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[寄稿] セウォル号遺族の成長と国家の退行

登録:2015-04-26 21:58 修正:2015-04-27 06:51
イラスト キム・ソヌン//ハンギョレ新聞社

 ソンボクのお母さんが入院した病院を訪ねた時、お母さんは動けない状態でベッドに横たわっていた。 息子の一周忌の日にソンボクのお母さんは警察に押されて肋骨4本にひびが入る重傷を負った。 肺に血がたまって手術をしなければならないかもしれない状況に置かれていた。80を越えた実家の母親は、しわだらけの顔で娘のそんな姿を眺めていた。 そして一言言った。「ただでさえ子どもを失くして辛いのに、どうしてこんな目に遭わせるんかね」。ソンボクのお母さんは年老いた母親に心配かけたことが済まなくてか、苦い笑いを浮かべるだけだった。 ソンボクのお父さんはその日、お母さんのそばを守ってやれなくて事故が起きたように感じ、済まない思いでベッドの端に言葉もなく座っていた。

  「私どもが食べるのに追われて、他のうちのようにソンボクにいろいろしてやれませんでした」。半月(パンウォル)工業団地の重機部品会社に通うお父さんと療養士として働くお母さんは、いつも済まない気持ちを抱いていた。 ある時は仕事が終って帰ると、ソンボクがチャーハンとスパゲッティを作ってくれていたりした。 心がもろいと心配していたけれども、それはもろさではなく温かさであったこと、思慮深さであったことを、葬儀場に友達がたくさん訪ねてきたのを見て知ったと、そして友達がそんなに多いとは知らなかったと言って涙を流した。 ソンボクのお母さんが入院している病室の向かいには光化門(クァンファムン)で頭をケガして失神したソ・ドンジンのお母さんが横たわっていたし、また別の病室にはひどく負傷したキム・ソジョンのお母さんが入院していた。

 いまだに幼い頃の娘の手を握り大きくなって消えてしまった娘を探して夢の中をさ迷うという母親たち。雨の日が好きだったが葬儀の日に雨が降って、それ以来雨の日には娘の部屋に座って泣くのをこらえる親たち。いまだに水の中をさ迷って呼吸困難に陥り救急処置室に運ばれる母親、精神科のカウンセリングを受けている多くの母親。 このような、我が子を失ってぼろぼろになった苦痛に満ちた体に、どうして手を触れるのか。 そうでなくとも1年間の頻繁な集会、署名運動、徒歩行進に参加して、母親たちの体にはもう力が残っていなかった。 そのような母親たちを、盾で殴って押し倒して警察署に連行までするのか。

 「人間の果てを、世の底を、同時に見た」という母親たちは、1年の間に大きく成長した。

 「この1年間に私が悟ったのは、社会に真のおとなは多くないということでした。 私も、うちのスヒョンだけを、私の家庭だけを大事にしてきたんですね。 こう考えられるようになるまで本当に苦しかったです。 私が年だけおとなであって真のおとなではないということを思い知りました。 我が子を失くして初めて、社会的にどのように生きなければならないのかについてもう一度考えるようになりました…。 このように活動する中で分かってきたのが、「自分がこの時代を生きながら本当の市民として行動したことはなかったな」、「誤ったことに対して卑怯にも沈黙して生きてきた代価を、本当に苛酷に払わされたのだな」ということです。そういうことをずいぶん考えました。 若い人たちに申し訳ないとも思いました。このような社会を受け継がせてしまいながら、彼らに戦ってほしいと言うこと自体がおとなとして恥じ知らずのようで。 私のように恥ずかしいおとなにならないようにと言いたい」(パク・スヒョンのお母さんイ・ヨンオク氏)

 親たちはすさまじい自身の痛みを通して自らを省察し成熟していった。 そしてその成長を通して、他人の傷と痛みが自身のものであることを知った。 このように親たちが成長する間、国家はかえって退行した。

 どうして国家が国民の意見に耳を傾けず無視し、公権力を動員して監視し、暴力を行使することができるのか。 こういう古くて陳腐な地形へは戻りたくない。 もう本当に、国家の新しい姿を見たい。 国家の成長を目にしたい。 国民が意志を表現すれば真摯に謙虚に聞き入れる国家、国民が集会をすれば小さな意見でも耳を傾けることのできる国家、国民の痛みと苦痛に共感できる国家、その痛みを受けて世の中を変化させる国家。 そのような“感情を持ち身体を持ち共感することを知っている”国家を望む。 今日要求される権力は“他の人の話を傾聴し、他の人の欲求と要求に応答する”権力だ。自己独白的な権力はすでに古いものとなった。 社会的な現実の地平を新しく拡張して変化させる作業が必要だ。 それ以前には絶対戻ることはできない。 これ以上の悪の反復は無用だ。

キム・スンチョン『金曜日には帰っておいで』共同著者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

(訳注:『金曜日には帰っておいで』は、セウォル号惨事で犠牲になった檀園高生徒の遺族たちのインタビューをまとめたものだが、檀園高の3泊4日の修学旅行は金曜に帰宅の予定だったことから付けられた)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/687994.html 韓国語原文入力:2015-04-22 18:40
訳A.K(2175字)

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