電信柱の上でヒヤヒヤ、顧客評価にあくせく
サービス技士は使用者を隠す“悪い雇用”に泣く
現在、韓国社会における労働問題の核心は間接雇用だ。 労働力を安値で売っても、いざとなれば働き口を切られる既存の非正規職雇用の問題に加え、誰が本当の使用者なのか探すこともできない“使用者の失踪”までが重なったためだ。金を払って労働力を使うが問題が生ずれば誰も責任を負わない、人間を最も非人間的に扱う雇用形態だ。 間接雇用問題の解決が容易ではない所以だ。
現代と起亜自動車の社内下請け労働者1647人の本当の使用者がチョン・モング会長であることを最近になって1審で立証されるまでに何と11年もかかったことから分かるように、間接雇用は長期にわたり社会葛藤の元凶として作用している。 製造業中心だった間接雇用ウイルスは、電子・通信などサービス職種に飽くことなく宿主を広げている。 三回にわたり間接雇用の実態と問題点、そして代案を探ってみる。
「お客様、こんにちは。 LGU+の技士です」。LGU+インターネット・ケーブルテレビの設置技士イ・ジョンフン氏(36)はこんな自己紹介から一日を始める。 この話の矛盾を知らずにいるのは電話を受ける“お客様”だけだ。
イ氏はLGU+の制服を着てLGU+の指示を間接的に受けてLGU+の商品を設置する。 だが、彼はLGU+の職員ではない。 LGU+と請負契約を結びサービスセンターを運営し、イ氏に仕事をさせる協力業者が彼を職員として認定するわけでもない。イ氏は協力業者と勤労契約書はもちろん請負契約書も書いていない。 協力業者は、イ氏は設置1件当たりの手数料を受け取る個人事業者であると主張する。 “二重間接雇用”だ。 LGU+設置技士として仕事を始めて2年目だが、その間に協力業者は5回変わった。勤労契約書を作成し4大保険を適用されたのは最初の2か月だけだ。
9月4日にもイ氏は「お客様、こんにちは。LGU+技士です。 今日訪問しても構いませんか?」という言葉で一日の仕事を始めた。 午前9時30分、九老(クロ)・光明(クァンミョン)・衿川(クムチョン)・陽川(ヤンチョン)サービスセンターで装備を取りそろえて出かけたイ氏が車のエンジンをかけた。 LG携帯電話にのみ設置される元請けのコンピューターシステム「U Cube」に接続して、今日の日課を確認した。 顧客がLGU+の代表番号101に電話をかけ、インターネットの開通・修理を申し込めば、元請けからの通知を受けた協力業者が1時間単位で技士に業務を配分する。 U CubeのIDがなければ業務の配分を受けることはできないが、元請けであるLGU+が協力業者の職員でもない技士に発行してくれるわけだ。 「IDを取得するためには元請けに行って入門過程教育を義務的に受けなければなりません。以前は4大保険に加入した技士だけにIDを与えたが、今はそうしたことは問いません」。イ氏の話だ。
LGU+設置技士のイ氏
元請けシステムに接続して仕事をするが
元請けも協力会社も“職員ではない”と主張
4大保険もなく、休日・夜間勤務は当たり前
月の稼ぎはやっと100万ウォン(約10万円)
約20分後、ソウル衿川区始興洞の住宅街にイ氏が車を停めた。 業務に使う車とガソリン代はイ氏が負担する。「インターネットとテレビを申し込まれましたね?」。笑顔で挨拶するイ氏に対して“お客様”は二言三言言って部屋に入った。それでもイ氏は笑顔で屋根と塀の上を行ったり来たりしながら通信線を引っ張ってきて、テレビとコンピュータに連結した。 手袋、はしご、ペンチ、(線を整理する)テッカー、インターネット光ケーブル線など、商品の設置に必要な装備は全て彼が買ったものだ。
「101番から電話が来ますのでよろしくお願いします」。設置を終えたイ氏が“お客様”に苦笑しながら頼んだ言葉だ。101番はLGU+の顧客センターの番号だ。 設置・修理の後、無作為で顧客に“ハッピーコール”をかけ、満足度を評価する。 10点満点でなければ意味がない。 3月までは9点~6点を受ければLGU+の元請け職員に“改善確約書”を出し、LGU+の地域支社に行き別途の教育を受けなければならなかった。 罰金として月給も削られた。 5点以下は退社だ。 設置後72時間以内に顧客が顧客センターに不満を提起したら、罰金を払わなければならなかった。
「満足度に命を賭けて地べたを這うようにして通いました。仕事が終わっても、他に御用はないのか尋ね、設置した次の日の朝と夕方にも携帯メールを必ず送りました。 10点満点の10点を求めて…。 LGU+は私たちを自分の職員ではないと言っていながら、満足度管理は徹底していましたよ」
ハッピーコールと顧客不満にともなう元請けの教育・罰金は、3月に設置・修理技士が労組を作ってLGU+を相手に“元請け使用者性”を主張した以後になくなった。 だが、ハッピーコールの結果と顧客不満などは今でも協力業者の評価に反映されている。 4日午後、ソウル九老区のイ氏が所属する協力業者「イエスプラス」の事務室の壁には“3か月連続 S等級 20万ウォン、A等級 10万ウォン、B等級未満 技士開通圏域変更および優先順位排除”と書かれた公示文が貼り出された。
午前11時30分、3件目の顧客を訪ねた。 インターネット・電話・ケーブルテレビ移転開通の工事だ。 複雑な住宅の半地下の部屋にインターネットを設置するには、別の部屋に設置された光端子に光ケーブルをつなげなければならない。 イ氏は保護装備も使わずに塀に登り、ガス管の間に光ケーブル線を固定して、背丈より高い塀の下へふわりと飛び降り後方の家へ回った。 そんな風にして“お客様”の家の窓の前までインターネット線を引いてくるのに20分かかった。 そんな仕事でケガでもすれば、イ氏が自費で治療しなければならない。 労災保険に加入できないためだ。 実際、イ氏は2か月前に電信柱に上がって交通表示板で頭に裂傷を負い、自費で4針縫った。
「1件当たりの手数料を受け取るので、安全を確かめてから仕事をするのは困難です。 金を稼がなければなりませんから。それで懸命に仕事をする人が多くてケガもするが、大きなケガをすれば労災保険どころか退社させられます」
休日手当をくれと言うと、出てこないでいいと言われます
午後5時頃、最後の予約顧客の家の前まで来たものの、結局連絡がつかなかった。 この時、サービスセンターから電話がきた。「今週土曜日の午後3時に設置できますか?」。顧客が急な事情ができたので“お客様”が指定した別の日に改めて来てくれという意味だ。 イ氏は「分かりました」と短く答えた。 珍しいことではない。
「今年初めまでは月に一日休んで働きました。 QM(元請け管理者)が直接、休日や名節にも出勤して仕事をしろと指示するんです。平日にも通常朝8時に出勤して午後6~7時頃に退勤するけど、顧客が来てくれと言えば夜の9時だって行きましたよ。それでも延長・夜勤・休日手当てはありませんでした。くれと言えば協力業者は『出て来なくていい』と答えます」
QMは周期的にサービスセンターと午前に会議を開き、実績を評価して圧迫した。 夜間・休日業務もQMがメールと携帯メールで指示した。 QMは元請けシステム U Cubeの接続ID発行・削除権限も握っていた。 今年3月の労組設立以後、QMは直接指示を止めた。 LGU+関係者は「LGU+の職員がセンターに直接業務指示をしておらず、独立法人であるセンターの人材運営に関与していない」と話した。
この日の一日、イ氏の1件当たり手数料を合わせれば6万7500ウォン。 設置に使った光ケーブル代の2万ウォンはイ氏が負担しなければならない。 このようにして稼ぐお金は毎月300万~500万ウォンで変動する。 最近は開通業務が大幅に減って、5月からは月給が100万ウォン台に大幅に下がった。
1件当たり手数料の基準は元請けが決める。元請けは技士の1件当たり手数料を計算して、総額を協力業者に請負費として支給する。 賃金引き上げを協力業者にのみ要求できない所以だ。
「それでも最近では今日が最も多く稼ぎました」。苦笑するイ氏の紫色のチョッキには“国家ブランド大賞 2年連続1位”という宣伝文句が鮮やかに刷られている。