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[コラム]尹大統領の新年対談が教えてくれたいくつかの事実

登録:2024-02-14 02:19 修正:2024-02-14 08:36
チェ・ヘジョン|論説委員
尹錫悦大統領が2月4日、ソウル龍山の大統領室庁舎でKBSの特別対談をおこなっている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 旧正月の連休を控えた8日に公開された尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の音楽映像メッセージは、「話題性」の面ではだんぜん成功だった。映像に付いたコメントには「ワイヤーで大統領が空に舞い上がって輝く太陽になる演出だったら百点満点だったのに」と残念がるものもあったが、大統領が自ら演技と歌まで消化する企画は、そうそう見られるものではない。この珍しい光景が、記者団と出勤途上の問答(ドアステッピング)をしていた大統領室のロビーで撮影されたというのは、双方向コミュニケーションが尹大統領の独壇場に取って代わられた現実を象徴するもののように思える。大統領の義務である記者会見を1対1の対談でチャラにした大胆さとも一脈相通ずる。

 7日に放送された韓国放送(KBS)の特別対談「大統領室を訪ねる」もやはり、旧正月の食卓の主要メニューになったという点では所期の成果をあげたようだ。大統領室のロビーで子どもたちがボール遊びをするのと同じくらい唐突なドキュメンタリー風の構成、大統領が答えやすいように配慮したため哀れにすら思えた質問、ブランドバッグをブランドバッグと呼べない放送に対する批判に加え、これを旧正月の朝に再放送したKBSの果敢さに至るまで、多彩な話題の種を生み出してくれた。

 ただし「ついに」立場を表明すると宣伝していたキム・ゴンヒ女史のブランドバッグ授受疑惑は、「(キム女史が世話になった人の来訪を)きっぱり断ることができなかったために」起きたことだとまとめられ、大統領が答えるべき敏感な懸案は議題にあがることもなかった。ただ、100分あまりにわたる尹大統領の発言をじっくり聞いてみると、彼の意識世界を少しではあるが垣間見ることができるというのが、成果と言えば成果だ。

 尹大統領は、キム女史のブランドバッグ授受事件について釈明した際に、「大統領や大統領夫人は誰に対してもこのように冷淡に接することは難しい」ということを悪用した人々こそ問題だと述べた。自分なら「26年間にわたって司正業務に従事したDNA」を持っているから断固として対応したはずだ、とも述べた。だが「司正業務のDNA」が刻印されているのなら、法と原則に則って捜査を依頼すると表明することこそ正しい。キム女史の前では、そのDNAすら無力化されるということを自認したのだ。

 また、情に厚いキム女史が「きっぱり断ることができなかった」人物は、ブランドバッグを持って訪ねてきたチェ・ジェヨン牧師だけではないだろう。これまでキム女史が「冷淡に接することができずに」会った人物は誰なのか、彼らから受け取った贈り物は何なのか、どのように処理されたのか、などの疑問が生じるのは当然だ。何より尹大統領はキム女史の「関心法案」である犬食用禁止法の他にも「別の事案についても議論することがたびたびあるのか」と問われ、「比較的、妻といろいろな話をする」と語っている。キム女史に国政について相談しているということを公に明らかにしたわけだ。キム女史の「南北問題にちょっと取り組むつもり」という発言は何の根拠もなく出てきたわけではないということだ。

 尹大統領は、共に民主党のイ・ジェミョン代表と会わない理由として「与党指導部を無視することになりうる」と述べた。大統領が野党の代表と指導部に直に会うのは「大統領として政権与党の指導部と党を疎かにする行い」だという。政府が推進する政策は、大半が立法に後押しされてこそ力を得る。少数与党国会においては野党第一党が反対すれば一歩も進めないのに、「与党が気を悪くするのではないか」と心配して野党とは会わなかったということだ。野党に足を引っ張られて仕事ができないと主張してはいるが、実際には国政課題の推進をたいして急いでいなかったことを示す傍証だ。そのうえ、与野がまず会ってから来いというのは、自らを与野党の指導部の上に「君臨」する存在として想定しているという点で適切でない。

 大統領室によると、尹大統領は、今回の対談を準備している間に参謀たちに渡された予想問答を参考にしなかった。国民の前に立つ時、大統領室の参謀陣と熟議して国民の聞きたがっている話を準備する、というのは最低限の礼儀だ。それをしていたなら、少なくともブランドバッグ授受疑惑を配偶者の厳しさに徹しきれない振舞いのせいにするなどという矮小(わいしょう)化を行うことはなかっただろう。尹大統領の即興対談は、彼が誰の言うことも聞かないという事実を確認したこと以外には、いかなる意味も見出しがたい。

 大統領室が自評した通りに「大統領としての重さと信頼」、「気さくで率直な姿」が明らかになったかどうかは、国民が判断することだ。ただ、大統領の歌からも、大統領室の隅々を回ったドキュメンタリー対談からも、肝心の国民が聞くべき話は抜け落ちている。コミュニケーションを求められて「ショーマンシップ」で答えるのは、自信の欠如として映るだけだ。大統領室は「今回の放送対談は最後ではなく、このかん検討してきたコミュニケーションのあり方を引き続き推進する」と述べている。コミュニケーション不在のくびきから脱する唯一の方法は、大統領室もよく分かっているはずだ。

//ハンギョレ新聞社

チェ・ヘジョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1128199.html韓国語原文入力:2024-02-13 18:09
訳D.K

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