原文入力:2012/10/08 22:48(4251字)
インターネット ポータルなど通信事業者が捜査機関に譲り渡す加入者の電話番号の数は年間580万件余りに達する。 このような情報提供は電気通信事業法(83条3項)に根拠を置いている。 この条項については憲法上の令状主義を排除しており違憲という論議が提起されたが、去る8月に憲法裁判所はこの法律に対する憲法訴訟を却下した。 未だに現在進行形であるいわゆる‘回避ヨナ動画’事件関連訴訴訟もこの問題と密接に絡まっている。
インターネット実名制(制限的本人確認制)が憲法裁判所で違憲判決を受けた去る8月23日、憲法裁判所のまた別の重要決定は話題になることも無く埋もれた。この日、憲法上の‘令状主義’を侵害しており違憲論議を起こしてきた電気通信事業法83条3項の‘通信資料提供’は憲法訴訟で却下された。 この条項は捜査当局の要請によりポータルなど通信事業者が加入者の電話番号など個人情報を提供できるようにした法律だ。
憲法裁判所はこの条項が違憲有無判断の対象にさえならないと決めた。 強制性を帯びない条項だとし、通信事業者が必ず従わなければならない義務がないという理由であった。 しかしこの条項により年間に何と580万件を上回るインターネット加入者の電話番号が捜査当局に渡っている。 ある加入者の情報をこの法律に拠って警察に譲り渡したインターネット ポータル ネイバーを運営するNHNは該当加入者と2年半を越して民事訴訟を行っている。 ちょうど2年半前、ネチズンに笑いと怒りを抱かせ続けた‘回避ヨナ動画’事件だ。
チャ・某(32)氏は2010年3月初め、インターネットで‘回避ヨナ’写真を見つけて英語学院の受講生が集まったネイバーカフェのユーモア掲示板に上げた。 ‘回避ヨナ’写真は2010年3月2日 ユ・インチョン当時文化体育観光部長官が金浦(キンポ)空港に帰国するバンクーバー冬季オリンピック選手団の歓迎にでかけ、金メダリスト キム・ヨナ選手に花の首飾りをかけ肩をたたくとキム選手がこれを瞬間的に避けたように見える場面を編集した写真だ。
チャ氏は数日後、ソウル、鍾路(チョンノ)警察署から一通の電話を受けた。 ユ長官が名誉毀損の疑いで告訴したという説明だった。 チャ氏は自身の連絡先がどうして分かったのかを尋ね、電気通信事業法に基づいてネイバー側から身上事項を譲り受けたという答を聞いた。 チャ氏は当時、編集写真製作・流布の疑いで捜査を受けたネチズン8人中の1人だった。
実際、電気通信事業法83条3項(当時は54条3項)では「電気通信事業者は裁判所、検事、捜査機関が捜査などのために利用者の姓名、住民登録番号、住所、電話番号、ID、加入・解約日時など6ヶの情報を要請すれば、これに対し‘従うことができる’」と規定している。 事件は結局、ユ長官が翌月に告訴を取り下げて終結したが、チャ氏は2010年7月に本人の同意なしに約款に違反して身上事項を提供したとしNHNを相手に2000万100ウォンの損害賠償請求訴訟を起こした。
昨年1月、ソウル中央地裁民事合議48部(裁判長イ・ウンエ)は「関係法令により個人情報を提供したことを個人情報保護義務違反とは見られない」として原告敗訴判決した。 裁判所は「インターネット事業者の個人情報保護義務は絶対的なものではなく、関係法令により制限されうる性質のもの」とし「ソウル鍾路(チョンノ)警察署長からの要請理由、該当利用者との関連性、必要な資料の範囲が含まれた通信資料提供要請書を提出させ法令と業務処理指針により身上事項を提供したもの」と明らかにした。 警察の適法な要求を法令により履行しただけだということだ。
裁判所のこのような決定は憲法裁判所が同じ条項に関する憲法訴訟に対して却下決定を下したのと論理的に背馳している。 憲法裁判所は「この事件の法律条項は‘電気通信事業者は…要請された時にこれに対し応じることができる’と規定しており、電気通信事業者に利用者通信資料を合法的に提供できる権限を付与しているのみであり、いかなる義務も賦課していない」として「この事件の法律条項だけで利用者の基本権が直接侵害されるとは言えない」と判断した。 該当条項を巡って裁判所は事実上強制条項だとし、憲法裁判所は強制性がない条項と判断したわけだ。 正反対の法論理ではあるものの、‘NHNのようなインターネット事業者には責任がなく利用者の主張が誤りだ’という同じ結論に至ったわけだ。
自身も知らないうちに捜査機関などに自身の身上情報が提供されるケースはチャ氏にだけ該当することではない。 毎年の通信資料提供文書件数はその規模が常識をはるかに越えている。 2009年56万1467件、2010年59万1049件、2011年65万1185件に達する。 昨年、全国すべての裁判所の令状発給件数(28万1944件)の2倍を越える数だ。 また、文書一件当りに含まれた電話番号の数は8~12ヶで、2009年687万9744ヶ、2010年714万4792ヶ、2011年584万8991ヶの個人電話番号が捜査当局の手に渡った。 通信資料提供が事実上の強制捜査手段だが、特別な統制装置もなく捜査機関がこれを乱用しているためだ。
令状主義原則に反するという違憲論議も絶えず提起されてきた。 さらには調査の結果、疑惑がなくても当事者には通知さえなされない。 事前に裁判所の許可を受けて中間または事後に当事者に処理結果を通知しなければならない押収捜索や金融取引内訳・通信内訳照会などに比べて公平性にも合わない。
通信秘密保護法上、通信日時と時間、相手方電話番号などの‘通信事実確認資料’や通話内容、電子メール内容などの‘通信制限措置’を要請する時は裁判所の許可が必要だ。 公訴提起や立件しない時には30日以内に通信関連資料を提供された事実などを当事者に文書で通知しなければならない。 このような事前・事後措置が個人の身上事項を提供する通信資料提供では全て脱落している。
現職判事(ソウル中央地裁オ・キド部長判事)が「電気通信事業法は令状主義を排除するようになっており、これまでそのように運営されてきた。 電気通信事業者は情報主体ではないながらも通信資料を提出し、事後通知規定もなく違憲法律という挑戦を受けるに充分だ」(韓国刑事訴訟法学会発表文)と明らかにするほどだ。 学界でも継続的に批判してきた条項だ。 パク・ギョンシン高麗(コリョ)大教授は2009年9月<憲法学研究>に収録された論文‘インターネット実名制の違憲性’で通信資料提供の違憲性を共に指摘している。 パク教授は「捜査機関が電気通信事業法第54条(現在は83条)上の要請をすることになれば令状や一切の裁判所許可が事前・事後的に全くなくともポータル側は情報を提供しているだろう」とし「これは令状主義に対する深刻な侵害」と指摘した。
このように違憲的で国民の基本権を侵害する法律を何でもないとばかりに活用する政府も問題だが、ポータルなどインターネット事業者も批判を免れることは難しい。 チャ氏の弁護を引き受けたパク・ジュミン弁護士は「捜査機関の通信資料要求は強制性のない要請に過ぎないので決定権は通信事業者にある」として「加入する際に個人情報保護義務を果たすとした加入者との約束をネイバー側が誠実に履行せず個人情報を便宜的に管理した」と話した。 NHN側は「法に明示されており形式要件を満たしていたので通信資料を提供した」として「通信資料提供において2審判決を参考にする」と説明しているだけだ。
これはネイバーだけの問題でもない。 また別のポータルである‘ダウム’は加入者が自身の個人情報を捜査機関に渡したか否かを確認してほしいという要請を拒否して、2010年7月加入者4人に80万ウォン相当の損害賠償請求訴訟を起こされた。 ダウムは捜査機関のスポークスマンにでもなったかのように捜査機密保護のため該当内容を公開できないと主張したが1審で敗訴した。 1審裁判所(ソウル中央地裁民事合議10部 裁判長チェ・ジョンハン)は昨年1月ダウム側に加入者の通信資料を提供した現況を公開せよと判決し、ただし損害賠償請求は棄却した。 裁判所は 「情報通信サービス提供者である被告は特別な事情がない限り利用者である原告の要求により原告の個人情報を電気通信事業法上の通信資料提供要請または、刑事訴訟法上のEメールに対する押収捜索令状の執行により第三者に提供した現況を閲覧または提供する義務がある」と判決した。
総合してみれば状況はこうだ。 ポータル側は‘何の責任もない’という理由を挙げて加入者情報を捜査機関にむやみに渡している。 憲法裁判所と裁判所は正反対の論理を当てて令状主義に反する法律によって1年に580万件余りのインターネット加入者情報が‘誰も知らないうちにこっそり’行き来している現実に知らぬフリをしている。 この間、一日平均1万6000件余りの加入者個人情報が捜査機関などに流れていて、どのように使われているのかさえ確認できない状況は続いている。 チャ氏がネイバーを相手に出した損害賠償請求訴訟控訴審裁判所(ソウル高裁民事24部 裁判長キム・サンジュン)が来る18日に判決を下す予定であり関心が集まっている。
キム・ソンシク記者 kss@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/554864.html 訳J.S