またしてもサトシ・ナカモトの正体が「明かされた」。最近、米国のニューヨーク・タイムズは、1年以上の取材による調査報道の記事を通じて、匿名のビットコイン創始者であるサトシとして、英国の暗号学者アダム・バック氏を名指しした。報道は緻密だった。記者はサトシが書いた文章の癖と、アダム・バック氏の数千件のオンライン投稿を比較した。2008年に公開されたビットコインのホワイトペーパーの10年前に、アダム・バック氏が周囲に提案したアイデアが後のビットコインの設計と事実上一致した点も、一つひとつ指摘した。ホワイトペーパーが登場するとアダム・バック氏は姿を消し、サトシが消えると再登場したタイミングにも踏み込んだ。アダム・バック氏本人は「確証バイアス」だとして、即座に否定した。ニューヨーク・タイムズも「状況証拠」の限界を認めた。
実際のところ、サトシの正体論争は昨日今日始まったことではない。これまで100人以上の人物が候補として論じられた。ビットコインのホワイトペーパーに引用された暗号学者のニック・サボ氏、最初のビットコインの取引相手だったハル・フィニー氏、そしてレン・サッサマン氏などが候補の常連だった。とんでもない人物が名指しされたこともあった。多くの人は否定したが、オーストラリアのクレイグ・ライト氏は自らサトシだと主張し、裁判所で虚偽と判断された。サトシは個人ではなくチームだという見方もあった。
正体が明らかになれば、世界が最も注目するのはサトシのビットコインだ。彼が初期に採掘した110万個ほどのビットコインは、これまで事実上1回も動かなかった。現在の相場で12兆円を上回るこの額は、数千のアドレスに分散している。採掘パターンの解析を通じて同一主体によるものと推定されており、ネットワーク全体で最大の保有量とされる。
一つ目の関心事は現金化の意思だ。サトシがビットコインを売却する意思を持っているのであれば、そして彼の実体が「引きこもりの理想主義者」ではなく「現実的な事業家」に近いのであれば、市場はかなりの圧力にさらされる可能性がある。一気に放出しないとしても、売却の可能性が確認されるだけでも、価格に影響を及ぼす。
二つ目は、ネットワークに対して影響力を及ぼす意思があるかどうかだ。絶対量でみれば、全ビットコインの5%に相当する。しかし、一昨年、米国のビットコインの現物上場指数ファンド(ETF)の承認以降、ブラックロックなどの機関投資家の資金が大量に流入し、マイクロストラテジーのような企業がビットコインを財務資産に編入したことで、ネットワークの重心が移動している。サトシが夢見た非中央集権化が有名無実化しているとの懸念がすでに出ており、最大の保有者である彼自身のウォレットが目覚めることが、非中央集権化に対する最も致命的な脅威になる。
こうしてみると、一番すっきりした解決策はサトシが最後まで現れないことだ。17年間に一度も動かなかったコインは、すでに存在しないものとして扱われている。むしろ市場は、彼のウォレットが動くのではないかと懸念してきた。沈黙こそがまさに期待された答えだったわけだ。
しかし、量子コンピュータが新たな問題を提起している。現時点では現実的な脅威だと断言するには早いが、十分に強力な量子コンピュータが登場すれば、既存の暗号システムが無力化される可能性がある。これに対抗するための「量子耐性」ネットワークへのアップグレードの議論がビットコインの開発者の間で始まっている。アップグレードされる場合、既存のウォレットにあるビットコインは、新形式に移転することで安全になる。アップグレードはネットワーク参加者の合意によって進められるが、サトシのウォレットまで強制することはできない。アップグレード後にも動かない彼のコインは、量子攻撃による最も象徴的な標的として残る。
現れれば市場と非中央集権化が揺らぎ、現れなければ量子時代における最も脆弱な箇所となる。サトシの沈黙がビットコインを守ってきたように、その沈黙がいつかビットコインを脅かす契機になりうる。どちらに転んでも問題だ。ニューヨーク・タイムズが1年かけてアダム・バック氏を名指ししたが、サトシが誰なのかは、もはや最も重要な問いではなくなった。
キム・ウェヒョン|ビーインクリプト東アジア編集長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )