米国が12月初めに発表した国家安保戦略(NSS)はこれまでにないものだ。「外交問題評議会」のリチャード・ハース会長は第二次世界大戦以後「米国外交政策の最も大きな変化」と評した。米国は「もはや世界秩序を支えるアトラスではない」と宣言した。もはや伝統的な同盟関係は存在しない。世界の警察であることを否定し、地政学ではなく地経学を強調する。価値観ではなく利益を追求し、支援が消えたところに投資だけが残った。経験したことのない新たな米国とどのように協議していくべきだろうか。
米国のない朝鮮半島を想像しようという声が高まっているが、政策は現実をもとにしなければならない。そして現実には慣性が働くものだ。世界秩序が多極化の方向へと歩み出したが、速度も重要だ。経験したことのない世界が広がっているが、韓国政府は過去の慣性に囚われている。朝鮮半島の問題は当事者が解決すべきという原則は、北朝鮮の敵対的二国家論によってその基盤を失ってしまった。第二次世界大戦以来のこの80年間の国際秩序の文法が根本から変化しており、南北関係も様変わりした。
何よりもドナルド・トランプ政権自体がかつてない新たな変化だ。米国の国家安全保障戦略で最も印象的なのは、米国の外交・安全保障のエリートに対する批判だ。新たな思考を強調する大統領と慣性に囚われている伝統的な官僚の隔たりは大きい。トランプ大統領はもはや官僚制を活用していない。省庁間の協議と調整を目的とする国家安全保障会議もない。国務長官が国家安全保障担当補佐官を代行する期間が長くなっている。政策は緩衝過程を経ることなく、即座にソーシャルメディアに登場する。
ガザ停戦からロシア-ウクライナ戦争の終結、そしてイラン問題まで、トランプ大統領の娘の配偶者であるジャレッド・クシュナー氏とトランプ大統領の友人であるスティーブ・ウィットコフ氏が交渉を担当している。大統領個人の非公式の交渉チームが伝統的な外交・安全保障チームに取って代わった。陰の実力者は大統領と国務省の橋渡し役を果たす時もあるが、従来の文法から離れて動く場合が多い。陰の実力者を活用するのは、交渉の開始には有利かもしれないが、交渉の持続には限界がある。トランプ大統領の私的外交で交渉の扉を開いたが、交渉の汽車はスピードを出せず、しばしば道に迷わざるを得ない。
朝米交渉の見通しはどうか。トランプ大統領は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との再会を望んでいる。だが、誰が交渉の扉を開き、争点をまとめ、解決策を講じるだろうか。残念ながら米国務省の実務レベルでは難しい。第1次トランプ政権時代のように、北朝鮮担当特別代表が存在するわけでもない。2019年2月のハノイ会談の時も確認したが、北朝鮮の政策決定構造もまた指導者が占める比重が大きい。米国と北朝鮮のいずれも実務交渉には限界がある。
そのため、韓米作業部会が役割を果たすのは難しい。もちろん、これまで行ってきたように、実務レベルで情報を交換し、意見を交わす必要がある。だが、今は実務レベルではなく、トランプ大統領の考えを北朝鮮に伝え、交渉の内容を整えなければならない時期だ。クシュナーとウィッコトフのチームに取り組んでもらいたい。このチーム以外に他の代案はない。トランプ大統領が北京を訪問する来年4月頃に朝米首脳会談を開くには、このチームを動かす方法を探すことに外交力を傾けなければならない。
朝米交渉の弱点を補完する重層的な支援外交も必要だ。ただの会合ではなく交渉を行うためには、不信感を乗り越え、重要争点を調整しなければならない。韓国と中国が朝米交渉を支援すべきだ。米中間、あるいは韓米間で朝米会談の成功のために議論できるが、韓中両国が積極的な代案を作り、可能であれば朝米関係を支援できる多国間協力の枠組みを模索しなければならない。トランプ大統領が好む地経学のイシューも積極的に発掘する必要がある。
朝米首脳会談が単なる会合ではなく、中断された交渉の扉を開くものになるためには、交渉の内容も変わらなければならない。米中両国と北朝鮮は相互の核脅威削減について意見の一致をみる可能性もある。核兵器の脅威を減らすとともに、南北の通常兵器をめぐる信頼構築も同時に進める必要がある。南北米中が不安定な停戦体制を恒久的な平和体制に転換するための4者会談を開く時が来た。
むろん、交渉は容易ではない。関係悪化の期間が長い分、関係回復の道も遠く険しい。 しかし、外交は不可能を可能にする芸術だ。常に楽観を警戒しなければならないが、悲観していてはチャンスの瞬間を捉えることができない。今は外交・安全保障担当省庁が力を合わせて知恵を集め、調整しながら解決策を探さなければならない。自主派と同盟派という虚構的な二分法的思考ではなく、今はひたすら大韓民国の国家利益を重んじる必要がある。