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[コラム] 孤独な王女、朴槿恵とチョ・ヒョナ

登録:2014-12-14 23:09 修正:2014-12-15 06:33
女王キム・ジャオクが憎まれないのは「誰もが尊重」されるようにするため
朴槿恵チョ・ヒョナには“水平的関係網”がない

 1か月ほど前に亡くなったタレントのキム・ジャオク氏は“女王”だった。「王女は孤独」というアルバムが60万枚も売れて得たニックネームだ。 歌詞はこうだ。「鏡の中に見える美しい私の姿、私さえも目を離せないほど。世の中にどんなに美しい花があろうとも、私よりきれいだろうか」。途方もない自己愛だ。ところが憎まれない。むしろ可愛い。 それは「私がこうだからといって嫌うのはやめて」という愛嬌やおとぼけがあるからだろう。さらに一歩進んで「あなたが大切なように、私も大切だから。 私が大切だからあなたも大切にするから」と言いたいようだ。 あなたも私も皆が尊重されるということだ。

タレント キム・ジャオク氏。写真 souljacker提供//ハンギョレ新聞社

 テレビ芸能番組『花よりお姉さん』で、キム・ジャオク氏は“荷物運び”のイ・スンギを決してこき使わない。 それどころか、イ・スンギに「あんたは私の息子のようで、スンギを見れば息子を思い出す」と暖かく接する。 イ・スンギが食堂にサングラスを置いて出て来た時に、それを優しく持ってきてあげたのもキム・ジャオクだった。 だから多くの人々がキム・ジャオクを見送りながら「母親のようで姉のようで友達のような王女」と哀悼した。 だが、それはキム・ジャオク氏が“贋物の王女”だったから可能だったのかもしれない。 “本物の王女”はそれとはほど遠い存在だ。 朴槿恵(パク・クネ)大統領とチョ・ヒョナ大韓航空元副社長の話だ。

 チョン・ユンフェ事件が起きたのは、朴槿恵大統領が体験した背信の痛みが作用しているという分析が多く出ている。 その傷のために、門番3人組など信頼できる人だけを使い密封人事や“秘線”権力という問題を生んだということだ。 実際、朴大統領は大統領府を去った時の悲しみと怒りを自叙伝でこう表現している。「人が人を裏切ることほど悲しく嫌なことはないだろう。相手の信頼と信義を一度裏切れば、その次の背信は一層容易になって、結局自ら堂々とできないままに生涯を送ることになる」。しかし、朴大統領がどんな風に裏切られたのかは明らかにしていない。 存在感のなかった崔圭夏(チェ・ギュハ)大統領がそんなことをしたはずはない。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の養子と呼ばれた全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領も朴正煕を裏切ったという話は聞いたことがない。むしろ知らぬ振りを決め込むこともできたはずの大金9億ウォンを朴槿恵に渡した点は、両者の親密さをよく示している。 そうであるなら、朴大統領の言う背信とは喪失感に近いものだ。 王女のように奉られていたところへ突然照明が消えた時に感じる空虚感ということだ。 世間の苦さも甘さ全て見て、自らを客観化できる人ならば、突然の変化にも適応できる。 だが、朴槿恵にはそのような筋肉が形成されていなかった。 世の中の人々が、その時代と状況によって役割が変わるということを認めるのは容易でなかっただろう。 他者を同等な人格として眺める観点が欠如していた。 だから世間を、忠誠でなければ背信だという定規で眺めることになる。

tvN『花よりお姉さん』の一場面//ハンギョレ新聞社

 朴大統領が「大統領府の本当の実力者は珍島犬」と話したこともただの冗談とは聞こえない。 珍島犬は忠誠の表象だ。 忠誠を尽くす者にだけ自身の権能を分けるという無意識が、このような形で表出されたのではないかと思う。

 彼女のこのような人間観は結局、多くの人々に背を向けさせている。 チョン・ヨオクから始まり、キム・ジョンイン、イ・サンドンなどを経て、最近のユ・ジンリョン長官とチョ・ウンチョン公職規律秘書官まで、寂しい別れが後を絶たない。

朴槿恵大統領が10日午前、大統領府本館でマレーシア総理を待っている。大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 朴大統領に水平的な関係網がないのは、成長過程に由来する欠乏だろう。 小学校4年からすでに最高権力者の娘に成長し、平凡な人生で経るはずの喜怒哀楽の過程を欠かしたのだ。 2年前の大統領選挙の時、賛助演説者として出てきた朴大統領の友人がいた。 誠心女子中高での6年間と大学時代まで一緒に過ごしたというと深い縁だ。 ところが、この友人が描写する朴槿恵は単なる大統領の娘であって、そこに人間朴槿恵はいなかった。 雑穀が多く混ざった弁当、母親の服を詰めて作ったミニスカートなど、大統領の娘として見せた素朴さだけが出てくる。 少女朴槿恵は静物画の中の花瓶のように置かれているだけだ。 他人の目を避け、路地裏のパン屋で男子学生とデートをしたり、先生に隠れてこっそりと授業をさぼったりして、同じ年頃どうしが感じた共感や同類意識は存在しない。 友情を得るために施さなければならない配慮に関する経験が彼女の人生には根こそぎ欠けている。

チョ・ヒョナ大韓航空元副社長。//ハンギョレ新聞社

 チョ・ヒョナ副社長の成長過程はよく分からない。 だが、彼女が伝統ある名門貴族学校である京畿小学校を出たという記事を見て、彼女の経験の幅を察するのみだ。 京畿小学校は、サムスン一家のイ・ジェヨン、イ・ソヒョン、新世界のチョン・ユギョン、李明博(イ・ミョンバク)大統領の息子イ・シヒョン、全斗煥大統領の次男チョン・ジェマン、盧泰愚(ノ・テウ)大統領の娘ノ・ソヨンなどが出た学校だ。1年間の学費だけで千万ウォン位するが、彼らにとっては全く問題にならない金額だ。 名門の家柄の子弟間では同等な関係を結ぶだろうが、垣根の外の人々に対してはどんな感情の交流があっただろうか。 寒風がふきすさぶケネディ空港の滑走路に投げ出される時の侮蔑感を、チョ副社長は感じることができるだろうか。 いやそれでも「どうかクビにはしないで欲しい」と内心で哀願した事務長の切迫した心情を聞くことができただろうか。 このような欠乏では客観的な事態把握は不可能だ。 “格好だけ辞退”をしたのを見れば、国民がどれほど怒っているのか推察すらできていないようだ。

 二人の王女が成長期にのがしてしまったことを、今になって回復することはもはや不可能だろう。 それでも自分に足りないものが何なのか、調べてみようとさえしないならば、それはさらに大きな不幸を生むだろう。 年末だ。 女子高の同窓の中で、苦しい暮らし向きの人々もいるだろう。 彼女たちを呼んで、おしゃべりをしたり歌ってみることだ。 キム・ジャオク氏の「王女は孤独」が適当だ。 そのアルバムには「ある日、女子高時代に偶然に会った人、変わらない友情を約束した友達だった」という歌詞の『女子高時代』が収められている。「みんな私をお姫様と呼ぶけれど、見た目の良い満州杏(見かけ倒し)という言葉があるようにジャオクは孤独」という『この世のすべての娘たち』もある。「ジャオクは孤独」の代わりに、自身の名前を入れて歌ってみなさい。 慰められるはずだ。 そして再び世の中に向かって謙虚な姿勢と施す気持ちを持って欲しい。

キム・ウィギョム記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2014/12/13 14:06
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/668931.html 訳J.S(3046字)

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