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[寄稿]尹錫悦政権1年半の外交安保の成績表…「コリアリスク」高まる

登録:2023-12-25 01:31 修正:2023-12-26 17:06
保守支持層は尹大統領のことを、生存(安全保障)、繁栄(国益)、国格という外交安保政策の3大目標を成功裏に達成していると評価している。しかし、逆説的にも国内外では韓国の安全保障に対する懸念は強い。コリアリスクがそれだけ高まっているということだ。これまでの成果を冷静に振り返り、謙遜と慎重、中庸と開かれた姿勢によって外交安保政策を再構成すべき時に来ている。 
 
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授
尹錫悦大統領が9月1日、ソウル瑞草区の国立外交院で開かれた国立外交院60周年記念式で祝辞を述べている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の国政運営に対する国民の評価は厳しい。肯定評価は30%台半ばが超えられない。だが外交安保分野は例外だ。特に保守支持層は尹大統領のことを、生存(安全保障)、繁栄(国益)、国格という外交安保政策の3大目標を成功裏に達成していると評価している。果たしてそうだろうか。

 尹大統領は「力による平和」を主張しつつ、北朝鮮に対する抑止力と韓米同盟を強調してきた。北朝鮮の核に対応する3軸システムの構築を急いでおり、韓米合同演習も急速に増やすとともに強度も高めている。またワシントン宣言を通じて拡大抑止の制度化を具体化している一方、来年夏の「乙支(ウルチ)フリーダムシールド(UFS)」演習では核作戦演習も初めて実施するとしている。韓米日3カ国軍事協力はもちろん、NATOを含む主な友好国との安保協力も強化している。国家安保というアジェンダで自信を示している理由はここにある。

 しかし、逆説的にも国内外では韓国の安全保障に対する懸念は強い。外国の専門家たちはウクライナとガザに続く次の紛争の発火点として、台湾海峡ではなく朝鮮半島をあげている。フランスのある投資銀行が500あまりの投資会社に対しておこなった世論調査は、北朝鮮をロシア、イランと共に世界経済の3大「地政学的リスク」と指摘している。コリアリスクがそれだけ高まっているということだ。南北いずれも先制攻撃と大量報復という攻勢ドクトリンへと転換した中、9・19南北軍事合意は無効になり、南北通信線は全面遮断された。西海(ソヘ)、非武装地帯、東海(トンヘ)での偶発的な衝突が全面的な軍事摩擦、ひいては核戦争へと飛び火する恐れがあると、彼らは懸念している。

 このような懸念は安保環境の変化にも克明に表れている。現政権発足後、北朝鮮は主敵、ロシアは敵対、中国はほぼ準敵対関係と規定されている。それは朝ロ関係の密着と朝中ロ三角協力体制の可視化をうながしつつ、かつての冷戦期の危険な安保環境への回帰を予告している。外交努力を通じた戦争防止ではなく、戦争を辞さないとの論を展開する尹政権の高圧的な攻勢主義も、韓国国民の安保に対する不安を高めている。一方にしか目を配らない外交安保政策がもたらした矛盾する結果だ。

 国益はどうか。尹大統領は就任から90日あまりで25カ国を訪問し、多国間外交の舞台で90カ国あまりと首脳会談をおこなった。経済を重視した外交だ。しかし政府の宣伝とは異なり、肌で感じられる民生経済上の成果はみられない。年明けにアラブ首長国連邦(UAE)から誘致したという300億ドルの投資は、まだ具体的な進展がない。米国のジョー・バイデン大統領は韓国企業から558億ドルの投資を引き出したと自慢しているのに対し、米国の韓国に対する投資は70億ドルにとどまる。英国国賓訪問も似たようなものだ。これこそ、大統領の首脳外交は韓国経済の空洞化現象を招く「ばらまき」自傷外交ではないかとの批判の声まであがっている理由だ。

 経済安保にも赤信号がともっている。尿素水問題を見てみよう。2021年には67%だった中国からの輸入の割合が、今年は再び91%に上昇している。中国への依存を減らし、貿易先の多角化を図るという政府の政策は理解できる。しかし「経済、技術同盟」の構築という過度な米国偏重は、韓中の経済関係に否定的なブーメランとなって戻ってきている。韓日関係をみてもそうだ。関係正常化のために尹政権は、強制動員の第三者弁済、福島第一原発の核汚染水放出の容認など、破格の譲歩を繰り返した。しかし、それに相応する日本の相互主義はない。これも「引き算の国益外交」と言わざるを得ない。

 グローバル中枢国家へと飛躍するという「国格(国家地位向上)」戦略も、やはり成績はみすぼらしい。2030釜山(プサン)万博誘致の失敗が端的な例だ。主要7カ国(G7)などの先進国の支援は得たが、「グローバルサウス」という大きな壁は越えられなかった。「米国追従国」という国際的イメージが悪材料として作用したといううわさも聞こえてくる。自由、人権、民主主義の十字軍を自任する韓国の「世界報道の自由度」ランキング(国境なき記者団による評価)は、2019年の41位から2023年には47位に下落している。エコノミストの民主主義指数でも、韓国の順位は2021年の16位から2022年には24位に下がっている。尹大統領がRE100にとって代わるものとして野心的に打ち出した「無炭素連合」構想に対する国際社会の反響も冷淡だ。

 国民的合意の導出の失敗はさらに深刻だ。国民を敵味方に分け、考えの異なる人々を反国家勢力と規定するイデオロギー過剰な独断と傲慢は、大きな災いを招きかねない。まだ間に合う。何よりも、これまでの成果を冷静に振り返る姿勢が必要だ。その基礎の上で謙遜と慎重、中庸と開かれた姿勢によって、韓国の外交安保政策を再構成すべき時に来ている。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1121648.html韓国語原文入力:2023-12-24 18:21
訳D.K

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