地方の不人気診療科 人材不足深刻
泌尿器科は8年間連続で定員未達“求人難”
「4年前、前立腺ガンの診断を受けたんですが、忠清南道礼山(イェサン)には手術をする病院がありませんでした。天安(チョナン)の大学病院がそれでも近い方でしたが、どうせ動くんだったらより信頼できる病院でと思い、ソウル大学病院で手術を受けました。今日はガンが再発していないか、あるいは他の後遺症はないか、検査のために来ました。早朝からどんなに急いで来ても、病院の用事を済ませて礼山の家に戻るまで、丸一日かかってしまいます。正直言って交通費も大きな負担です」
この10日、ソウル大学病院泌尿器科外来診療の待合室で会ったキム氏(71)は、ガンの手術後の追跡観察が必要で病院を訪れた。二日前にも血液と尿検査のためにソウルに来た。彼は予約した時間よりさらに30分待って5分ほどの診察を受け、病院の玄関を出た。このように、多くの患者が“5分診療”に丸一日の時間と少なからぬお金をかけなければならない。
患者側
忠清南道礼山のキム氏と全羅南道順天のキム氏
手術する病院がなく“渡り鳥患者”
数年間のソウル往復、負担大きい
キム氏もこの病院の泌尿器科で外来診療を受けて2年目になる。下半身マヒで車椅子に頼らなければならないキム氏の世話をするため、いつも夫が同行する。夫婦は全羅南道順天(スンチョン)市に住んでいるが、ソウルに一度行ってくれば交通費だけで15万ウォンを超える。「病名は教えられません」と手を横に振ったキム氏は「順天周辺の病院は全て行ってみたけれども治療がうまくいかなくて、結局ソウル大病院まで来た」と話した。同じ病院の外科で5年前に肝臓ガンの手術を受けたチョン氏(59)は、江原道鉄原(チョルウォン)郡に住んでいる。ガンの手術後、追跡検査のため6か月に一度の割合で乗用車や地下鉄を利用して2時間半かかるこの病院まで往復している。
非首都圏の患者のソウル集中現象が加速化している。先端医療システム、多くの病床数など、首都圏の上級総合病院の強いハードウェアだけでは、完全に説明できないほどだ。専門家たちはその現象の底辺に、医療専門人材の不均衡があると診断する。重労働でお金にならない一方、手術のリスクは高いという診療科を専攻医たちが忌避する上に、それさえも専門人材をソウルなど首都圏の病院がほとんど吸収してしまう結果だという説明だ。
医師側
手術を支援する専攻医がおらず、ソウル行きを勧め
「数か月働いて大変だからと辞めていく」
大田、忠清南道、忠清北道、全羅北道、江原道は志願者“ゼロ”
例えば、泌尿器科の専攻医が足りない非首都圏の総合病院では、膀胱ガンや腎臓ガンの手術のように複雑な治療は始めから放棄して、患者にソウル行きを勧めるケースが少なくない。実際、昨年の泌尿器科は専攻医92名の募集に対して志願者は24人だけだった。志願率26.1%。診療科のうち最下位だ。今年は定員を87名に減らしたにもかかわらず、志願率(33.3%、29人)はまたして最下位だ。しかも少数の志願者がソウルなど首都圏に集中し、いくつかの非首都圏の大学病院には1年次の専攻医が一人もいない。泌尿器科は2008年に専攻医募集定員を初めて割り込んだが、2012年には志願者が定員の半分を下回った。最近は定員を満たす病院を見出すことは難しい。「ガンが大きく広がった膀胱ガンは、手術で腫瘍を除去しても小便を集める人工膀胱を作らなければならない。手術は8時間以上かかるほどに複雑で大変だ。腎臓ガンの手術も4時間以上かかる。手術後に入院患者を診る専攻医も全く足りない。そういう状況だから、専攻医や専任医を一部でも確保しているソウルの主要病院に患者を送るしかない」。全羅道のある大学病院の泌尿器科教授の告白だ。健康保険の資料によれば、最近3年間ソウル居住の腎臓ガン・膀胱ガンの患者がそれぞれ24%、25%なのに対し、ソウル所在の病院で治療を受けた患者の比率はそれぞれ54%と44%にもなった。地方の患者の半数ほどがソウル行きを選んだという意味だ。
少ない人員で患者を診なければならない非首都圏の病院の専攻医たちの孤軍奮闘は涙ぐましく、同時に危うい状況だ。「うちの病院には泌尿器科専攻医が4年次まで年次別に2名ずつ計8人はいなければならない。ところが実際には私一人だけだ。患者20人を一人で診なければならないので、ほとんど病院に寝泊りしている。昨年は専攻医がもう1人いたが、数ヵ月働いて、きついと言って辞めていった」。 大田(テジョン)のある大学病院の泌尿器科専攻医の話だ。そういう事情なので、夜間に応急が発生すればきちんとした対処は容易でない。
病院側
お金にならないので患者を引き止めず
「経営陣は邪魔者扱いに」
定員8名だが1人だけの病院も
病院としては泌尿器科の手術はお金にならないので、あえて患者を引き止める理由がない。大韓泌尿器科学会のイ・ヨング保険副会長は「腎臓ガンや膀胱ガンの治療は大部分健康保険が適用される。簡単に言えば、報酬が原価以下の手術、という話だ。結局、病院の経営陣は泌尿器科を邪魔者扱いするようになる」と指摘した。
患者たちのソウル集中現象が改善される兆しはどこにもない。その一方で、状況の悪化を予報する指標は多い。大田・忠清南道・忠清北道・全羅北道、江原道などの修練病院(保健福祉部長官の指定を受け、専攻医を修練させる病院)では、今年泌尿器科専攻医を一人も確保できなかった。ソウルを含む首都圏の病院だからと言って状況がいいわけでもない。いわゆる“ビッグ5”の病院のうち、今年泌尿器科専攻医の定員を満たしたところは一か所もない。過去最悪の求人難だ。カトリック中央医療院は6人の定員に1人、ソウル大学病院4人募集に1人、ソウル峨山(アサン)病院4人募集に2人、サムスンソウル病院3人募集に2人、セブランス病院は5人募集に2人が志願した。建国(コングク)大学病院と慶煕(キョンヒ)大学病院は一人も確保できなかった。ソウル市ポラメ病院のソン・ファンチョル泌尿器科教授は「緊急に対策を講じなければ、腎臓ガン・膀胱ガンなど各種泌尿器疾患患者は、適時に手術を受けられなくなる恐れがある」と懸念した。
外科や胸部外科の状況も、泌尿器科と変わらない。胸部外科は2004年以前から定員を満たせない状態が続き、2006年からは志願率が50%を下回っている。昨年62.7%に反騰したと思ったら、今年再び39.6%に下がった。外科は2007年に志願率が80%台に落ちた後、今年は59%まで落ちた。外科専攻医を12人採ろうとしていたソウル大学病院に志願者は3人だけだったというほどだ。この病院のチョン・スンヨン外科教授は「専攻医の志願率には、医者の収入を左右する政府の政策が大きな影響を与えている。原価も補償されない手術を医師の責任感だけで耐えろと言うのは難しい。これを放置し続けた結果が、外科忌避現象として現われている」と指摘した。