病院から引き継いで治療することにした事実が知られたことで、問い合わせが殺到し、来院者も急激に減少した。このような措置をめぐり病院の内外で様々な話が飛び交っており、医療スタッフが困惑しているのを見かねたキム院長が、直接鎮火にでたのだ。
キム院長は医療スタッフを含めた従業員に「私たちの病院には、高伝染性疾患の患者を完全に隔離できる陰圧病室がある。世界的に陰圧隔離病室で治療を受けていた患者から感染が拡大された事例はない」とし「存在感にふさわしい信頼を得られるように最善を尽くしてほしい」と要請した。
仁荷大学病院、地域拠点機関を自任
「大学病院の役割・奉仕、全うしよう」
100人隔離された大田大清病院
看護婦長たちが交互で介護を専担
村ごと孤立された全北淳昌では
郡・農協職員たちが農作業の手伝い
仁荷大学病院は10日、政府が発表した「地域の拠点医療機関」にも名を連ねた。一部の医療機関が「うちの病院には、MERS感染・疑い患者はいない」という横断幕まで掲げ“営業”に出たのとは対照的である。隔離病床に入院した感染者は、治療がうまく進められて、現在2回の遺伝子検査で相次いで陰性判定を受けたことが分かった。仁荷大学病院の広報関係者は、「やるべきことをやっただけなのに、対外的に広く知られて病院としても戸惑っている。今後の状況は予測できないだけに、医療機関として診療に集中するつもりだ」と述べた。
「スーパー伝播者」とされる16番目の患者（40）の入院治療で8人の追加確定者が発生した大田（テジョン）西区の大清病院は、現在の病棟に隔離された約100人の患者・家族たちを、看護婦長たちが先頭に立って介護している。16番目の患者が感染確定の判定を受けた先月31日、この病院のオ・スジョン院長はすぐに緊急事態を宣言し、全従業員を集めてMERS拡散防止体制に入った。
医師8人を含む43人の医療スタッフが自宅隔離され、人手が足りないことに加え、感染に対する恐怖心もあって、若い看護師たちが躊躇っている姿を見た看護婦長たちが、自発的にシフトを組んで問題の「51病棟」に入った。若い医療スタッフたちがこの後に続いた。
隔離された患者・保護者137人にはオ院長が直接協力を訴えた。「皆さんの協力が大田市民を守る」と涙ながら訴えた。現在大清病院の医療スタッフは、2交代で勤務しながら、病院を守っている。大清病院の関係者は「自己隔離から解放された医療スタッフも続々と病院に戻って来ている。人手が足りないため、率先して隔離された患者の治療に当たっている」と伝えた。
MERSのために村が丸ごと隔離された全羅北道・淳昌（スンチャン）では、今月8日、郡の公務員たちが自宅隔離された住民に代わって農作業に行った。淳昌邑のある村の農家で、熟した桑の実の収穫ができず、困っているという事情を耳にした郡の職員や農協の役職員など35人が、収穫の手伝いを申し出たのだ。
このような事実が知られると、市民の励ましの声が続々と集まっている。仁川に住んでいるチェ・アヨン氏（33）は、「政府がいくら無能でも私たちの社会が維持されるのは、このように良心的な方が自分の領域で責任を果たしているからだ」とし、「仁荷大学病院に患者が入院したという話を聞いて、自分の子供だけを心配していたのが恥ずかしくなった」と話した。ユン氏（38）も「みんな恐怖と不安に震えているが、一部専門家が責任感を持って対処している姿が慰めになる」と話した。
韓国語原文入力: 2015-06-10 21:56
