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[寄稿]『三体』の世界に似ていく地球

登録:2024-05-16 20:16 修正:2024-05-17 08:22
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
『三体』=ネットフリックス提供//ハンギョレ新聞社

 私たちにとっての本当の問題は、私たちに迫りくる危機をすべてよく知っていながらも、それを防ごうとは行動しないことだ。私たちが直面する状況は、劉慈欣のSFの傑作『三体』(The Three-Body Problem)に書かれた状況に似ている。3つの太陽が存在する「三体」の世界では、太陽が予測できない周期で昇ったり沈んだりする激しい高熱期と低温期が繰り返され、文明が滅亡し続ける。そこでの人生は、予測できない要素との絶え間ない闘争だ。

 最近私たちが経験している環境のかく乱は、地球が三体の世界のように変化してきていることを示しているのではないか。地球温暖化はもちろん、私たちが目撃する破壊的なハリケーンや干ばつ、洪水は「自然の終末」を示しているのではないか。

 私たちが地球温暖化を考えるとき、英国が荒涼として乾燥した土地になったり、米国のカリフォルニアのデスバレーが大きな湖になってしまったことを思い浮かべるが、気候が極端に変わるだけであり、引き続き気候のパターンはなんらかの規則性を帯びると考えている。

 しかし、最近の研究が示すように、地球の気候はカオスに向かう可能性が高い。カオス系には平衡状態も規則的なパターンもない。季節は10年ごとに、さらには1年ごとに大きく変化し、ある年には突然極端な気候が訪れるが、ある年には何も起きず、気温も低温と高温の間を大幅に行き来しうる。地球の気候がどのような方向に向かうのか把握することは、もはや完全に不可能になるのだ。そうなると、私たちの生存にとって致命的であるだけでなく、季節の反復という自然の原理も消えるだろう。

 地球には3つの太陽がもたらす三体問題はないが、代わりに、生態系の危機、経済的不平等、戦争、無秩序な移住、人工知能の脅威、社会崩壊など、「6つの危機」にともなう問題に直面している。これらの危機は互いに影響を与えあい、三体世界以上に予測が困難な混乱を作る。これらの危機は他の危機をさらに悪化させるだろうか。あるいは、現在の生態系の危機を克服するためには資本主義と戦争を越えグローバルな連帯でつくられた社会秩序に進まなければならない、という理解を与えるだろうか。劉慈欣は作品で驚くべき科学技術の発明を通した介入を想像する。しかし、彼も十分認識しているように、私たちが直面する危機は、基本的には、それぞれ異なる文明の共存と各文明の内部に存在する対立に関連しているという点で社会的だ。したがって解決策は、単なる技術的なもので終わってはならず、社会を新たに組織する次元でなければならない。

 いま一番はじめにすべきことは、迫りくる危機に備えることだ。危機が起きないようにする唯一の方法は、逆説的だが、生態系の危機、戦争、デジタル崩壊のようなことが必ず起きるだろうと考え、それに合わせて行動することだ。最近、ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、「『戦争が起きる直前の時代』という新時代が到来したという事実に慣れなければならない」と述べ、欧州が戦争を目前にしていると訴えた。このように私たちは、危機が差し迫っていると考えて、これを防がなければならない。

 私たちは、重要なことについて自ら自由に決める社会に生きているという事実を誇りに思っている。しかし多くの場合、人生に根本的な影響を及ぼす事案であるにもかかわらず、適切な知識の土台を備えられないまま決めなければならない状況に直面することがある。これは絶望の極みだ。すべてが私たちにかかっていることを知ってはいるが、私たちの行動がどのような結果をもたらすのかは予測できないからだ。私たちは無能でなくむしろ全能な存在だが、私たちが持つ力が及ぼす範囲は決定できない。私たちは、私たちの生物圏(biosphere)を完璧に統制する能力は持つことはできないが、不幸なことに、その均衡を破り人類の存在を危険にする力は持った。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1138425.html韓国語原文入力:2024-04-28 19:06
訳M.S

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