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[旅客船沈没 大惨事] KBS若手記者たちの文「一瞬の卑怯さがケビョンシンを作る」

登録:2014-05-15 09:04 修正:2014-05-16 07:16

入社1~3年の<韓国放送>(KBS)の若手記者10人が7日、記事送稿のために使用する報道情報システムにセウォル号取材と関連した自分たちの主張を込めた文を掲載した。災難主管放送局として恥ずかしくない報道をしたかを反省し、市民が<韓国放送>の報道をどのように見ているか、そして報道本部首脳部に対する感情などを率直に書いている。<ハンギョレ>はこの中から3人の文を選んで載せる。

*ケビョンシン(訳注): ビョンシンは韓国語で人をののしる時に使う言葉の一つ。“KBS”に合わせ“ケ(犬)”を頭に付けて“ケビョンシン”としたもので、ののしりの度も強くなる。

セウォル号沈没の翌日、珍島(チンド)体育館を訪れた朴槿恵(パク・クネ)大統領

「誰よりもご家族のみなさんが、(救助の状況を)ちゃんと聞くことができなければならないじゃないですか」

「パチ、パチ、パチ、パチ!」

 万雷の拍手でした。朴大統領のごもっとも(?)な指示に、行方不明者家族らは体育館が割れるような大きな拍手で応えました。 誤解しないでください。 唯一、KBSの<ニュース9>でのみそうでした。

「お目出度いことでもあったのか。拍手なんかして!」

 編集されていない行方不明者家族の反応です。うちのニュースでは徹底的に無視された声でもあります。子供を海の中に一人残している親が、無能な対処で一貫している政府に向かって言える当然の怒りなのにです。

 拍手・喝采ですか? 全くなかったわけではありません。ただし、多くの公務員と警備員が、演壇上の朴大統領と床に座っている行方不明者家族たちとの間に壁のように立って隔てていた彼らのものでした。奇妙な編集術のおかげで、これら公務員たちの反応がまるで家族の反応であるかのように変身したのは問題です。“捏造”です。

 私はKBSのニュースで事故収拾責任を回避する“政府の首班”朴大統領に対する批判を聞いたことがありません。「船長と一部の乗務員の行為は殺人にも等しい行為」と言った朴大統領の軽率な言行を指摘するのも、見たことがありません。朴大統領が一般弔問客をまるで遺族であるかのようにして慰める大統領府発の寸劇には言及すらなかったし…。 あ! 朴大統領の誠意のない謝罪を批判した遺族の記者会見は、一線の記者たちの抗議でやっと放送されました。それさえも、メインニュースには出ませんでした。

 おかげで最近、取材現場でKBSの記者は“キレギ中のキレギ”です(訳注:記者の「キ」とゴミ(スレギ)の「レギ」の合成語)。 先日、一人の後輩がセウォル号関連で市民にインタビューを試みて結局、数人の市民から「ちゃんと報道しなさい。なぜそんな放送してケビョンシン(KBS)なんて言われてるんですか」と言われたそうです。この侮辱、絶対に後輩が受けるべきものではありません。偏向報道を指揮する報道本部長、報道局長に腹が立っても、すぐに私自身を振り返らざるを得なくなります。

 なぜ私は「市民団体の統計は信頼できないから放送に使えない」というデスクの言葉に反論できなかったのか。なぜ私は、公企業の社長が与党の代表に人事請託をした事件が記事化されなかった時、そばで何も言えないでいたのか。一瞬一瞬の卑怯さが集まって、今の“ケビョンシン”と言われる状況を作ったのではないか。反省しています。

 それで、初めて申し上げます。どうか、権力からの“編集権独立”を達成してください。市民からの、後輩たちからの“編集権独立”を叫ぶのでなく! 大統領府ばかりを代弁したいのなら、ご自分で大統領府報道官の座を得て、外でやってください。その方がむしろ正直です。これ以上“ケビョンシン”と言われるのは御免です。

 報道本部長と報道局長、セウォル号の報道に関与した全ての記者が参加する討論会を提案します。KBSが災難主管放送局として恥ずかしくない報道をしたのか、必ず反省しなければならないと思います。その結果を私たちの9時のニュースを通して伝えて、誤っていた部分は遺族と視聴者にはっきりと謝罪しなければなりません。沈没するKBSジャーナリズムを、このまま見守ってばかりはいられません。

 

▶「KBSをどうして信じられますか?」

 安山(アンサン)で取材した13日間、毎日のように聞いた言葉です。 葬儀場で、犠牲者合同焼香所で、安山の町の至る所で、KBSだという理由で遺族と市民たちはインタビューを拒否し、叱責を越えて激しく憤りもしました。葬儀場の弔問も拒絶されたという先輩記者たちの話が少なからず聞こえてきました。事故初期の混線に対する怒りだと思いました。もどかしかったけれども、慎重に取材を続けて現場をありのままに報道したら、少しずつ信頼を得ていくことができるだろうと信じました。

 しかし、状況は日増しに悪くなりました。取材初期には何人かの遺族が犠牲になった子供たちのことを話してくれたりしましたが、それ以後は、それさえ拒否する遺族がほとんどでした。マスコミと対応したくないからじゃありませんでした。むしろ彼らは疏通できるマスコミを探していました。しかし、KBSニュースには、自分たちの“訴え”だけがあり“話”はないと言って拒否したのです。実際、悲嘆に暮れ、泣叫ぶ遺族たちの姿はどのニュースにもあふれていましたが、遺族たちが現場の問題点を指摘して政府に対策を求めていた姿は、まともに報道されませんでした。

 セウォル号の犠牲者公式合同焼香所が設けられた先月29日もそうでした。その日の未明、犠牲になった息子が撮った最後の映像を他社に情報提供した故パク・スヒョン君のお父さんと会って、遅ればせながら映像提供とインタビューの約束をしてもらいましたが、2時間も経たずに断られてしまいました。一日中説得を試みましたが、戻ってくる返事は同じでした。どうせ報道されるのであれば、公営放送であり最も大きな放送局であるKBSに報道されることを願ったけれども、いくら考えても遺族の声がちゃんと伝えられるという確信がもてないというのが理由でした。そしてその日の9時のニュースのトップは朴槿恵大統領の犠牲者合同焼香所の弔問、しかし、政府の対策を要求した遺族対策委員会の記者会見は、9時のニュースには報道されませんでした。

 取材をしている間、“KBS”と聞いて顔をそむけ、手を振って拒否し、口をつぐんでしまった遺族たちは、他社に進んで情報を提供し、亡くなった子の話を語り、現場の問題点を話しました。何故KBSではなく他のメディアなのか。私たちの報道が、遺族たちが“言おうとすること”より、遺族から“聞きたいこと”ばかりに集中していたのではないかと悩むようになりました。悲しみに身悶えする遺族たちの姿も、亡くなった人たちの哀れな事情も、もちろん必要な報道だと思います。しかし、それだけに集中するあまり、遺族たちが伝えようとしていた他の多くの話にはついぞ耳を傾けず、かえって過度の取材が遺族達を傷つけたりしました。葬儀中だったり葬儀を終えたばかりの遺族たちに、子供たちの生前の姿を取材しなければならず、まるで観客席のように見える臨時合同焼香所の2階で嗚咽している遺族に背を向けて、何日も中継を続けました。結局、怒ったある遺族により、取材陣は焼香所の外に追い出されもしました。

 取材記者である私がもっと懸命に現場を走り回っていたなら、もっともっと考え悩んで遺族たちの話を取材して報道していたなら、という残念さも大きく、自責の念に駆られもします。今からでも、このような思いと反省に基づいて、遺族から“聞きたいこと”ではなく彼らの“言おうとすること”に耳を傾け、深く考えなくてはならないと思います。国民の側に立って弱者の話に耳を傾け、彼らに心を配ること。それが私の考える公営放送の役割です。その役割を忠実に果たしたとき、「KBSをどうして信じられますか」という問いに堂々と答えられるようになるのではないでしょうか。 

▶「この野郎、撮るな、撮るなと言ったら。カメラしまえ」 

 顔の赤らんだ行方不明者の父親が、家族対策本部のテント前に陣取っていた取材陣をののしりながら、カメラを全部壊してしまいそうに襲い掛かりました。

 大統領の訪問を控え、取材陣と警護員と行方不明者の家族たちがテント前の狭い通路で入り乱れていました。

 二重三重の警護を受けて大統領がテントに入り、しばし静寂が流れ、そして突然荒い声がテントの外まで聞こえてきました。

「出て行け、私の子供を返せ」

 怒りに震える母親の声。父親の怒鳴り声。すすり泣きから慟哭まで。私たちのニュースでは見ることのできなかった、記者として私が現場で見て聞いたものです。

 5月4日、大統領の事故後2度目の珍島(チンド)訪問でした。ペンモク港での混乱した状況と憤りを、私たちのニュースは載せませんでした。 肉声ではなくCGで処理された大統領の慰労と指示の言葉があっただけです。トップに大統領の訪問を扱っただけでも足りずに、二つのコーナーで大統領の動線に沿って場所別に報道しました。

 幸い2回目にはバージ船上の犠牲者家族の声を聞くことができましたが、あまりにも精製されているという印象は拭い切れませんでした。子をなくした親の怒りと絶叫は消え、大統領にお願いをし、大統領が慰労と指示をするという姿は、あまりにもよく組まれ演出された姿に見えました。

▶なぜ私たちのニュースは、大統領に責任を問わないんですか? 

 この国には大統領はいなくて、ペットボトルを投げつけられて追い出される総理、腐敗し無能な海洋警察、救援派だけがいるんですか?? 大統領は賛辞と拍手だけを受けなければならず、何の責任もないんですか?? 政権を監視し批判しなければならない言論はどこへ行ってしまったんですか? どうして現場をありのままに報道しないのですか。

 大統領の最初の珍島訪問レポートは、珍島体育館での家族たちの声をすべて消しました。荒々しい声は消え、ひたすら大統領の声と、拍手を受ける姿だけが放送されました。大統領の安山(アンサン)焼香所弔問は演出されたドラマでした。弔問客を失踪者のおばあさんであるかのように編集して、視聴者が客観的事実を歪曲されて受け入れるようにしました。

 他の媒体が失踪者のおばあさんのように見えたあの方は遺族ではないと報じましたが、私たちのニュースでその報道を見ることはできませんでした。

 犠牲者家族に、「キレギだ。まともに報道しろ」とののしられたり殴られたりすることも我慢出来ます。ただ、カメラを持って歩くのが恥ずかしくないことを願うばかりです。10キロを超える重さを肩に担いで耐えている理由は、私たちは事実を記録し伝える義務があるからです。

整理・オンラインニュースチーム

http://hani.co.kr/arti/society/media/635924.html 韓国語原文入力:2014/05/08 11:02
訳A.K(4568字)

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