『危機のサムスンと韓国社会の選択』(チョ・ドンムン、イ・ビョンチョン、ソン・ウォングン、イ・チャンゴ 編)の出版を記念して、サムスン問題を探るトークコンサートが10日、ソウル孔徳(コンドク)洞のハンギョレ新聞社青巖(チョンアム)ホールで開かれた。 この本は2008年に出版された『韓国社会、サムスンを問う』の続編だ。サムスン問題を考え代案を模索した本で、サムスン労働人権を守る会と参与社会研究所、共にする市民行動、ハンギョレ社会政策研究所が共同で企画した。
サムスン人権を守る会とハンギョレ社会政策研究所が共催したこの日のトークコンサートは、チョン・ボムク元国会議員の司会で進行され、シム・サンジョン正義党国会議員、ハ・ジョンガン聖公会大学労働大学長、チョ・ドンムン サムスン労働人権を守る会常任代表(カトリック大学教授),イ・ビョンチョン江原大学教授が討論者として参加した。
■サムスンの光と影
サムスンは1997年の外国為替危機を経る中で不動の1位財閥になった。輝かしい成長で光が強まったが、それに比例して陰も多くなった。 チョ・ドンムン代表は、総帥一家が享受している巨大な富に比べてサムスン労働者の労働環境は劣悪だと指摘した。 「パンオルリム(半導体労働者の健康と人権を守る会)に提供された情報によれば、今年8月基準で約233人が白血病などの労災に罹患し、そのうち99人はすでに死亡した」。
サムスン労働者の劣悪な労働環境は、短い勤続年数にも現れている。「労働組合が活発な企業の場合、勤続年数が18~20年になる。 だが、サムスンでは平均勤続年数が10年にもならない。 最高の待遇をする企業と言うが、実状は違うということだ」。ハ・ジョンガン学長の指摘だ。 彼は「私は会社に行けば二点を尋ねることにしている。勤続年数と平均年俸だ。 サムスン グループの系列会社で働く労働者の勤続年数が短いということは、サムスンの福祉恩恵や賃金水準が思ったほど高くないということを意味する」と付け加えた。
事務職労働者も状況は似ている。休日、さらには休暇先ですら“自発的に”仕事をさせるので、サムスンの高い年俸は「極端な成果給体系と長時間労働の結果」と言えるということだ。
■サムスンが滅びれば韓国が滅びる?
サムスンが滅びれば韓国が滅びるという恐怖が韓国社会に少なからずある。 果たしてそうだろうか? ハ・ジョンガン学長は「統計庁の統計を見れば、対外輸出で稼いだ経済的利益が上位20%に注がれていて、その下位までの40%には影響を与えるが、それ以下ではすべて消滅してしまう。 従って、サムスンがいくら金を儲けても、国民全体の60%はほとんど関係ない」と韓国経済に対するサムスンの影響力が過大評価されていると指摘した。
チョン・ボムク元議員は「サムスンの総帥支配体制、縁戚体制に対して問題を提起すれば、いつも返ってくる返事は、複雑な経営環境ではこうした体制に競争力を持つものだ。 サムスンは現在韓国のGDPの20%を有しているのに、こんな体制で競争力を確保することができるのか」と反問した。イ・ビョンチョン教授は「これまで利益はサムスンが一人占めし、費用は社会が担ってきた。 サムスン電子が金を儲ければ韓国の雇用が創出されるのではなく、ベトナム工場の煙突がさらに高くなる」と話した。
■サムスンを巡る沈黙のカルテル
サムスンが韓国社会をどう支配してきたのかは、キム・ヨンチョル弁護士によるサムスン中枢部の秘密資金の告白に如実にあらわれている。 政界、マスコミ、官僚はサムスン問題に対して事実上“沈黙のカルテル”を形成してきた。 シム・サンジョン議員はこう語る。「2012年に19代国会議員に当選し、最初に開いた行事がサムスン白血病被害労働者の話を聞く証言大会だった。行事の前にサムスン電子に会って解決する意志があるかを尋ねたが、意志があると答えた。 そこで先ずサムスンの責任を認め、対国民謝罪をすべきだと話した。 ところが、その人はこう言った。イ・ジェヨン副会長はこの問題を解決する意志があるが、父親が生きている状況で父親時代のことを子供が謝ることはできないではないか。 今年初め、映画『もう一つの約束』を通じて、サムスン問題が国会で活発に議論になり、その後再びサムスン関係者に会った。 謝罪もして再発防止対策も用意すると言った。 これがわずか1~2年間に起きたことだ。私がこの話をするのは、サムスンは変化すべきで変化できるということを言いたいからだ」。
シム議員は官僚、マスコミ界に広範囲に浸透したサムスン権力についても指摘した。「記者たちはサムスンから広告をもらえなければ月給が払われなくなると言う。 韓国の1級公務員たちの子弟の大部分はサムスンに入っているという主張もある。 この巨大な沈黙のカルテルを打ち破り、明るい社会にしなければならない」と強調した。
■中小企業より税金を納めないサムスン
韓国に25万社ある企業の法人税は約17~18%程度だ。 ところがサムスンは16.1%の法人税しか納めていない。 中小企業より納税が少ないわけだ。シム議員は「最近5年間で7兆8千億ウォン(約7800億円)の税金を払うべきところ、減免された分だけで6兆7千億ウォン(約6700億円)だ。 従ってサムスンが納めるべき法人税の86%を減免したことになり、国民が代わりに税金を納めたと言える」と指摘した。 今日サムスンがあるのは、減税を通じてサムスンが納めなければならない税金を国民が代わりに納めたことと、あらゆる便法行為に対する黙認などがあったからという指摘だ。 「国民の労苦と献身が明らかにサムスンを助けた側面がある。 したがって国民には要求する権利がある。 国政監査をしてみても、環境労働委員会がサムスンの未来戦略室長を呼ぼうとすると、与党代表が監査を止めたりする。 それほどにサムスンが持っている権力と影響力は強大だということを申し上げたい」と付け加えた。
■無労組経営は変わるか
一部の人々はサムスンが一流企業になるにあたっては、無労組経営がその一助となったことを否めないと言う。 これに対してハ・ジョンガン学長は「無労組経営で一流企業になったわけではなく、サムスンの職員が自分たちは一流企業で仕事をしていると勘違いしたために、今一流企業のように見えるだけだ」と反論した。 ハ学長は「サムスンが無労組経営をする方法は一つだ。 あなた方は最高の企業に通っているという洗脳を絶えず行う。 企業の労組の歴史を見れば、労働者自らが一流企業に通っているという考えは間違っているという自覚と労組の誕生は密接な関係を有している」と付け加えた。
‘ポスト イ・ゴンヒ体制’、すなわちイ・ジェヨン体制下で、サムスンの無労組経営は変わるだろうか? 「サムスンの前向きな態度を引き出すのは、労働者と市民社会の絶え間ない圧迫だ。 サムスン白血病事件も『もう一つの約束』という映画以後に社会に警戒心が高まり、サムスンも問題を解決しなければならないと悩み始めたのであって、サムスンが自ら変わっているのではない」(ハ・ジョンガン学長)。市民社会の絶えざる関心、圧迫が重要だという指摘だ。