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[寄稿]イスラエル批判が反ユダヤ主義?

登録:2023-12-13 23:25 修正:2023-12-14 09:15
西欧民主主義の矛盾と退行 
 
イ・ウヌ|フリーライター、ジャーナリスト
親パレスチナのデモ隊が10月12日(現地時間)、催涙ガスが漂うフランスのパリ広場を行進している。フランス内務省はこの日、パレスチナの武装党派ハマスによるイスラエル攻撃後、自国内で反ユダヤ主義犯罪が急増しているとして、パレスチナを支持するすべてのデモを禁止した=パリ/AP・聯合ニュース

 イスラエルでは、パレスチナとの絆を表現した人々の家には石が投げつけられる。パレスチナに関するSNSへの投稿に「いいね」を押すだけでも警察に連行される。米国ではイスラエル軍の民間人虐殺を糾弾する大学サークルが解体され、パレスチナ支持発言をおこなった人々が解雇されている。英国ではパレスチナ関連のブックツアーと音楽公演が取り消され、内務相は公共の場でのパレスチナ国旗の掲揚を違法とみなしている。フランスは一切の親パレスチナデモを禁止した。ドイツはデモの大半を解散させた。

 反ユダヤ主義とテロリズムを阻止するというのが大義名分だ。実際にイスラエルとハマスとの戦争勃発後、ユダヤ人に対する人種差別発言やシナゴーグ(ユダヤ教会)へのテロ脅迫など、反ユダヤ主義とテロリズムを助長する事例は増加している。指弾されて当然だ。しかし問題は、イスラエル政府の歴史的、軍事的な汚点を合理的に批判する声までもが反ユダヤ主義と見なされ、黙殺されているということだ。

 反ユダヤ主義が政治的に歪曲され、悪用されている。ユダヤ人が経験した歴史的迫害が繰り返されるのを防ごうとの趣旨だったが、反イスラエルに反ユダヤ主義のレッテルを貼る余地も残した。欧州と北米の諸国からなる国際ホロコースト記憶連盟が2016年に採択した反ユダヤ主義の定義と事例は、「ユダヤ人の民族自決権を拒否すること」を含む。これは、彼らの政治的独立と主権を尊重し、彼らの運命の決定に対する外部の圧力を排除する、ということを意味する。これを実現するイスラエルの国策に対する批判が反ユダヤ主義であると解釈される余地が残る。イスラエル人たちと話すと、「ユダヤ人の土地」に異邦人たちの立つ場所はない、という論拠がよく登場する。

 イスラエル国家安全保障省は今年、パレスチナのヨルダン西岸地区内の40万人にのぼる違法なユダヤ人入植者に武器を支給した。注目がガザ地区に集まったこの2カ月間で、100あまりのパレスチナ人コミュニティーが消えた。ユダヤ人入植者たちはパレスチナ人の家に火をつけ、抵抗者たちを銃殺したり、パレスチナ人コミュニティーへの水と電気の供給を断ったりして彼らを生活の場から追い出した。民族浄化と入植者植民地の典型だ。占領された領土では、パレスチナ人はユダヤ人と同じ施設は使用できない。人種分離政策と強制移住こそ、歴代のイスラエル政権の「自決権の行使」だった。入植者が領土拡張を計画するグループチャットルームには国会議員もいる。

 イスラエルの大統領は、ハマスに対する責任はガザ地区内のすべてのパレスチナ人にあるという。国防長官はガザ地区をすべてひっくるめて「我々は動物と戦っている」と述べた。相手の非人間化は人種差別の極地であり、虐殺の先行条件だ。ハマス根絶を根拠としてパレスチナの共同体を消し去りつつあるのだ。しかし、このすべてのイスラエルの政策は自衛権と真のユダヤ国家建設という政治的権利の行使の一環なのだから、それに対する批判は反ユダヤ主義となる。今年のイスラエルのパレスチナに対する行為を人種差別とみなすのも、反ユダヤ主義のひとつのタイプに分類されている。

 西欧諸国が認めた反ユダヤ主義の実例の中には、「ユダヤ人によって言論、政治、政府や社会施設が握られている」という陰謀論の主張もある。米国の大学はユダヤ人寄付者の反発でイスラエルを批判する教授陣の口を封じ、強大なユダヤ人団体のロビー活動が米国の対内外政策を左右している。ニューヨークだけでも100万人以上のユダヤ人がおり、米国で出世するためにはイスラエルに対して口を閉ざさなければならない、というのは公然の事実だ。フランス内の50万人のユダヤ人の結集力は政界や経済界で恐るべき影響力を行使しており、反ユダヤ主義糾弾を装った親イスラエル集会には政界の大物たちが大勢集った。にもかかわらず、このような実状に言及することは反ユダヤ主義となる。

 反ユダヤ主義の政治化の裏には反ムスリム主義がある。フランス政府は、戦争勃発からこれまでに1千件を超える反ユダヤ主義犯罪が報告されていると言っているが、ほとんどはアラブ系移民がパレスチナを象徴するものを振りかざしたりスローガンを叫んだりしたケースだ。フランスとドイツはいずれもムスリム人口が100万人を超えており、極右による反ムスリム人種差別が極に達している中、反ユダヤ主義を防ぐとの大義名分の下に、政界とメディアは自国のムスリム移民をヘイトクライムに走る犯罪者に仕立て上げている。

 イスラエルに対する支持と歴史的贖罪(しょくざい)が、地政学的な利害関係と反ムスリム感情という病に侵されている。新疆ウイグル地区とウクライナで起きている反人倫犯罪を糾弾し、全世界の人権と自由を志向するという、いわゆる自由陣営の矛盾だ。数十年間にわたってパレスチナのアラブ人がさらされてきた差別と苦難を代弁する「フリーパレスチナ」の叫びを反ユダヤ主義だとして一蹴することは、表現の自由と平和的デモを誇りとする西欧圏の民主主義の退行である。

//ハンギョレ新聞社

イ・ウヌ|フリーライター、ジャーナリスト (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1120288.html韓国語原文入力:2023-12-13 18:19
訳D.K

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