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[分析]潘基文国連事務総長争奪戦は韓国政治のブラックコメディ

登録:2014-11-04 21:28 修正:2014-11-05 06:51

親朴は‘キム・ムソン対抗馬’-野党は‘忠清必勝論’で擁立競争
「農夫がマクワウリを育てずに、野生マクワウリを拾いに行くようなもの」

朴槿恵大統領(左)が昨年5月、米国ニューヨークの国連本部を訪問し、潘基文事務総長と握手している。 ニューヨーク/カン・チャングァン記者//ハンギョレ新聞社

 政界の“潘基文(パン・ギムン)争奪戦”を見ているとデジャビュ、いつか全く同じことを経験したことがあるような既視感を持つ。 次期大統領候補に適当な人が見当たらない時、政界の外側にいる人物をもの欲しげに見つめるのは韓国政治の不変の習性だ。 このようにして傷ついた人物は一人や二人でない。 滅びたのは選手だけではない。 球団内部の問題がない選手を育てることもせずに外人球団に精魂を込めた結果、全てを失ったチームも多い。この点では与党も野党が変わりがない。

 セヌリ党‘親朴’の集いである「国家競争力強化フォーラム」が‘潘基文代案論’を提起して先手を打つと、新政治民主連合では‘老将グループ’が‘潘基文はこっち側論’を持ち出した。 クォン・ノガプ常任顧問が3日、回顧録の出版記念会で「潘総長に極めて近い側近が(潘総長が)新政治民主連合側から大統領候補に出て欲しいという意志を私に打診した」と明らかにしたのに続き、チョン・デチョル常任顧問も「党の立場からは当選可能性が高く、執権可能性が高い側に頭を向けなければならないのは当然」と加勢した。 パク・チウォン議員も「数か月前から私もクォン顧問もよく知っている潘総長に近い知人が新政治民主連合が次期大統領候補として潘総長を検討してはどうかと打診してきた。 三か所でそんなことがあったが、それが組織的なのか否かは分からない」と話した。

 与野党が潘総長を引き込もうとする背景には差異がある。与党の親朴にとって潘基文は‘キム・ムソン対抗馬’の性格が強い。 朴槿恵大統領には後継者として前面に出せるめぼしい人物がいない。 時間が経てばキム・ムソンが‘朴槿恵差別化戦略’を可視化させる可能性がある。 キム・ムンスら与党の他の大統領候補も差別化に加勢するだろう。 そうなれば朴大統領は致命的レイムダックに陥ることになる。 親朴には与党の次期走者群に対する牽制カードとして活用する人物がどうしても必要な状況だ。 親朴はこのような目的に最適な人物として潘基文に優るカードは探せないだろう。 親朴は潘基文が次期大統領候補として過度に早く熟して、牽制カードとしての効用性が早い時期に消耗することを憂慮している雰囲気だ。 親朴の核心たちがいくつかの世論調査機関に潘基文を調査対象から除外するよう要求したという噂も出回っている。 潘基文を大事に取っておき、決定的な状況で活用しようとする下心が読みとれる。

 野党‘老将グループ’の潘基文ラブコールは‘アゲイン 湖南(ホナム)+忠清(チュンチョン)連合!’の性格が強い。 かつて金鍾泌(キム・ジョンピル)を引き込んだ‘DJP連帯’で金大中大統領を作り出したように、忠清道出身の潘基文を迎え入れ、もう一回大統領選挙で勝ってみようという‘ニューDJP連合構想’であるわけだ。 野党は盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅(ムン・ジェイン)など嶺南(ヨンナム)圏候補を前面に出したが、嶺南での得票力に限界を見せたという点も挙論されている。 一種の‘忠清候補必勝論’に近い。 ‘湖南+忠清連合論’は自ずから野党での湖南圏影響力を拡大する側面がある。 クォン・ノガプ顧問など主に湖南圏の人物が‘潘基文擁立論’の先頭に立っているのは偶然ではないわけだ。 このような点で野党側の‘潘基文待望論’はじわりと煙が上がり始めている‘湖南圏新党論’と結びつく可能性がある。

 ‘潜在的大統領選候補 潘基文’の政治的商品性を裏付ける根拠もある。 何よりも‘新商品’という点が強みだ。韓国政治の‘新商品選好症候群’は、昔も今も変わりない。 政治の垢がついていない政界の外側にいる局外者として、ひとまず政治には一線を画しているという点も加算点になるだろう。 一方の陣営に偏らないかに見える‘中道的イメージ’もまた潘基文の潜在力を大きくする要因だ。与野党双方からラブコールを受けている状況自体が、潘基文の中道性を示している。 華麗なスペックや成功神話も省くわけにはいかない。 韓国で誰が潘基文を凌駕するスペックを持っているだろうか。 従って潘基文という名前を世論調査に入れるやいなや、40%に肉迫する支持率を記録し、2位の朴元淳(パク・ウォンスン・13.5%)を大差で締め出したことは偶然でない。

 ‘大統領候補 潘基文’を高建(コ・ゴン)、鄭雲燦(チョン・ウンチャン)、安哲秀(アン・チョルス)と比較してみるのも面白い。 高建も大統領選挙の2年前である2005年上半期に35%内外の支持率を記録し、当時与党のの支持率1位を走った。高建は総理とソウル市長を歴任した華麗なスペックに加えて中道的イメージを備えているという点で潘基文と似ているが、湖南出身という点が違う。 高建は新党を推進したが、タイミングを逃して右往左往して中途下車してしまった。 忠清圏出身に華麗なスペックと中道的イメージまで備えた鄭雲燦も、一時は有力候補として議論されたが‘御輿’に乗せてくれるのを期待してためらっているうちに機会を得られなかった。 与野党双方からラブコールを受けるという点で、潘基文は政治に入門する前の安哲秀(アン・チョルス)とも似ている。 中道層、無党派層の支持という長所があるが、政治的色彩が曖昧でどちら側からも確実な支持を受けられないという点は短所だ。 高建、鄭雲燦、安哲秀は全員が大統領選候補として失敗した。 潘基文が彼らとは違う道を歩くことはできるだろうか。

 潘基文本人は、ひとまず政治とは一線を画している。 だが、それだからなおさら‘そいつの人気’は冷めるとは思われないというのが政治のアイロニーだ。政界入門以前の安哲秀もそうだったから。 大統領候補として出てほしいと与野党両側が求愛している状況に気分を悪くする人は珍しい。 ひょっとして天運が訪ねてきて、大統領になれるかもという気がすることもあろう。 それならなおさら潘基文は、国連事務総長の任期を終える2016年末までは政治と距離をおく可能性が高い。 それが人気を維持する秘訣であることを潘基文は高建や安哲秀を通じて体得しているだろう。潘基文は‘親朴’の擁護を受けている状況をいまわしいと考えるかもしれない。 現職大統領は誰でも任期が終わりに近づくほど力を失うのが常だ。 朴槿恵大統領が後継者として目を付けた人という烙印は致命的毒にもなりかねない。 すでに‘親朴’の核心人物の中からも「自分は親朴ではない」と話す人々がいる。 親朴が潘基文を引き込もうとすればするほど潘基文は一層それを手で遮るほかはないという点を親朴は分かっていない。

 与野党の潘基文争奪戦は韓国政治の後進性を見せる自画像でもある。潘基文は‘政界の外側にいる新しい人物’という大衆の抱く虚像と、一部政派の政治的必要性、言論の無責任な報道が結合して創出された人為的候補だ。 少なくとも今のところはそうだ。 新政治民主連合所属のイ・ソクヒョン国会副議長は、潘基文争奪戦についてツィッターにこう上げた。 「怠け者の農夫が、マクワウリを育てずに山に野生のマクワウリを拾いに行くようなものだ。与野党がじっと動かない潘基文氏を引き込もうとしているが、与党であれ野党であれ(政治に)身を置いた瞬間に人気は下落する。 自分の党に圧倒的候補がいないからと早くも外部に気を遣っていることを恥ずかしいと思わなければならない。」傾聴すべき言葉だ。

イム・ソクキュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/662871.html 韓国語原文入力:2014/11/04 17:15
訳J.S(3362字)

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