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[コラム]誰が尹大統領に「でたらめな経済理論」をささやくのか

登録:2024-01-29 00:35 修正:2024-01-29 09:45
チョン・ナムグ|論説委員
尹錫悦大統領が15日、京畿道水原市長安区の成均館大学自然科学キャンパス半導体館で行われた「国民と共にする民生討論会」で発言している/聯合ニュース

 「長官のみなさんは大変だと思います。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は(半導体について)非常によくご存知なので」

 15日に行われたいわゆる「民生討論会」の3番目のセッションに最初の討論者として立ったASMLコリアのイ・ウギョン社長はこう言った。イ・ジュホ副首相兼教育部長官が「私も専門家ではありますが、入試については(尹錫悦大統領から)私の方が本当に多く学んでいる」(2023年6月19日の政府与党協議)と語ったことを想起させるシーンだった。尹大統領の表情は見られなかったが、討論会の冒頭で16分にわたって行われた発言から推測すると、にんまりしていたのではないかと思う。

 尹大統領はどんなことでも、非常に強い自信を持って推し進める。問題は、でたらめなことが少なくないというところにある。経済に関する事案も例外ではなく、今年に入ってから叫び続けている「コリアディスカウントの解消」は荒唐無稽だとすら感じさせる。

 「コリアディスカウント」という言葉はそもそも、尹大統領の元「後輩検事」のイ・ボクヒョン金融監督院長の口から出たものだ。彼は昨年10月17日、国会政務委員会による金融監督院に対する国政監査で、「違法な空売りがコリアディスカウントの原因として作用している」と答弁した。日曜日だったにもかかわらず11月5日に金融委員会は臨時会議を行い、今年6月まで空売りを全面禁止することを決めた。しかし、これは市場の予想を覆したものだった。イ院長は国政監査で「空売りにも純機能があるため、過度に制約すればコリアディスカウントの原因となりうるとの指摘があるのは事実」だと述べていた。モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が韓国の証券市場を先進国指数に編入しない理由の一つとして「空売り制限」をあげたことを指摘したのだ。

 空売り全面禁止の初日、KOSPI(韓国総合株価指数)は5.7%、KOSDAQ指数は7.3%も高騰した。二次電池株を代表するエコプロとエコプロBMは値幅上限(30%)まで上がった。その後、尹大統領は「コリアディスカウントの解消」を言って回っている。「税金がコリアディスカウントの原因」だという新たな主張が登場している。政府は昨年末、株式譲渡税の課税対象となる大株主かを判断する保有株の時価総額の基準額を、10億ウォンから50億ウォンへと引き上げた。尹大統領は1月2日、証券市場の大発会に出席し、2025年から課税することになっていた「金融投資所得税(金投税)の廃止」を推進すると表明した。

 先進国では証券取引税を課しておらず、投資所得に課税する。韓国もその方向へと進むべく、かなり以前から一歩ずつ歩んできた末に導入が決まったのが金投税だ。大統領の「金投税廃止」発言は、就任したばかりのチェ・サンモク副首相兼企画財政部長官の面目を丸つぶれにした。朴槿恵(パク・クネ)政権で企画財政部第1次官だった際に株式譲渡税の範囲の拡大など、資本所得への課税の強化を推進したチェ副首相は、1月8日に「金投税の廃止は1400万の投資家のための減税」だとし、前言を翻さねばならなかった。

 尹大統領は1月17日の金融分野の民生討論会で、相続税をコリアディスカウントの主な原因としてあげ、改編をほのめかした。この日の発言は多くの人々を当惑させた。一度もそのような研究結果に接したことがなかったからだ。尹大統領は金持ち減税を「株式投資家のためのもの」と言って取り繕おうとして、一線を越えてしまったのだ。

 コリアディスカウントの原因が何なのかは、かなりよく知られている。昨年2月に資本市場研究院が「コリアディスカウントの原因の分析」という報告書を発表している。実証分析の結果、株主還元の不十分さ、収益性と成長性の低さが最も有力な原因として示された。企業の後進的な支配構造も原因の一つと考えることもできるが、説得力は低いと分析された。だが大統領は妙な発言を続け、政策はこじれ、政府省庁は収拾に苦労している。

 韓国ギャラップの調査では、大統領の職務遂行を「支持しない」と答えた人にその理由を尋ねたところ、「経済、民生、物価」が最多だった。大規模な金持ち減税が足かせとなり、財政政策を柱とする経済政策が機能しなくなっていることを、人々は肌で感じている。尹大統領は、2022年7月8日からは非常経済民生会議を、今年に入ってからは民生討論会を自ら主宰しているが、打ち出している民生政策のほとんどは、内実が「金持ち」支持者のためのばらまきだ。もはやだまされる者もない、そのようなでたらめな論理を大統領にささやく人々を追い出さない限り、尹大統領もこの国の経済も未来は遠い。大統領がコリアディスカウントの解消に「すべてを賭け」た1月の1カ月間で、空売り禁止の効果も尽き、株価は大幅に下落した。何か少しでも気づいてくれればよいのだが。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ナムグ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1126202.html韓国語原文入力:2024-01-28 15:31
訳D.K

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