「たぶん遺体が見つからない生徒たちと一緒に、あの世でも先生をやっているのかな?」(檀園高校カン教頭の遺書)
セウォル号事故2日後の昨年4月18日、全羅南道珍島(チンド)郡珍島体育館の裏山で、京畿道・安山(アンサン)の檀園高校のカン教頭(55)が、死亡したまま発見された。カン教頭がA4用紙2枚に書いた遺書には、救い出せなかった生徒たちへの思いが込められていた。カン教頭は遺書に「教育委員会では私一人に責任を負わせてください。誰にも責任を問わずに...」と書いた。セウォル号事故から1年が過ぎても、誰一人責任を取ろうとしない現実とは対照的だ。
修学旅行の引率責任者として
「すべての責任は私に...」遺書
セウォル号事故2日後に縊死
政府「危害と死亡に直接の関連ない」
殉職認めず「公務上死亡」適用
遺族「名誉回復」ために訴訟
裁判過程で教頭の足取り明らかに
「20人救出し低血糖ショックで失神」
弁護人「生存者としての罪悪感で自殺」
行政裁判所「殉職」認定するか注目
カン教頭は檀園高校2年生325人の済州島修学旅行の引率責任者だった。彼が壇園高校に赴任して一カ月を過ぎた頃だった。彼が赴任する前に、就学旅行の日程はすべて決まっていたという。
カン教頭は28年間、毎日午前7時には学校に出勤し、午後10時過ぎに帰宅した。彼にとっては、学校が生活のすべてだったという。
カン教頭の妻のイ氏(52)は、夫が救助されたという連絡を受け、4月17日、珍島に行った。その日の午後、夫に会ったが、「収拾が優先だ。もう帰って」という夫の言葉に、手を握る間もなく、10分後に体育館を後にした。イ氏は、翌日午後、冷たい死体となった夫に会った。教師であることを常に誇りに思っており、責任感が強かった夫を尊敬していたというイ氏に残されたのは、「夫が惨事をもたらした檀園高校の修学旅行引率責任者」という冷たい視線だけだった。
夫の遺書を何度も読み返したイ氏は、昨年、政府を相手に夫の殉職認定を求める訴訟を起こした。人事革新処(当時安全行政部)が昨年7月23日、イ氏の「殉職遺族給与請求」を棄却したことを受け、8月25日、ソウル行政裁判所に棄却決定取消訴訟を提起したのだ。
人事革新処が挙げた殉職認定拒否の理由は、カン教頭が被った「危害(精神的・身体的傷)」と死亡の原因の間に直接の関連がないということだ。公務員年金法上殉職公務員は「生命などの危険を冒して、事故の収拾など危険な職務遂行をして危害を被り、これが直接の原因となって死亡した公務員」をいう。人事革新処は、カン教頭はこの条件に該当しないと見た。自殺という死の形と遺書が問題になった。一方、死体が確認された壇園高校の7人の教師たちは、殉職が決定された。救助活動中に死亡した事実が認められたのだ。
カン教頭の妻であるイ氏は「できる限り夫の名誉を回復したい」と話した。全国の教師2万1989人も、裁判所にカン教頭の殉職認定を求める嘆願書を提出した。嘆願書で教師たちは、「自分の身の安全を顧みず、学生や乗客たちを脱出させようとして命までも惜しまなかったカン教頭は、教育者としての使命を果たした、時代が望む師であったことは明らかである。殉職か否かは死の形ではなく、死に至らしめた実質的な原因を通じて決定されるべきだ」と訴えた。
8カ月間に及ぶ裁判の過程で、セウォル号事故前後のカン教頭の具体的な足取りが少しずつ明らかになった。セウォル号から救助された女性(23)は「事故当時、救命胴衣も着ないまま、カン教頭が私と私の友人、また一般のお客様などを引き上げて下さったおかげで、脱出に成功した」と話した。カン教頭はセウォル号船内で20人を救助した後、低血糖ショックで意識を失った。その後カン教頭は救助され、「生き残った者」となった。
事故当日意識が戻ってから9時間もの間、警察の調査を受けたカン教頭は、入院治療を勧める檀園高校のキム校長に「自分だけが生き残り、帰って来た罪は大きい。遺族に謝罪しなければならず、収拾が必要なので、今は(病院へ)行けない」と断った。以来、カン教頭は生徒たちの遺体収拾の現場を守った。周辺の人々はこの時、カン教頭がパニック症状を見せたことを憶えている。檀園高校のキム部長教師は「カン教頭は、魂が抜けたようだった。 17日の夜、珍島体育館で土下座する10人の教師を見て『私が直接謝罪する』というのを引き止めたが、その後(体育館から)消えた」と話した。
訴訟を引き受けたノ・センマン弁護士は「カン教頭が16日午前、セウォル号で乗客を救助する途中、意識を失って救助されてから、17日夜に珍島体育館の外に出るまでの38時間は、ショックで自由な意思決定が行えない状態が続いた。何よりも責任感が強いカン教頭は『生存者の罪悪感(Survivor's guilt)』で深刻な自責の念に駆られた」と主張した。カン教頭がセウォル号の惨事で「生存者の罪悪感」という深刻な精神的外傷を負い、これが自殺に至った直接の原因だということだ。自分の身の危険を冒して行った救助救難過程の中で経験した生存者の罪悪感と死亡との間に、直接の関連性があるというのが弁護人と遺族側の主張だ。
人事革新処はカン教頭の殉職は認めなかったが、「公務上死亡」は認めた。遺族らは「カン教頭の業務と死亡との間に因果関係はもちろん、自殺が故意によるものではないことを認めた」と述べた。しかし、人事革新処は、「極めて例外的に業務と死亡の重要な因果関係を認めただけで、依然として殉職要件の対象にはならない」と線を引いた。
公務上死亡は、通勤中の交通事故で死亡した場合も含まれるように幅広く適用されているのに対し、災害・災難などの救助救難現場などで死亡した場合、殉職公務員に認められると、「国家有功者など礼遇及び支援に関する法律」に基づく礼遇を受ける。カン教頭側が起こした訴訟の1審宣告は21日、ソウル行政裁判所で行われる予定だ。
韓国語原文入力: 2015-05-10 14:24