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[仮想インタビュー]出産を前にした韓国の夫婦の夢と悩み

登録:2015-05-09 00:30 修正:2015-05-09 06:28
赤い女王の国で私たちの子供を待つこと
出産と夫婦の夢 //ハンギョレ新聞社

▲年俸3000万ウォン(約330万円)「台序盤の男性に子供ができました。 年俸2500万ウォン(約280万円)台の妻は出産休暇を取ることに気が引け、会社を辞めました。妻の退社を引き止める自分が惨めになります。 産後養生院費用や養育費、家族持ちの男の肩は重いのです。 一時、清く正しい社会を夢見て熱情的だった男性は、したいことよりしなければならない仕事に耐えなければなりません。 不確かな夢に家族を担保にすることはできないためです。 大韓民国の普通の人、普通の男になることは容易ではありません。

 学生時代、私はかなりの模範生だった。 模範生ならば当然に優等生と同義語だと考える人々もいるが、私はきっちり区分したい。 優等生ではなく模範生だった。 私の夢は“普通の人”だ。 学生時代もそうだったし、会社員になった今も、私の夢は相変らず“普通の人”だ。 大韓民国で生まれ普通の人になるということはかなり難しいことだったが、今までは比較的うまくやってきた。

 他の人と同じように塾に通って勉強し、首都圏で良くはないけど特段悪くもない大学に入学した。 単位管理だ、語学研修だと両親の脛を囓って努力したし、満足してはいないがそれでも年俸3000万ウォン序盤を受け取る中堅企業にも入社した。 そして満ち足りていた恋愛の末にこの頃は難しいと言われる結婚にも成功した。 この時まで私の人生は非常に満足だった。 妻の年俸2500万ウォンを加えて貯蓄もし、住宅貸し切り保証金融資も返済しながら、普通の人であることを自負して生きてきた。 妻の青天の霹靂のような言葉を聞く前までの話だ。

:あなた、ちょっとこっちに来て。

:何だい?

 妻の声には深い憂慮の表情が混じっていた。私は本能的に身を縮ませた。

:私、妊娠したみたい。

 妻が妊娠テスト器を差し出した。鮮明な二行が目に映った。

:(3秒間の静寂)ウワーおめでとう。ありがとう。お前のおかげで私もパパになれるんだ。これからは私がお前を大切にするから。

:ところであなた、私どうすればいい? 妊娠して、もう会社には通えないと思うんだけど。気が引けるし出産休暇は無理みたいだし。

:…。

:ねえ、どうして黙っているの? 私、会社辞めてもいい?

:だけど、まだ住宅保証金の返済も残っているし、自動車ローンに、子供を産むとなれば病院代に産後養生院費用も。 子供が生まれれば面倒を見てくれる人もいないし、育児費をどうすれば…。私の月給ではカツカツだし。

 こんな話をして自らがみじめだった。 妻さえも面倒を見れない駄目夫だったとは。私が望んだ人生はこのようなものではなかった。

:結婚する前は一人で全部責任を負うかのように言ったじゃない。ミンヒョクよりもっと私を幸せにする自信があるって!

 ミンヒョクは、結婚前の妻に熱を上げた私の友人だ。今は韓国で年俸順位1、2位を争う大企業に入社したという消息を聞いた。 ミンヒョクの話に熱いものがかっとこみ上げてくる感じだ。

:今になって奴の話をするの? それじゃあ自分はもう子供を産んだら家で遊んで食べるというつもり?

:子供を産んで育てるのが遊んで食べることなの? あなたがそんな人だとは思わなかった(ドン!)。

 妻はドアを力いっぱいに閉め、一人で居間に籠もってしまった。私だって子供を育てることがどれほど大変なのか、十分に聞いて知っていた。 私の中の劣等感と自己恥辱感に心にもないことを言ってしまった。 私は苦しいほどに肩にかかった現実の重さに耐えながらしばらく座っていた。 気力がようやく戻ってくると、勇気を出して居間のドアを開けてそっと妻のそばに座った。

:ごめんよ。私も子育てがどれほど大変なのかよく分かっている。 さっきはミンヒョクの話が出たので思わず腹が立った。 自分にこれしかできなくてごめん。 会社辞めてもいいよ。 お前と私たちの赤ん坊は私が責任持つから。

:私もごめん。思わず腹が立って言っちゃった。とにかく私たち、これからどうしようか? あなたの言う通り、あなたの月給で保証金融資の返済と自動車ローン、保険料に私たちの生活費まで、2人でもギリギリなのに子供までどうやって育てたらいい? 2年経って住宅保証金を上げられたら私たち、行くところもないのに。

:子供がちょっと大きくなるまで我慢しよう。子供がちょっと大くなればあなたもまた仕事が出来るし、状態もちょっとは良くなるんじゃないか? 一人だけ生んで大変でも上手くやっていこう。

:そうね、それじゃあ頭の痛い話はお終いにして、ドラマを見ましょう。

 妻が好きなドラマの時間だ。ハンサムでお金持ちで賢くて優しい、完ぺき男が貧しいバツイチの女が好きになり、家族の反対を押し切って結婚を成功させる、そんな類のありふれたドラマだ。 毎度同じプロットで初回だけ見れば全部分かるのに、こんな話に熱狂する妻が理解できない。 いや、これこそが妻のファンタジーなのかも知れないという思いで、心の片隅に寂しさが押し寄せる。

私:おめでとう、パパになれて良かった。
本当に会社辞めるの?
そんな高い産後養生院に?
俺も事業をやりたいことは知ってるだろ?

妻:だけど子供だけは譲れない
良い産後養生院に行けば良い母親たちに会える
今はあなた会社を辞めちゃ駄目
退職金が出たらその時にしよう、ね?

 妻が臨月になったある日、退勤して家に帰ってくるとただごとではなかった。

:おーい、帰ったよ~。

:シャワーしてご飯食べて。

:今日病院に行ってきたか?

:ウン。私、産後養生院を変えた方がいいんじゃないかと思う。

:もう予約したじゃないか。何かあったの?

:良い母親たちと出会うには良い養生院に行かなきゃ駄目なんだって。 育児には養生院の同期が大切なのに、私たちの予約したところはあまりにも安いところで、そこに来る母親たちもみな良くないから。

:…。 それでどこへ行きたいの? いくらくらいするの?

:近くで調べてみたんだけど、良いところでは2週間で400万ウォン程度。

:2週間で400万ウォン? 一日ほとんど30万ウォンだよ。

:それだって高い方じゃない。最低限よ、最低限! もっと良いところは1000万ウォンだって珍しくないの。これは全部うちの子供のためなんだから。

 頭がくらくらした。税金を抜けばほとんど二カ月分の月給を2週間で使うということも驚きだが、養生院同期だなんて、今後何を言い出すことやらという心配が先に立った。

:まだ子供も生まれてもいないのに、もう育児の心配とは。早すぎるんじゃない?

妻:早いだって! この頃はお腹の中から教育してこそ競争で遅れをとらないと言うんだって。 私、他のことは分からないけど、うちの子の問題だけは絶対に譲れない!

:分かった、分かった。 養生院はなんとかしてみるから。だけど、私たちの経済状態では他の人と全部同じにはできないということだけは分かってくれよ。

 私はそそくさとご飯を食べて、コンピュータの前に座った。 私にできる副業があるか調べてみたが、毎日残業で週末出勤までしている私にできる仕事は多くなかった。そんな風にして幾日か悩んでいると、親しくしていた先輩から一杯飲もうという誘いがあった。

先輩:この頃どうだ?

:ええ。先輩どうしたんですか? 先に連絡をくれたりして。

先輩:別に。どのように暮らしているか気になったからじゃないか。この頃、職場には元気に通っているんだろう?

:職場どころじゃありませんよ。

先輩:君、まもなく子供が生まれるんじゃなかったか? お金もたくさんかかるだろうに。

:そうなんです、先輩。それで副業を探しているんです。子供産むだけでお金がこんなにかかるのに、産んでからはどれだけかかるか心配でね。

先輩:だから私がやる事業を一緒にやろう。

 先輩と話をするほど学生時代に夢見た情熱が再び蘇ってきた。社会の不条理と不正腐敗を非難して、ろうそく集会だ何だと荒い息を吐きながら正義を叫んだし、輝く未来を設計した時期だった。 再び夢見るこの瞬間は、今すぐにでも辞表を出して私の事業をやってみたい気持ちがほとばしった。

先輩:そうだった、あの頃、君は情熱的だったよ。それで私が今君と一緒に事業をやりたいと言ってるんだよ。どうだ、やってみないか?

 先輩の誘惑はあまりにも甘美だった。普通にきちんと通った職場を投げ出して、事業の道を選択した先輩がすばらしく見えた。 だが、すぐに面倒を見なければならない両親と、扶養しなければならない家族の心配が先に立った。 私の失敗は、すなわち私の家族の失敗になるためだ。

:私も事業やりたいです。 昔から創業にも関心が高かったことご存じでしょう。でも妻も職場を辞めたし、もうすぐ子供も生まれるので。妻と相談して返事します。

先輩:いや~。君もワイフの顔色を伺って生きるようになったんだな。考えて必ず連絡してくれよ。

 帰り道は言いようのない苦悩でぎっしり埋まった。私がしたいことと、責任を負わなければならないことの板挟みになった。

:なあ、ちょっと話があるんだ。

:え? どんなことなの? 改まって話って、私恐いわ?

:前に話した先輩と事業をやってみようかと思うんだ。 考えてみれば私がこの職場にあとどれくらい通えるかも分からないし。長く通ってみてもせいぜい20年。うちの子が大学卒業する前に退職すればどうなるかわからない。

妻:何ですって? あなた何言ってるの! 事業だって! それで潰れたら私たちを道端に放り出して捨てるの?

 妻は事業という言葉が出てきただけでびっくりして飛び上がる。事実、義父が事業で失敗して苦しんだ記憶のために、事業に対して否定的なイメージが強かったせいもある。

:今まで通り職場に通って、退職したら退職金で小さな店でもやりましょう。そしてそれはしばらく先のことだから、今は職場に長く通うことだけ考えて。事業は絶対に、絶対に駄目ですからね。

 妻の言うことにも一理がある。 創業後の失敗率が90%を超えるという統計もあるのに、10%の可能性に賭けて家族皆を担保に置くことはできない。 未来に対する不安と苦悩で、いっそあの時公務員試験でも受けておけば良かったと後悔した。 結局は何も変わらず再び残業と週末出勤の日常に戻った。 私が生きる日常は、あたかも『不思議の国のアリス』に出てくる赤い女王の国のようだ。 力いっぱいに走っても、せいぜい元の席に立っていられるのがすべての国。 どこかに行くためには二倍速く走らなければならない国。

 ここでは私も大韓民国の普通の人だ。赤い女王の国に住む人。

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/690432.html 韓国語原文入力:2015-05-08 19:54
訳J.S(4551字)

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