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習近平のプーチン活用法、「親ロ中立」の複合方程式【ニュース分析】

登録:2024-07-03 06:57 修正:2024-07-03 09:33
[パク・ミンヒのチャイナパズル]_ウクライナ戦争と中国 
 
ウクライナ戦争を行う過程で、ロシアは中国にますます依存する従属的な立場になった。中国は自分たちの国益に合うようにロシアを管理して利用する余地を作った。プーチンはロシア帝国の復活を夢見ているが、逆説的に中央アジアと極東地域では中国の影響力が強まっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が5月16日、北京で茶を飲みながら対談している=北京/EPA・聯合ニュース

 2022年2月4日、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は北京での首脳会談で「無制限の協力」を誓い、全世界に固い友情を誇示した。それから20日後、プーチンはウクライナに全面侵攻した。

 習近平はプーチンから事前にウクライナへの全面侵攻の計画を聞いていたのだろうか。中国専門家らの分析によると、プーチンは侵攻直前まで中国側に詳細な計画を説明していなかったものとみられる。しかも、ロシアの速戦即決の侵攻計画は失敗した。ウクライナ人は団結して抵抗し、ロシアに対する強力な制裁と国際的なロシア糾弾戦線が作られた。2022年2月28日に国連総会は、ロシアの侵攻をウクライナの領土と主権に対する侵犯と規定し、ロシアに即時、完全に、無条件で軍を撤収するよう要求する決議を採択した。141カ国が賛成し、7カ国が反対、32カ国が棄権した。中国は棄権した。中国内では、ロシアの肩を持って米国と北大西洋条約機構(NATO)を非難する側と、ロシアとの関係を整理すべきとする意見が、公の場で対立する様子があらわになったりもした。中国国務院傘下の公共政策研究センター副理事長(当時)の胡偉は2022年3月、「中国はロシアと距離を置かなければ、世界からますます孤立することになる」とし、「中国はプーチンとの関係をできるだけ早く断つ必要がある」と主張する文章を公に発表した。

 それからの28カ月間を振り返ると、中国とロシアはよりいっそう密着していったとみられるが、中国の計算は非常に複雑だった。

 ウクライナ戦争が始まってから数カ月後の2022年夏ごろ、中国はロシアと距離を置き、仲裁者としての姿を強調した。同年6月14日、中国外交部内の代表的な「ロシア通」である楽玉成副部長が閑職(広電総局副局長)に左遷された。彼は中ロの「無制限協力」の積極的な推進者であり、次期外相候補にも挙げられた人物だった。習近平は外交部内の代表的な親ロ派である楽玉成を更迭することによって、米国と欧州諸国に向けてロシアと距離を置くというシグナルを送った。

 ロシアのウクライナ侵攻から1年を迎えた2023年2月、中国は「ウクライナ危機の政治的解決に対する中国の立場」と題して、主権尊重、冷戦思考の放棄、戦争中止、平和交渉開始など12項目の内容を発表した。習近平は2023年3月、両会が閉幕して3期目の任期を始めた直後にモスクワを国賓訪問し、「100年間なかった変化が起きており、われわれはともにこの変化の舵を握っている」と述べ、プーチンとの揺るがぬ協力を誇示した。しかし、ロシア訪問から帰国した後、ウクライナのゼレンスキー大統領に電話し、「中国は常に平和の側に立っている」と強調し、綱渡りを歩み始めた。ロシアの侵攻後、習近平とゼレンスキーの初めての電話会談だった。続いて5月、中国はウクライナとロシアを含む欧州諸国に「平和使節団」を派遣した。ユーラシア事務特別代表の李輝が率いる中国使節団は、キーウでゼレンスキーに会った。

 2022年夏から2023年夏まで、中国はなぜ平和仲裁者のイメージを強調したのだろうか。ロシアはウクライナの抵抗に苦戦していて、国際的にもロシアの侵攻と戦争犯罪を批判する世論が強かった。特に中国は、米国と欧州との溝を広げ、欧州を中国側に引き寄せようとした。米国との対立が深まるなか、米国が中国の首を締めている先端技術や貿易と投資で欧州と協力することが、中国にはもっと重要だった。欧州諸国が米国と完全に同じ側にならないようにすることが、中国の一貫した重要な戦略だ。

 しかし、このような中国の「両面作戦」は、欧州では好評を得られなかった。中国は表向きは「中立」を標ぼうしながらも、ロシアの戦争を支援してきた。ロシアの戦争遂行に必要な物資と中国製の製品を大量にロシアに販売し、ロシアが欧州に売れなくなったエネルギーを格安の値段で購入し、巨額の利益を得た。欧州諸国では中国に対する失望と幻滅が強まった。欧州連合(EU)内で中国と最も緊密な経済関係を結んでいるドイツが、2023年7月13日に初となる対中国戦略報告書を発表し、中国をパートナーであり競争者で「体制のライバル」と規定したことは、象徴的なシグナルであった。

 ロシアも密かに反発した。中国がウクライナに使節団を送るなどしてロシアと距離を置こうとする様子を見せると、ロシアはこのような状況をひっくり返そうとした。それが中国の泰剛外相の奇妙な失踪、さらには死亡説と関連があるという報道が流れた。ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が2023年6月25日に北京を訪問した際、中国高官に泰剛外相についての情報を提供し、これが泰剛の粛清につながったというものだ。「ポリティコ」は中国上層部の消息筋の話を引用し、「ルデンコ次官が中国を訪問した実際の目的は、泰剛前外相とロケット軍指揮部が西側の情報機関に利用されていることを習近平に知らせるというものだった」と報じた。特にロシアは、兵器を支援してほしいという要求に中国が応じないことが強い不満だった。中国はロシアの兵器に使う機械や部品は売るが、兵器は提供していない。米国と欧州が設定した「レッドライン」である兵器を提供することで中国の銀行と企業が制裁を受けるのを避けるためだ。

中国の習近平国家主席(左)が5月16日、北京で開かれた非公式会議後、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と抱き合っている=北京/AP・聯合ニュース

 2023年夏を機に中国の態度と戦略は再び変わった。ロシア側に急速に傾いた。このころからウクライナの大攻勢が困難に陥り、戦況がロシアに有利になった。プリゴジンの反乱の危機を克服したプーチンの権力はさらに強固になった。中国が兵器を支援しないことに不満を持っていたプーチンは、9月に極東地域にあるボストーチヌイ宇宙基地で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と会談し、北朝鮮の兵器をウクライナの戦場で使えるようになった。

 特に、米国の2つの大失策によって、中国が動ける外交空間が広くなった。ハマスの攻撃に対する報復に出たイスラエルが、ガザ地区の数多くの民間人を殺害して飢えに追い詰める間、米国はイスラエルを支援し続けた。「侵略者ロシア」を批判していた米国のダブルスタンダードに、国際社会の失望と批判が強くなった。グローバルサウス諸国、特に多くのイスラム諸国が、ウクライナに対する米国の主張に背を向けた。これとともに、米国大統領選が近づくにつれ、同盟国を無視するトランプ前大統領の勝利の可能性が高まった。このような状況で、欧州とアジアの米国の同盟国も、中国との関係を改善して管理することに力を使わざるをえなくなった。ガザ地区に対する米国の政策の失敗、米国内の政治的分裂、トランプと米共和党、欧州の極右勢力のウクライナ支援反対、ロシアがウクライナ東部戦線で有利な状況になったことなど、習近平主席は非常に有利な高台から状況を観望している。

 習近平の損益計算書はどうだろうか。米国がウクライナ戦争をきっかけに、欧州ではNATO、インド太平洋では韓米日軍事協力、オーカス(AUKUS)、クアッド(QUAD)などの同盟網を強化し、中国に対する包囲網をきめ細かくしていったことは、中国には不利な要因だ。中国の台湾侵攻の可能性に対する全世界の懸念が強まったことも、中国にとっては負担だ。

 しかし、ウクライナ戦争を行う過程でロシアは中国にますます依存する従属的な立場になった。冷戦時代には社会主義陣営のリーダーだったソ連と中国は、今では序列が完全に逆転している。ロシアは同等な同盟国ではなく、中国は自分たちの国益に合わせてロシアを管理し利用する余地を作った。プーチンはロシア帝国の復活を夢見ているが、逆説的に、ロシアが帝国の影響圏と考えてきた中央アジアと160年前にロシアが清から奪った地である極東地域では、中国の影響力が強大になっている。

 なによりも、米国に対抗する中ロの共同戦線をしっかり強化したことが、習近平には最も重要だ。5月16日のプーチンと習近平の首脳会談後に発表した約1万3000字の「国交樹立75周年の新時代の全面的戦略協力パートナー関係の深化に対する共同声明」に対して、米国は「冷戦的思考と陣営対決モデルで中国とロシアの安全保障を脅かしている」と非難し、「中ロ関係は冷戦時代の同盟を越え、歴史上最高水準に達した」と強調した。両首脳は軍事と経済、台湾とウクライナ、北朝鮮とパレスチナ問題など全方向での協力を約束した。

 これまで43回も首脳会談を行い、互いの誕生日を祝福して抱擁する姿を誇示してきた習近平とプーチンは、心から信頼しあっているわけではないだろう。ロシアが戦線で苦戦していたとき、中国がロシアと距離を置いたことを、プーチンはよく覚えているだろう。急速に進むロシアと北朝鮮の接近の動きも、中国には好ましくないことだ。ロシアの軍事的支援で北朝鮮が核とミサイルの能力をさらに強化し、事実上の核保有国の地位を固めることになれば、中国は北朝鮮を統制することが難しくなる。1950年にスターリンが朝鮮戦争を起こし、欧州で米国との同盟を弱めようとしたように、プーチンが北朝鮮を利用して東アジアの緊張を高め、米国のウクライナ支援戦線を弱め、アジアにおけるロシアの影響力を回復しようとする意図もみえる。

 習近平も、このようなプーチンの本音をよく知っているだろうが、中ロの「反米連帯」を崩すことはしないだろう。朝ロと「悪の枢軸」の仲間として縛られる状況を避けるため、朝ロ接近とは距離を置くだろうが、中国はロシアと協議して朝鮮半島情勢を管理しうる。当面は習近平とプーチンは、米国の包囲と圧力に対抗するという共同の目標で互いに縛りあった状態で、意見の相違と不満は水面下で管理するだろう。米中対立が高まるほど、習近平とプーチンの「別れる決心」は不可能になる。

パク・ミンヒ|統一外交チーム先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1147443.html韓国語原文入力:2024-07-02 18:36
訳M.S

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