原文入力:2012/02/03 20:30(4370字)
←釜日奨学会の設立者、故キム・ジテ氏の遺族である長男 ヨング(右)氏と次男 ヨンウ(左)氏。 キム氏の遺族は2010年6月、正修奨学会および国家を相手に<釜山日報>と<文化放送>の株式返還訴訟を起こした。 カン・ジェフン先任記者 khan@hani.co.kr
釜山日報キム・ジュヨル遺体報道後
クーデター政権 言論掌握
手錠をかけられ行った寄付が自発的か
キム・キチュン、カン・ソング、シン・スンナムなど
奨学金を受け取ったサンチョン会員たちはねばっこい親朴支持組織に
釜日奨学会設立者である故キム・ジテ氏の遺族が<釜山日報>と<文化放送>(MBC)株の取り戻しに出た。 正修奨学会と政府を相手に両報道機関の株式返還訴訟を提起したのだ。 1962年6月、朴正熙軍事政権の下でキム氏が釜山日報と文化放送、<釜山文化放送>の株式を正修奨学会(当時5・16奨学会)に渡してから実に48年ぶりだった。 先月10日<ハンギョレ>と会った遺族は正修奨学会に対する失望感が訴訟の理由だと明らかにした。 訴訟提起時点は2010年6月だったが、初めて世に知られたのは昨年12月だった。
"2005年‘国家情報院過去史真実糾明委員会’(国家情報院過去史委)と2007年‘真実・和解のための過去史整理委員会’が釜日奨学会への株式寄付は強制献納だと決めたにも拘らず正修奨学会はこれまでの不法を謝罪しませんでした。恥を知らない人たちです。 訴訟以外に他の解決法がないと判断しました。"
キム氏の長男ヨング(75)氏は訴訟背景を明らかにして、これまでに大統領府と国会に提出した各種嘆願書と国家情報院過去史委調査報告書などを一束取り出した。キム氏は「5・16クーデター直後に裁判受けた父の面会に通ったことが数日前のようだが、今年ちょうど50年になった」と話した。
1962年キム・ジテ氏は朝鮮絹織と三和ゴムなどを経営する企業家であり、同時に釜山日報と<韓国文化放送>(現MBC),釜山文化放送などを所有する報道機関の社主であった。
企業家と言論人として常勝疾走したキム氏にとって1961年、朴正熙前大統領が起こした5・16クーデターは不幸の始まりだった。 クーデターを起こした軍事政権は権力基盤確保のために不正腐敗清算を公約として掲げた。 キム氏も不正蓄財法違反などの容疑で中央情報部に拘束されるに至った。 釜山日報などキム氏が持っている3社の報道機関株式がこの時、5・16奨学会へ渡ることになる。 キム氏の次男ヨンウ(71)氏は「祖先が獄中で手錠をかけられた手で(強圧によって)寄付承諾書に署名し印鑑を捺したもの」 と話した。 その時が1962年6月20日だった。二日後、キム氏は公訴取消で解放された。2005年国家情報院過去史委は報告書で「キム氏の財産献納は拘束収監状態で強圧的になされたと判断される」と明らかにした。 これに対して1995年から2005年まで正修奨学会理事長を務めた朴槿恵セヌリ党(旧 ハンナラ党)非常対策委員長は色々なマスコミとのインタビューを通じて釜日奨学会の財産寄付は自発的献納だったと主張した。
朴正熙政権がキム氏から強奪した、あるいは譲り受けた財産が報道機関だったという事実は意味深長だ。 国家情報院過去史委民間委員として活動し釜日奨学会事件の調査を担当したハン・ホング聖公会(ソンゴンフェ)大教授は、これを‘朴正熙式言論掌握の結果’と指摘した。「クーデター直後、国をすべて持ったのに報道機関の株式に何で欲を出しますか。財産権ではなく言論掌握事件として見るべきです。朴前大統領は4・19革命が釜山日報の報道から始まったという事実を誰よりもよく知っている人ではないでしょうか。」ハン教授が話した釜山日報の報道とは、1960年4月12日付<釜山日報> 1面に載せられた一間の写真を指す。当時、自由党政権の3・15不正選挙糾弾デモに参加し遺体で発見された馬山商業高校の在学生キム・ジュヨル君の写真だった。片方の目には催涙弾が打ち込まれていた。 一週間後に4・19革命が起きた。 自由党政権は崩れた。
釜山日報など3社の報道機関が5・16奨学会へ渡り50年が過ぎた2012年、釜山日報は再び熱い。 釜山日報は昨年11月30日付に朴槿恵委員長を狙い「正修奨学会の社会還元」を促す内容の記事を載せる予定だった。 記事を阻んだのは奨学会が任命したキム・ジョンニョル当時社長だった。 記事を外させる水準ではなく、完全にその日の新聞を発行しなかった。報道機関として初めての事態だった。 チェ・ピルリプ正修奨学会理事長は去る1日「編集局が度々経営に役立たない記事を出そうとするので、キム社長が‘経営上の判断’によって輪転機を停めたと理解している」として「経営権確保のための選択であったので編集権侵害とは関係ない」と主張した。 全国言論労組釜山日報支部は3日現在、編集権独立および正修奨学会社会還元などを要求し新聞社1階廊下でテント籠城を行っている。
‘釜山日報事態’を眺めるキム・ジテ氏の遺族の心境は穏やかでない。キム・ヨンウ氏は「釜山日報がめちゃくちゃになっているのは朴槿恵委員長が以心伝心で自身の考えを読むことができる誰か一人を座らせておき(新聞社を) 100%支配しているため」と話した。「本当にかわいそうです。いったい言論というものが何たるかも分からない人が座っています。もしチェ・ピルリプ氏が言論界内外で信望を受ける方だったら釜山日報事態は起こらなかったでしょう。 こういうことが本当に朴槿恵のためになるかといえば、そうではないと考えます。」
キム・ジテ氏の遺族の要求は2つだ。 正修奨学会が持っている釜山日報株式などを返してほしいという訴訟を行っているが、それを返してもらっても遺族どうしで分け合うつもりはない。 代わりに最近の釜山日報事態のように経営陣の編集権介入を防ぐためにも遺族や朴槿恵委員長側の人でない、社会的名望家を中心に財団理事陣を新しく設けようという提案だ。 もう一つの要求は奨学会の名前にキム氏の号‘子明’を入れてほしいということだ。「訴訟で勝って報道機関を再び遺族が持ってくるとしても私たちの社会が認めないでしょう。 代わりに父が血の汗を流してたてた報道機関が奨学金を出すことなのに、奨学生が誰の金を受け取るかは分かってはいけないでしょうか。 ‘正修’という名前を捨てられないならば子明と正修を一緒に使ってもかまいません。」キム・ヨンウ氏の主張は正修奨学会の社会還元を促す市民・言論団体の要求と大きく変わらない。
キム氏の遺族と言論団体などでは問題解決の鍵は正修奨学会、あるいは朴槿恵委員長が握っていると指摘する。 キム・ヨング氏は「正修という二字がどこから出たのか、世の中の人々が皆知っているのに、その家族の代表である朴委員長が正修奨学会とは関係がないと言うことはできない」と話した。イ・ガンテク言論労組委員長は去る2日「正修奨学会は5・16クーデター勢力が民間人から強奪した報道機関株式を基本財産としている」として「朴委員長が責任ある政治家ならば‘私は知らない’という言葉だけを繰り返すのではなく、強奪した財産の還収に対する立場と哲学を明確にしなければならない」と主張した。 反面、正修奨学会と朴委員長の考えは違う。 朴委員長は先月31日の記者懇談会で「(正修奨学会は)私と関係がない」と話した。 チェ・ピルリプ理事長も去る1日「朴委員長は法的に奨学会と関係がない」と後押しした。
←釜日奨学会設立者 故キム・ジテ氏の胸像
キム氏の遺族と言論界内外では朴委員長が正修奨学会から完全に手を引くことができない理由としてサンチョン会・チョンオ会を挙げてもいる。サンチョン会は正修奨学会奨学生の集いで選挙の時節になればたびたび‘朴槿恵支持組織’として言論に紹介される。 3万8千人余りに及ぶサンチョン会員は学界と財界、政・官界にかけて多様に布陣している。 キム・キチュン、ヒョン・キョンデ、カン・ソング前ハンナラ党議員と法曹界のシン・スンナム前検察総長、チュ・ソンフェ前憲法裁判所裁判官などがサンチョン会に属している。サンチョン会が大学卒業生の集いならば、チョンオ会は現在奨学金を受け取っている大学在学生の集いだ。 会員は700人余程度だ。正修奨学会から奨学生に選抜されれば本人の意志とは関係なくチョンオ会に加入することになり、卒業と同時にサンチョン会員になる。
目につくのはチョンオ会・サンチョン会のねばっこい結束力だ。釜山と大邱など主な地域ごとに支部を置いているチョンオ会は毎年 夏季修練会など定期会を持ち、朴正熙前大統領生家訪問などの行事を行う。 正修奨学会は宿舎・交通の便提供などの名目で毎年3千万ウォン以上の予算をチョンオ会に支援している。ソウルK大在学生キム・某氏は「毎年夏、2泊3日日程の修練会と送年会、学術大会を含め必ず参加しなければならない行事だけで5回」とし「正修奨学会は奨学金を受けること以外に他の活動が殆どない他の奨学会とは違う」と話した。 チョンオ会釜山支部は最初から会則に「チョンオ会の公式的な集いに2回以上連続不参加の場合、会員の資格を剥奪し奨学金支給を中断する」と釘を刺している。 これに対してチョンオ会指導教授であるイ・ジュンタク東亜(トンア)大教授は「会則は学生たちが自ら定めたことで実際には集いに出て来なかったからといって奨学金支給を中断したことは一度もない」と話した。
奨学財団である正修奨学会が毎年数千万ウォン規模の予算まで使ってチョンオ会のような奨学生組織を支援することに対する言論界の視線は毒々しい。 釜山日報関係者は「朴槿恵委員長の影響力の下にあるという疑いから自由でない正修奨学会が奨学金支給を前面に出して奨学生のチョンオ会・サンチョン会加入を強制するのは‘支持組織化’という誤解を生じうる」と指摘した。 これに対してチェ・ピルリプ正修奨学会理事長は「奨学会は(チョンオ会)学生たちにああしろこうしろと言ったこともなく、朴委員長を口の端に出したこともない」として「政治集団化を試みているという主張はとんでもない話」と語った。
チェ・ソンジン記者 csj@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/517421.html 訳J.S