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[コラム]大統領は「セルフ嫌疑なし」するための地位なのか=韓国

登録:2024-01-13 00:58 修正:2024-01-14 10:46
パク・ヨンヒョン|論説委員
英仏歴訪中の尹錫悦大統領と妻のキム・ゴンヒ女史が昨年11月23日(現地時間)、パリのオルリー国際空港に到着し、専用機の空軍1号機を降りて移動している=パリ/聯合ニュース

 大統領室と法務部がこんなことまで言うとは思わなかった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「キム・ゴンヒ特検法」に対する拒否権行使にどのような言い訳をするか予想しつつ、「総選挙のための悪法」だとか「違憲的要素」などと言ってごまかすだろうと思っていた。だが、拒否権行使の理由として出て来たのは次のようなものだった。

 「12年前の結婚もする前のことであり、文在寅(ムン・ジェイ)政権で2年間にわたって徹底的に調査し、起訴どころか召喚もできなかった事件」(イ・グァンソプ大統領秘書室長)

 「文在寅政権時代に、検察が2年以上にわたって、無理筋でやりすぎだとの批判を受けるほど強力に捜査したにもかかわらず、キム・ゴンヒ女史については起訴どころか召喚すらできなかった事件」(法務部)

 この見解には、特検法の内容の問題点についての主張にとどまらず、キム女史の株価操作疑惑そのものに対する有罪か無罪かの判断が含まれている。事実上、「嫌疑はなく、これ以上捜査する理由はない」との判断だ。大統領秘書室長のブリーフィングと法務部の報道資料で言及されているのだから、これは大統領の判断であり拒否権行使の公式の理由だということだ。しかし、この事件は厳然として現在も検察が捜査中の事件だ。捜査中の特定の事件に対して大統領が嫌疑の有無を判断する権限は、憲法や法律のどこにも規定されていない。越権だ。

 言い負かされるのが大嫌いな国民の力のハン・ドンフン非常対策委員長ですら法務部長官時代に、キム女史に対する捜査については「検察が公正に捜査し、公正に処分するはずだと思う」という原則論的な返答にとどまった。「尹錫悦師団」の一人であるソウル中央地検のソン・ギョンホ地検長も国政監査の際、「キム女史の捜査は嫌疑なしで済ませるつもりか」と問われ、「今、捜査が進行中だ」と答えた。「尹錫悦検察」も嫌疑なしで処分できずに握ったままでいる事件だ。だが、驚くべきことに今回、大統領室と法務部はすでに終わった事件扱いした。尹錫悦師団で検察の要職を埋めただけでは足りず、今度はその検察が捜査中の事件に対して嫌疑なしとの結論を下し、決裁印を押してしまったわけだ。そのため、特検の必要性はなおさら高まった。大統領室と法務部が検察に、キム女史を嫌疑なし処分せよという捜査指揮を下してしまったわけで、今後の公正な捜査はさらに期待できないからだ。

 大統領も政治的主張として自分の配偶者は潔白だとの判断を表明することはできるが、それを拒否権という憲法的権限を行使する公式の根拠にしたことは全く別次元の問題だ。非常に危険な憲法からの逸脱だ。今回の拒否権行使が権力の不当な私有化であることを自ら明確に立証したのだ。

 尹大統領が検察総長だった時も、権力の私有化で非難されたことがあった。義母のチェ・ウンスン氏の各種疑惑がふくらみ捜査が進められていた2020年3月、最高検察庁はチェ氏は嫌疑なしとの論理を展開した「総長義母疑惑対応文書」を作成した。最高検察庁がこのように動いてしまったら、その過程で第一線の捜査にも影響を及ぼした可能性が高い。当時、チェ氏の銀行残高偽造疑惑は公訴時効まであまり時間がなかったが、検察は召喚調査もしていなかったため、捜査が生ぬるいとの批判を受けた。最高検察庁は個人の弁護士でもないのに、このような文書を作成してまで義母をかばうのは、公組織の私的使用に他ならなかった。大統領になってからも権力の私有化批判が繰り返されているのを見ると、そもそも公的倫理感覚に問題があるのではないかという疑念がぬぐえない。

 と言っても、単なる繰り返しではない。今回は義母ではなく妻に関する事案であり、尹大統領本人が自分の固有の権限である拒否権を直接使用したという点で、さらに露骨になっている。

 何より大統領は、そのポストの重みが検察総長とは比べものにならないという点で、事態は比較にならないほど深刻だ。大統領は国の運命と国民の生活全体を背負うポストだ。一寸の私事も割り込む余地のないほど公的責任が重い。その責任を果たすよう最高の権限を与えられている地位だ。だがその強大な権限を、妻を守るために私的に使った。それも越権までしながら。それによって尹大統領は、大統領という地位の威信を限りなく墜落させた。大統領職を戯画化し、自分自身も取るに足らないものにした。

 最高検察庁が「義母疑惑対応文書」で「セルフ嫌疑なし」判断を下した銀行残高偽造事件で、チェ・ウンスン氏は有罪が確定し、懲役に服している。尹大統領が「セルフ嫌疑なし」判断の下に特検を拒否したキム女史の株価操作疑惑は、どんな結末を迎えることになるのだろうか。尹大統領の2年前の発言を思い出さざるを得ない。

 「特検をなぜ拒否するのですか。罪を犯したから拒否するのです。真相を明らかにしたり調査したりすれば刑務所に行くことになるから、できないのです」

//ハンギョレ新聞社

パク・ヨンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1123997.html韓国語原文入力:2024-01-11 16:43
訳D.K

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