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【ハンギョレin 貧しい民主主義】(上)「進歩? 保守? そんなこと関係ない、国が裕福になればいいんだ」

原文入力:2012.05.15 15:49(4498字)

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ハンギョレ社会政策研究所共同企画

 社会の両極化が深まるほど、どの政治勢力も貧しい人々を代弁すると言って出てくる。 彼らの政治的求愛の前で韓国の貧困層は誰の手を握るだろうか。 <ハンギョレ>は国内で初めて貧困層政治意識世論調査を行った。 全国の成人男女800人を対象に自身の経済的地位を上中下の中から選ばせ、政党・政治家に対する選好度をはじめとする色々な項目を調査した。 調査の結果、貧しい人々はパク・チョンヒ、セヌリ党、パク・クネを最初に挙げていた。
世論調査と別に、深層面接調査も実施した。 去る4月末から2週間かけてソウルの江西区(カンソグ)禾谷洞(ファゴクトン)にある永久賃貸アパート団地を訪ねて70人の貧困層の人たちを一人一人面接調査した。 基礎生活受給権者などが主に暮らすこの団地で会った彼らは、世論調査の数字よりさらに強く保守政治に対する選好を表わした。 改革または進歩政治勢力にはこれと言った関心がなかった。 チョン・ヨンテ仁荷(インハ)大教授(政治学)は「学界でもこのような研究は試みられたことがない」として「<ハンギョレ>の報道が韓国貧困層の政治意識の深層を覗いて見る試金石になるだろう」と評価した。

※ソウル市江西区(カンソグ)禾谷洞(ファゴクトン)にある永久賃貸アパートで会ったチェ・ヨンフン(仮名)氏は48才の無職の男性だ。 セヌリ党を支持するという彼の話を直接話法で再構成した。

保守が正確に何なのかはよく知らない
進歩は礼儀をわきまえなく見える
国が豊かになれば我々の生活もよくなるんだ

ノ・ムヒョンは弱腰過ぎる
キム・ジョンイルの前では何も言えないじゃないか
だから迷うことなくイ・ミョンバクに投票した

セヌリ党が金持ちのための政治ばかりするって?
完璧な政治なんてどこにある
どん底で生きてる人間は
誰が大統領になったって何も変りはしない
焼肉おごってくれるならその人に投票してやる

←貧しい人の生活の重さはより一層重い。 その重さを減らす政治が彼らのそばにはない。 去る2010年9月秋夕(チュソク)を控えたソウル市中区(チュング)会賢洞(フェヒョンドン)の簡易宿泊所の住民が、ソウル赤十字社の救護品を載せた手押し車をかろうじて引いて歩いている。 イ・ジョングン記者root2@hani.co.kr

私が保守かって?
実際保守が正確に何のことか知らない。だが進歩だという奴がテレビに出てくると、すぐチャンネルを他へ回してしまう。 なぜそんなに声が大きくて鋭いのか。 とにかく‘礼儀’がないように見える。 そういうのが嫌いなら保守か?  セヌリ党が保守か?  それなら民主党よりセヌリ党を支持するから私は保守になるようだ。

 特に保守になろうと努力したことはない。 ただ、国が豊かになる方向に発展するのを見たいだけだ。 IMF(IMF外国為替危機)の時のことは考えるだけでぞっとする。 国が亡びたじゃないか。 国が亡びたら我々のような人間はどうやって生きたらいいか。 国が経済的に良くなれば我々の暮らしも良くなるんだ。

【参考①】現場で会った多くの貧困層は保守と進歩が何か、どんな差があるのかよく区分できなかった。 <ハンギョレ>政治意識世論調査を見れば、自己の理念指向を尋ねた質問に「分からない」または答えなかった人は下層で14.0%、上層3.3%および中層5.0%よりはるかに多かった。

 この間の総選挙ではセヌリ党の候補に投票した。 民主党が特に嫌いなわけではない。 だが、政治に関心がないので彼らがどんなことをしているのかも分からない。 時々ニュースを見ても取っ組み合いばかり出てくる。 その党が何が違うのか分からない。 進歩党? 進歩党はぜんぜん知らない。 聞いたこともない。 セヌリ党と民主党しか知らない。

 ストライキなどやってる労働者は理解できない。 私のような半分乞食みたいな人間もいるのに、ちゃんとした職場のあるやつらが何のストライキだ。 世の中のことはテレビの夕方7時のニュースで見る。 早く寝るので9時のニュースは見られない。 新聞は見ない。 インターネットは使い方も知らない。 携帯電話もない。

【参考②】面接調査した賃貸アパートの住民の90%が「テレビとラジオを通じて政治情報を得る」と答えた。 インターネットは1.5%だけだった。 <ハンギョレ>政治意識世論調査でも下層集団はテレビとラジオを通じて政治情報を得る場合(58.7%)が多かった。 新聞および雑誌は7.3%に過ぎず、インターネットに接する比率は19.0%であった。 上層の場合、インターネットで政治情報に接するという比率が34.7%だった。

 私の生まれ育ったのはソウルの奉天洞(ポンチョンドン)だ。 そこの人々はみな貧しかった。 うちは一番貧乏だった。 父親は早く死んだ。 肝硬変だったとか。 母親は飯場で働いていた。 兄と弟がいた。 私たち兄弟はほとんど放置されていた。 ご飯を抜くのは日常茶飯事だった。 私は主に雑貨屋で“ポリ”(こそ泥の隠語)をやって食べた。 お腹がすいて学校に行けないこともあった。 3日間何も食べられなかったこともある。 3日間水ばかり飲んだ。 腸が断ち切られるような気がした。 とても腹がへって壁を叩いてさんざ泣いた。 それでも死ぬ運命ではなかったようだ。 3日目の夕方、母親が帰ってきた。一方の手にパンがあった。 そのパンが私を救った。

 一番尊敬する大統領はパク・チョンヒだ。 私が一番腹がへって辛かった時期にパク・チョンヒが大統領だった。 あの時私が経済的に苦しかったのはあの人のせいではない。 当時は私の体は大変だったが国が良くなるという感じがあった。 一晩寝て起きれば高い建物が建ち、道路ができた。 セマウル運動もやった。 京釜(キョンブ)高速道も敷いた。 中2の時、パク・チョンヒ大統領が銃に撃たれて死んだというニュースを聞いた。 思わず涙が出た。 彼を殺した奴は悪い奴だ。 多分パク・チョンヒはもう一回だけ大統領やって辞めようとしたと思う。 もしあの時死ななかったら英雄になっただろう。

【参考③】賃貸アパートの住民は「国が発展してこそ私が生きられる」とたびたび語った。 国が発展するには力のある大統領が必要だという考えもしばしば表現した。 民主主義などは考慮対象ではなさそうに見えた。 <ハンギョレ>政治意識世論調査で下層集団の52.0%がパク・チョンヒが好きだと答えた。 全回答者の中でパク・チョンヒが好きな人は41.7%であった。

 高校中退以後ずうっと仕事に就けなかった。 母親が私を食わせてくれた。 母親はこの頃も古紙を拾っている。 1994年にこの賃貸アパート団地に入ってきた。 当時138万ウォン出して入居した。 今は基礎生活受給者なので一ヶ月に48万ウォンをもらって生活している。 結婚?  私は女の人はよく分からない。 私を好いてくれるはずもない。ずっと以前から、多分20年前から教会に行っている。 教会に女の人もいるが、みな長老や執事の娘だ。 私が考えることができる人たちではない。

 セヌリ党でイジャスミンとかいうフィリピンの女に公認を与えて国会議員になったというニュースを見た。 セヌリ党を支持するが、それは気に入らない。 どうして我が国の人間でもないフィリピンの女が国会に行けるんだ?  そんな寛大さがあるんだったら我々みたいな貧しい人間を国会に送ってほしい。 とにかく我々は外国人より悪い待遇を受けているようだ。

【参考④】貧しい人たちは自分たちに回ってくるはずの福祉と働き口を移住民が取っていくのを警戒していた。 <ハンギョレ>政治意識世論調査の結果「外国人の国会進出に対してどう思うか」という質問に、下層の44.7%が否定的に見ると答えた。 上層は30.6%だけが否定的に見ると答えた。 貧困層は政治的指向だけでなく文化的・社会的意識でも保守性が強く開放性が低いと解釈することができる。

 私が通う教会にセヌリ党の区会議員が通っている。 よく来るが私を見れば必ず手を握る。 初めはすっきりしなかったが、しきりに知っている素振りをしてくれると有難い気がすることもある。 イ・ミョンバク大統領も好きだ。 イ大統領は英語も上手だし他の大統領より勉強ができると聞いている。 ノ・ムヒョン大統領は好きではない。 弱腰すぎる。 北に行って頭を下げて、しまいには自殺までした。 その時は近所の人たちもノ・ムヒョンに投票しろというので投票してやった。 だけど政治をこんなふうにするとは思わなかった。 キム・ジョンイルにも何も言えなくて、大統領として非常に不十分だった。 そのあと、ためらいなくイ・ミョンバクに投票した。

 貧しい人間には福祉が重要なことは確かだ。 だがセヌリ党でも民主党でも何が違うか。病気で貧しくて技術もなくて生活能力のない人たちがここに住んでいる。 どの政権になっても、ここの人たちの生活は全然変わらない。 セヌリ党が金持ちのための政治ばかりすると言うが、それは党の問題とは思えない。 完璧な政治がどこにある。 すべての民を満足させる政治はない。 みなそんなものではないか。だめなら仕方ないということで。 だが、再びIMFみたいなことになるような人間には絶対投票しない。

⑤賃貸アパート住民の場合、各政党の政策がどんな差異点があるのか、ほとんど知らなかった。 政治情報を得る経路が殆どないということから来る問題と見られた。 特別な費用が発生しない空中波放送を除けば、新聞やインターネットにはほとんど接していない。 その費用が負担になるのだ。 チェ氏の場合、通信社の強圧に押されて家でインターネット回線を使っているが、じきに解約する予定だと言った。 一ヶ月に2万2千ウォンの出費がとても惜しいという理由だった。 彼らは未来の政治より当面の現金が切実だった。

 私には夢がない。 まともな職業もなしで今まで生きたが、夢なんて何があろう。 政治が私の人生を変えるだろうとも思わない。 一つ夢があるとすれば、88才の時に寝ていてそのまま静かに死ぬのが願いだ。 それから今サムギョプサル(訳注:豚の三枚肉の焼肉料理)がとても食べたい。 もう1年も食べてない。誰かサムギョプサルをおごってくれるなら、今度の大統領選挙で投票してやってもいい。

イ・ジョングク、チョン・ファンボン記者 jglee@hani

原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/532767.html 訳A.K